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第10話 美夜とひかり

 コンクールが終わった後、私は控室のすみっこでダンゴムシになっていた。

 涙が止まらない。痛くて、悔しくて、悲しくて。


 ──客席の最前列にはひかりちゃんの姿があった。


『一番大好きなお友だちだから、絶対に観に来て欲しい!』と、両親に駄々を捏ねて、ひかりちゃんを招待してもらった。

 ひかりちゃんにも『絶対に一番になるから。世の中に不可能なんて無いって、私が証明してみせるから!』と伝えてあった。


 ──なのに……どうしてこんな。


 本番の前日に足を痛めるなんて、こんな最低なことがある?

 神様は私の運命を落としたり、持ち上げたりして弄んでいるんじゃないかとさえ疑う。


「こんなんじゃ、ひかりちゃんがアイドルになってくれないよぉ……」


 カレプリの設定通りに、バレエのコンクールで優勝して、感動してくれたひかりちゃんをアイドル界に誘う。

 それが目標だったのに、失敗してしまった……。

 自分なんかがアイドルになるなんて無理だと、夢見ることを諦めてしまっているひかりちゃん。

 彼女が前に進むための後押しをしてあげたかったのに……。


 再び大粒の涙がこぼれた。ぼろぼろと止めどなく溢れ出た。

 私は、自分を卑下ひげして何もしないまま死んでしまった前世の自分と、最初から夢を諦めてしまっているひかりちゃんを、いつの間にか重ねてしまっていたのかもしれない。


「前世であんなに後悔したのに、生まれ変わっても、私はまた何もできなかったんだ……」


 そんな想いに締め付けられ、控室で膝を抱えたまま動けなかった。

 ひかりちゃんへの申し訳なさと、大好きなカレプリの世界を自分が壊してしまった罪悪感で嗚咽した。


「はぁ、はぁ、……みやちゃん? だいじょうぶ?」


 そんな私に掛けられたのは、息の上がった必死な声。それでいて幼く可愛らしい、でも精一杯のいたわりの声。

 視線を上げると、そこにはひかりちゃんがいた。

 走って来てくれたのか、ぷっくりとした頬は桃色に上気し、小さな肩は酸素を取り込むため大きく上下していた。


 私を心配して迎えに来てくれたのだろう。


「ひ、ひかりちゃん……えぐ、ごめん。ごめんね……絶対一番になるって約束したのに……あんなカッコ悪い……ふぐぅぅええ」


 泣きながらひかりちゃんのお腹に顔をうずめる。

 大の大人が、幼女に抱き付いて泣きじゃくってしまう。


「かっこわるくなんてないよぉ。みやちゃん、すごいきれいだったよ。すごく、すごく、すてきだったよ」


 そう言って、私の頭をよしよしと撫でてくれるひかりちゃん。

 なんだコレ、幼女に甘やかされるという変な背徳感にクセになりそう……ってそうじゃなくって!


「嘘だよ……だって一番どころか、最下位だし。練習通りに全然できなかったし……私、格好悪かったでしょ」

「ううん、そんなことない。みやちゃんは誰よりもかっこよかった。すてきだったよ」

「格好悪くなかった? 素敵だった? じゃ、じゃあ、ひかりちゃん、私と一緒にアイドルになってくれる!?」

「え? え? みやちゃんといっしょにアイドル? なんのはなし? きゅうにどうしたの、みやちゃん?」


 訳が分からず、頭に?をいくつも浮かべるひかりちゃん。


「私、ひかりちゃんと一緒にアイドルになりたいの! だから、ひかりちゃんが自分なんかじゃアイドルになれないって言ったとき、凄くショックで……だから、バレエコンクールで優勝するところ見せたら、ひかりちゃんがアイドルを目指す勇気をあげられるんじゃないかって……それで……」

「みやちゃんがアイドル? バレエのコンクールでいちばんになったら、ひかりといっしょに?」


 事態が飲み込めないのか、キョトンとした顔で頭を傾けるひかりちゃん。

 それもそうだ。よくよく考えると、バレエに感動したからアイドルを目指すって変な設定だもの。

 そんないい加減さもカレプリらしくて良いのだが……当事者にとっては理解に苦しむところだろう。


 だが、そんなひかりちゃんを置いてきぼりに、私のアイドル愛に火が灯ってしまう。


「そう、私、黒帳美夜はアイドルになる。エターナルスター学園に入学して、トップアイドル、スタープリマになるの! でも、その隣にはひかりちゃんに居て欲しい。二人でユニットを組んで、歌って踊って……私は、ひかりちゃんとずっと一緒に居たい! 私はひかりちゃんが欲しいの!」


 この世界には、お散歩アイドル日野ひかりが絶対的に必要なのよ!


「え、え、あの……ひかり……のことほしいって……みやちゃんはひかりのことが、好き……なの……?」

「もちろん! 愛しているわ!」

「っ!?」


 涙と鼻水でぐずぐずになった顔で答える。

 お散歩アイドル日野ひかりちゃんは、世界に無くてはならない太陽の宝石! 

 カレプリ廃人厨たる私が、愛していないわけがないじゃない!


「………………えっと……その……」


 真っ赤になって俯いてしまうひかりちゃん。

 少し肩が震えている。スカートの裾をギュッと掴んで、何かを必死に考えているみたいな。

 

「……みやちゃんは、ひかりのことが、すき……ひかりのことが好きなんだ……」


 聞こえないくらいの小さな声で、ぼそぼそと何かを呟いているひかりちゃん。

 アイドル愛が強すぎたかな……怖がらせてしまったかもしれない。

 何かフォローしなければ、とアタフタしていたところで、ひかりちゃんが顔を上げた。


「あの……ふつつかものですが、すえながくよろしく……おねがいします」


 桃色に紅潮した頬と、前髪に隠れた潤んだ瞳。

 でも、しっかりとした決意の表情とともに、ひかりちゃんはそう言ってくれたのだった。

 

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