54.光Vs闇
ヴァイオレットは思い切ってすべてを打ち明けてみた。
最後まで黙って聞いていたブロムベルグ様は
ヴァイオレットがすべてを話終えると
しばらくの間、目を閉じて考え込んでいらした。
(うまく伝えられたかしら)
ヴァイオレットとリガロは固唾を飲んで見守っていた。
「話は理解しました。
約束はできませんが、その方にお会いしてみましょう」
そう言って優しく微笑んでくれた。
そして後日、体調も万全だという事なので
お屋敷まで来て頂いた。
アダラードさんは、相変わらず虫の息でベッドに横たわっていた。
「こちらがお話したアダラードさんです」
ブロムベルグ様は、ベッドの横に立ちアダラードさんの体に
施された服従の紋章をみつめていた。
「これはやっかいですね。
中途半端に魔術がかかっています……。
おそらく刻まれている途中で何かが起こったのね」
そうなのか、だから右半分だけに紋章が刻まれたのか
ということは、本当は全身に刻むつもりだったって事!?
ヴァイオレットはその事実に驚愕していた。
リガロとフェリックスも目を見開いた後
痛ましそうにアダラードをみていた。
「美しい白虎さんと逞しい熊さん。
この方の肩と足を押さえておいてくださる?」
「へっ?」
ブロムベルグ様の物騒な注文に、一瞬二人の獣人は
面食らった顔をした。
「頼みましたよ」
そう言いながら、まず顔の右半分に刻まれている
紋章に黄金の光を当て始めた。
すると、刻まれている紋章が嫌がるように動き始めた。
(ヒィィィイ……なんか気持ち悪い)
声とかが聞こえるわけではないのだが、紋章が断末魔を
あげて抵抗しながら消滅している気がした。
もちろんアダラードさん自身も痛いのか……
叫びながら暴れた。
そして、数十分後……
顔と首とデコルテまでの紋章が奇麗に消えた。
「ふぅ……。
今日はこれくらいにしましょうかね……。
無理に解除することは、私にもこの方にもよろしくないわ」
そう言ってブロムベルグ様は、アダラードさんから
手を離した。
と、とたん後ろに倒れそうになったが
すばやくリガロが抱きとめた。
「大丈夫ですか!?」
「フフフ……私も年を取ったわね。
昔は一日中このように魔力を使っても
まったく疲れ知らずだったのに、年は取りたくないわね」
そう言って、恥ずかしそうに頬を染めた。
「いえ、全力を尽くしてくださり
ありがとうございます」
ヴァイオレットを筆頭にそこにいたものすべてが
ブロムベルグ様に感謝の意を表した。
心なし、アダラードさんの顔色もよくなった気がする。
きっと体と心を蝕むものが減ったからだと思う。
「続きは、明日また行いましょう。
恐らく今日の夜は、残りの紋章が抵抗して
苦しむだろうから、様子を見てあげてね」
「わかりました」
そしてリガロは、そのままお姫様抱っこをしたまま
ブロムベルグ様の馬車までお送りした。
「いつぶりかしら、お姫様抱っこをしてもらうなんて」
ブロムベルグ様は、少女のように恥じらっていた。
それから3日かけてブロムベルグ様は
アダラードさんの紋章の解除を行ってくれた。
その頃には、アダラードさん自身も復活していた。
「本当にありがとう。
なんとお礼を言っていいかわからねぇ……」
そう言って涙ぐみながらヴァイオレットに
何度も頭を下げた。
「困ります……頭をあげてください。
実際に服従の紋章を解除したのは、ブロムベルグ様のお力です。
それに私は、兄を救いたいという野望がありまして……
その為には、アダラード様のお力を借りたいという
邪な考えもあったりします」
ヴァイオレットがバツの悪そうな顔でそう言うと
アダラードはキョトンとした顔をした後に大爆笑をした。
「ハハハハハ!!
全く……正直なお嬢様だ。
かまわねぇぜ、俺だって色々思惑がある」
そう言って獰猛に笑った。
「ところで、あなた程の実力のある方がこんな事になるなんて
何があったのですか?」
「どこから話そうか」
思い出しているのだろうか、アダラードさんの眉間の皺が
どんどん深くなっていった。
ざっくり言ってしまえば
金と権力に眩んだ“神官長”の反乱と言ったところだ。
アダラードさんが言うには、その背後には第2王子がいる
との事だった。
要は、お約束の権力争いだ。
そこに付け込んだ神官長が起こした事件らしい。
それに巻き込まれた、第3王子と兄とうちの国の王子……。
とばっちりもいいとこじゃないの!!
第3王子は、権力争いの中では、低い順位にいるらしい。
何故ならば、半分獣人だからだ。
しかし、国民からの人気は一番高い。
そういえば……
アダラード様が心の底から使えている方だ。
(あー、だからもし私がゴリゴリの悪役令嬢コースなら
暗殺されちゃうのね、この方に)
あのフラッシュバックした場面を思い出し
ヴァイオレットは複雑な心境に陥った。
たとえ、低い継承順位でも王子には変わりなく
第1王子に味方するとまずいので、どこかに軟禁して
いるという状況なのだとか。
そこに、うちの兄達もおそらくいるはず。
ちなみに第1王子さまは、遠い国に留学中だとか……。
その間に国を乗っ取る作戦か!
いやーないわ。
なんなのその神官長!!
その秘密を知ってしまったアダラードさんを
暗殺しようとしたけれども、魔法と剣の使い手の騎士団長を
やすやすと葬れるはずもなく……。
業を煮やした神官長は、騎士団を罠に嵌め
アダラードさんをおびき寄せた。
そこで第3王子の命と引き換えに……
服従の紋章を刻まれそうになった。
仲の良いお兄様達に助けを求めようとされると困るので
お兄様達も一緒につかまったらしい……。
しかしその最中に、お兄様達が一瞬の隙をついて抵抗したお陰で
なんと逃げ延びてあの路地にたどりついたとの事だった。
さすがお兄様、ただ黙ってやられるわけないわよね。
そしてあの暗号文の答え。
黄金のネズミは、宝石箱に移動させた!
これはおそらく、第3王子とお兄様達の事。
神殿の奥にある神の間と呼ばれる“黄金の部屋”。
そこは、王族と神官長しか入れない特別な部屋で
閉じ込めておくにはもってこいの場所らしい。
だいたい状況はわかった。
おそらく王様と王妃様も人質になっているのだろう。
「相手も焦っている。
一刻の猶予もない、来週には第1王子様が帰国する予定だ。
その前に終わらせたいと考えているだろう」
ヴァイオレットは表情を曇らせた。
「心配しなくてもいい。
ここから反撃開始だ、俺を敵に回したことを
後悔させてやる」
そう言ってアダラードさんは不敵に笑った。
そして、ディアーク達もまぜて作戦会議をひらいた。
わざと罠にかかったふりをして、お兄様たちの救出と
悪の神官長をうつ作戦を練りに練った。
もう一度、服従の魔法をかけられたらどうしようかと
心配をしたが……
禁忌の魔法なので、同じ魔法は同じ人に2度かけられない
ものだという事がわかった。
「普通、この手の魔法は解けないものだからな。
ブロムベルグ様は、本当に稀有な魔術師様だぜ」
アダラードさんは、尊敬の眼差しでブロムベルグ様を
見つめていた。
「フフフ……ありがとう」
潜入する為に、偽りの文様を魔法でアダラードさんに
刻んでもらっている。
これは、神官長を油断させる為だ。
余談だが、香辛料屋に捕らわれていた方達も救いだした。
やはり、騎士団の方達だった。
ただ唯一、服従の文様を刻まれていた青年も
ブロムベルグ様に魔法を解いて貰った。
青年は副団長だった。
これで、お兄様達を救える。
ヴァイオレット達に希望の光が見えてきた。




