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第7話 苦悩 in the トイレ

「だいじょうぶ、みやちゃん? まだ気分わるいの?」


 私が転生したこの世界は現代日本などではなく、カレイドプリンセスの世界であり、私――黒岩宮子が生まれ変わったこの身体は、正真正銘本物の黒帳くろとばり美夜みや様のモノ。


 そんな衝撃的事実に、昼休みから放課後までずっと頭を抱えていた私を心配して、ひかりちゃんが頭をよしよししてくれる。


「よし、私ひかりちゃんと結婚しよう、そうしよう」

「ひえっ!? け、けっこんって……み、みやちゃん何を言って!?」


 うは、心の中で呟いたつもりだったのに、口に出ていたらしい。

 ひかりちゃんは困ったように顔を真っ赤にしながら俯いてしまっている。

 友達の女の子に結婚しようって、アホか私は!

 こんな時くらいは限界オタク腐れ脳も自重しろよオイ!

 

「あああ、ひかりちゃんごめんね、変なこと言っちゃって。ちょっと心の声が……」

「こころのこえ? ……じゃあ、やっぱりさっきのって……」


 ひかりちゃんが『けっこん……でも……みやちゃんなら…………』とモジモジ何か言っているがよく聞こえない。


 これは……気分を悪くさせてしまったに違いない。

 ひかりちゃんは、両親の離婚で辛い思いをしているはず。

 なのに、考えなしに結婚なんて言葉を使ってしまったのだから当然だ。


 発言には気をつけないと……。


 とはいえ、今の混乱した状態では、また何を口走るか自分でも分からない。

 一度、状況を整理しないと。 


「ひかりちゃん。わたし、ちょっとトイレ」 


 まずは落ち着けるところに行こう。

 ふらふらと教室を離れ、トイレの個室に入ると、私は下着を降ろすでもなく、頭を抱えたまま便座に腰を下ろす。


「状況を整理しよう」


 私の名前は黒帳美夜。

 顔も名前も、カレプリの黒帳美夜様と一緒。

 クラスメイトのアイドル好きの女の子は、日野ひかりちゃん。

 名前も顔も設定も、何もかもがカレプリのお散歩アイドル日野ひかりちゃんと一緒。


 ──そして。


 この世界にはアニメ『カレイドプリンセス』の世界にあった、〝カレイドシステム〟や〝エターナルスター学園〟が存在している。


「やっぱりただの偶然なんじゃ…………って、そんな偶然あるわけないだろ、こんちくしょう!」


 間違いない……。


「この世界は、私が前世で人生をかけて愛しハマっていた『カレイドプリンセス』の世界なんだ……」


 いや、いやね……実は薄々分かってはいたんだよね。結構前からなんかちょっとおかしいなーって。

 家にあるカレンダーの元号が〝令和〟じゃなくて、カレプリで使われていた架空の元号〝麗和〟になってたしさ。


 でも、気付かないフリしてたんだよォォォ。


 そりゃカレプリは好きだよ。超好きよ。

 でも、転生して自分がアニメの世界に放り込まれるなんて信じられないじゃん。想定の範囲をオーバーキルしてるじゃん?


「ただでさえ思考停止して、鬼畜的ルーチン作業だけをこなして生きてきた社畜アラサーには、とてもじゃないけれど飲み込めない現実だよ……」


 美夜様と同姓同名の美少女に転生できただけでも土下座からの三点倒立で許しを請いたいくらいだというのに……。

 この私が――捻じれたペットボトルこと黒岩宮子が、よりにもよって本物の美夜様に転生するだなんて……。


「何というギルティ」


 三点倒立からブレイクダンスで地中に潜りたいくらいの不敬だよ。

 ファンへの冒涜だよ、ホント。


「うっはぁぁぁ、胃に穴開きそう」


 いや、胃に穴が開くとか泣きごと言って済む問題じゃない。私の胃なんて全摘して供物に捧げても足りないよ!

 

「みやちゃんだいじょうぶ?」


 心配してくれたのだろう、個室の外からひかりちゃんの声がする。

 私はこれ以上ひかりちゃんに心配をかけないよう、何とか冷静を保ったふりをしてトイレの個室から出る。


 ──今は平静を保って、これからのことは家に帰ってから考えよう。


 そう考えて気持ちを持ち直す。

 だがそんな私を待っていたのは――。


「やっぱりぐあいわるいの? ひかりがしんさつしてあげよっか?」

「へ? 診察?」

「うん、だからみやちゃん……おようふくめくっておなか見せて?」

「へ? え? んぁぁぁぁぁなぁぁ!?」


 ──大好きなアイドル(幼)からの、お医者さんプレイのお誘いだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ああ! こんなに早く百合の花が咲くとは思いませんでした。 文句は言ってないよ、それは確かだ。
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