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願いを叶えて 1

「無茶を言うものではない」


 戻ってきた神は、こめかみを押さえながら碧玉に言った。


「割れた物を元に戻すことなどやってはならないのだ」


 彼が出かけた先でどんな話をしたのかは分からない。訊いていいのかどうかも分からず、碧玉もあえて問わなかった。代わりに彼女は今日の出来事を報告していた。

 廟の中を掃除したこと。男の子がやって来て、願い事を告げたこと。


「でも」


 碧玉は思わず唇を尖らせていた。


「それじゃああの子の願いは叶わないってことですか」


「叶えられない願いは叶わないものだ」


「叶えられないってことは、叶えられるってことですよね」


「……そなた、細かいところに気づくのだな」


 青年はため息をついた。それ以上何も言わなかったが、碧玉は確信する。


「やっぱり直せるんですね。そうですよね神様ですもんね!」


「できるかどうかと、やるかどうかは話は別だ」


 ぱあっと明るい顔になった碧玉と違って、三秋の顔は晴れない。


「一度でもそんなことをすれば、人間の願いは止まらなくなる。あれを直してくれ、これを戻してくれ――最後には何を言い出すか分かるか?」


「いえ」


「死んだ人間を生き返らせろだ」


 それはできない。彼はそう言ってかぶりを振る。


「神に向いていない私でも分かる。それは許されないことだ。世界には曲げてはならない摂理というものがあるのだ、そなたも分かってくれ」


 含めるように告げられて、碧玉は最初言い返せなかった。


 死んだ人を生き返らせろ。そんなことは言わない、とは言えない。自分も両親を亡くした時はそう思った。そのためなら何でもすると思った。何でもできるとさえ思っていた。

 きっとその思いだけでも危険だ。


「……じゃあ……」


 一瞬浮ついた気持ちはもう落ちていた。碧玉はうなだれたまま問いかける。


「あの子の持ってきた花瓶は、どうすれば……」


「当面はそのままにしておけばいい」


 三秋の言葉はそっけなかった。


「一度は見に来るだろうし、割れたままであればあきらめもつく」


「せっかくお参りに来てくれたのに」


「他の願い事なら考えないでもなかったのだが」


 痩躯はひょいと肩を竦めた。


「こればかりは仕方がない。もっと簡単で単純な願いであればよかったのだ、恋人が欲しいとか、失せ物を見つけて欲しいとか。今回は運が悪かった、諦めよう」


 それより、と彼は荷物を取り出す。朝は手ぶらで出かけたので、これは出かけた先で仕入れたもののはずだ。


「他の廟に行ったのだが、妻を迎えたと言ったら色々土産を持たせてくれた。だからこれはそなたのものだ、好きにするがいい」


「……」


「人間のそなたのことを気遣ってくれた。食料は当面困ることはあるまい。反物もある、夏と冬の拵えに当てればいいだろう。――どうした?」


「……わたし、あの子のこと知っているんです」


 昔実家があった場所にいた職人の子供だ。くるくるとよく動き回る利発な子供だ。


「あの子は頭のいい子なんです。割れた物を直してくれなんて、そんなことを言うような子じゃないんです」


 碧玉の両親と同じように、父親を流行り病で亡くしてしまった。その後、出入りしていた店の主に見初められて、子供連れで嫁いでいった。

 新しい家でも真っ直ぐに育っていると聞いていた。


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