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49.当たりをひいた……

キャロットとフェリックスを連れて例の香辛料の店に向かっていた。


ディアークの情報によると……

今日は隣国から荷物が届く日らしい。


もし何かのやり取りをしているのなら、こちらの国の裏切り者も

炙り出せる可能性があるわね。


ヴァイオレットは何食わぬ顔をして今日も店に入った。


店主はヴァイオレットとキャロットの顔を見ると

嬉しそうに駆け寄ってきた。


「これはお嬢様とおつきの方々……

これはいい時にいらっしゃいましたね!

新しい商品が入荷いたしました、ぜひご覧になってください」


店主はそういうと、小太りの男に目で合図すると

その男はパンパンと二回手を叩いた。


すると奥から男たちがたくさんの香辛料を持ってきた。

裏で働いている男たちだろう。


今日は客の前に出るからだろうか、皆比較的に小綺麗な

恰好をしている。


でも、首には隷属の首輪がつけられていた。

目には光がなくただ主人のいう事を忠実に行う機械のようだった。


「…………」


この人たちには禁忌の魔法は刻まれていない。

やはりあの青年は特別なのだろうか……。


店主はすべて運ばれた品をぐるっと見渡すと男に言った。


「あれはどうした、とっておきのものがあっただろうが」


「あ……あれはまだその準備が」


何故か小太りの男は急に焦り始めた。


「いいから持ってこい」


店主は珍しく声を荒げた。


ヴァイオレット達はこっそりと目をあわせて頷いた。


(あやしい……

もしかしたら黒幕は店主ではなく、この小太りの男なのか?)


そこに禁忌の魔法をかけられた青年が小袋を持って

部屋に入ってきた。


「ご主人様……遅くなりました、これを……」


それを店主はひったくる様に取って

ヴァイオレットにみせた。


「お嬢様……

今朝届いたばかりの“ヴァニラ”でございます」


(これはヴァニラビーンズだわ!!

やったぁぁぁ、これで美味しいバニラアイスが作れる)


ヴァイオレットは心の中で密かに小躍りをして喜んだ。


「まぁ……こんな珍しいものまで取り扱いがあるのですね」


そう言ってヴァイオレットは飛び切りの笑顔を振りまいた。


「いかがでしょうか、これだけの物は他の店にも

ないと思われますが……」


店主は窺う様にもみ手をしながらヴァイオレットをみた。


「もちろんあるだけ頂くわ」


「あ……ありがとうございます!!

おい残りの分を全て持ってこい!」


「はい、こちらが全てでございます」


そう言って禁忌の魔法をかけられた青年は

3つの小袋をフェリックスに渡した。


「な……そ!それは……あの……」


小太りの男は真っ青になりながら冷や汗をかいていた。


「なんだ、何かあるのか?」


店主は訝しんで小太りの男を見た。


「いや……その、赤いリボンのついている物は

既に予約の方がいらっしゃいまして」


目を白黒させながら、男はしどろもどろになりながら

なにやら酷く焦っているようだった。


(怪しい……。

まさかこの小袋はもしやもしやの物なのか!?)


「予約だと?私はそんな話は聞いていないが、誰なのだ?」


店主は首を捻っていた。


「その……あの……それは……」


「なんだ、私にも言えないないのか……。

お前まさか私に黙って横流しなどしているのではないだろうな」


ますます店主は小太りの男を冷ややかな目で見つめた。


「いえ、滅相もございません。

そんな事は決して、はい……その……お嬢様。

どうぞすべてお持ちください」


そう言って男は頭を下げた。

しかし拳を握って何かに耐えているように思えた。



代金を払って店を出て……

しばらく歩いている時の事だった。


いきなりフェリックスがヴァイオレットの腰を抱いた。


「フェリックス!?」


ヴァイオレットが驚いたように目を見開くと

フェリックスはそっと耳元で呟いた。


「男たちにつけられています。

恐らくこの小袋を取り返しに来たのだと思います」


キャロットも目を見開いて固まった。


「中身を確認したいところですが時間がありません。

あいつらを撒くために二手に別れましょう」


フェリックスの言葉にヴァイオレット達は二つ返事で頷いた。


そして深く呼吸をして、心を落ち着かせた後に

さりげなく……でも周りに聞こえるように言った。


「私……疲れたわ

お茶をして帰るから、あなたは荷物を持って先に

家に帰ってくれる?」


お嬢様らしく少し我儘そうにそう言い放った。


「畏まりましたお嬢様。では後は任せたぞ」


そう言ってフェリックスは胸に手を当てて頭をさげた。


こうしてヴァイオレットとキャロットは

フェリックスと別れたのだが、まだ二人程男がついてくる。


「キャロット……どうしよう。

いきなり走り出すのも怪しいし……」


「お嬢様、顔が引きつっていますよ。

大丈夫です、普通を装えばあいつらも諦めます」


ヴァイオレットとキャロットは手を繋ぎながら

大通りを目指して歩いていた。


市場の道は入りくんでいて狭い。

そもそも店が奥の路地の狭い場所の一角にあるのだ。


いくつもの道を通り大通りへと向かうのだが

相手は必ずついてくるのだ。


(雇われたものではないな。

地元の者の可能性が高い、道を知り尽くしている)


ヴァイオレットはギュッとキャロットの手を握った。


そしてようやくあともう少しで大通りという道で

二人は男たちに退路を塞がれた。


「おっと……お嬢ちゃんたち……。

俺たちが何もしねえうちに品物を全部おいていきな」


男たちは愉快気に口元を歪めた。


「…………」


ヴァイオレット達は聞こえないふりをして通り過ぎようとしたが

1人の男が前に立ちふさがった。


「俺はあまり気が長い方じゃないんでね」


そう言って少し苛立たしげに髪をかきあげた。


「どちらさまですか?

なんの事でしょう、私たちは何も持っていませんが」


さも迷惑だと言わんばかりの表情でヴァイオレットは睨みつけた。


「急いでいるので失礼します」


そう言ってその人達を振り払ってキャロットと

通り過ぎようとした時に強引に手を掴まれた。


「痛っ……、放してくださる」


キャロットも同じようにもう一人の男に捕まれている。


「少し痛い目を見ないとわからないようだな」


男がヴァイオレットの服に手を掛けようとした瞬間

その男が横に吹っ飛んだ。


キャロットがその男にハイキックをかましたのだ。

もう一人の男は既にキャロットが倒していた。


「お嬢様大丈夫ですか?」


「キャロットって見かけによらず強いのね」


「ウサギの脚力は実はかなり力があるんだよ」


そう言って照れ笑いしながら、服についた埃を払いながら

キャロットがヴァイオレットに近づこうとした時の事だった。


何者かがヴァイオレットの背後から飛び出してきて

そのまま鈍く光るものを振り下ろそうとしたのだ。


もう一人敵が隠れていたことを二人は知らなかった。


「お嬢様!!」


悲鳴のような声を上げながらキャロットは

ヴァイオレットの元へ急いだが間に合わなかった。


ヴァイオレット自身も振り返り、自分に迫るナイフをみて

恐怖に体が震え固まってもはやもう動けなかった。


(もう一人いたなんて……

フェリックス大丈夫かな……)


自分が危ないのにそんな事がふと頭に過った。


が、その男は何故かヴァイオレットに届く前に

きりもみ状に回転しながら上に吹っ飛んだ。


「えっ?」


「えぇぇぇ?」


ありえない展開にヴァイオレット達は何が起きたのか

理解できなかった。


するとその横の狭い路地からなにやら大きな塊が出てきた。


「うっせんだよ……

人がせっかくいい気分で寝てたのによぉ」


ボロを纏った厳めしい男が腹を掻きながら出てきた。


きっとこの男が先ほどの暴漢を倒してくれたのだろう。


頭をバリバリかきながら二人を胡乱げに上から下までみた。


「…………()()()()()()()()()か……」


元は金髪の髪だったのだろう。

でも今は薄汚れていて見るも無残な色になっていた。


いつから剃っていないのだろうというくらいの無精ひげ。

アクアマリンの瞳が迷惑そうに細められた。


「痴話げんかはよそでやれ……」


そう言い放った男の風貌をみて二人は息をのんだ。


なぜならば……あの青年のように……

男の顔の右半分から足まで文様がびっしり入っていたからだ。


(うそでしょう……)


失礼だとは思いながらも、ヴァイオレットはその男の文様から

目が離せなかった。



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