表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/55

47.禁忌の魔法

今日は市場に来ています。

どうやら隣国からきた商人が新しく香辛料の店を開いたらしい。


もちろん香辛料も気になるけれども……

ついでに隣国の様子なんかも聞いちゃおうかな

なんて目論んでいたりする。


そこで接客のプロな上に……

()()()()()()のキャロットと強面のフェリックスをお供に

今まさに向かっているところだ。


「お嬢、はぐれないでくださいよ」


そう言ってがっしりとフェリックスに手を繋がれていた。


「もう……子供じゃないんだから大丈夫よ。

先日14歳になったのを知っているでしょう!

もう立派なレディなんだから!」


そう言いながらヴァイオレットは口を尖らせて頬を膨らませていた。


「フフフ……そう言うところがお子様ですよ」


そう言ってキャロットはヴァイオレットの頬をつついた。


「もう!キャロットまで酷い」


ますます膨れるヴァイオレットであった。



きゃぁきゃぁ言いながら、その香辛料のお店の前まで来ると

スパイシーな香りが辺り一面に広がっていた。


その店は市場の奥まった所にあった。

しかしその分スペースも広く、種類も豊富な店だった。


店主は威勢のいい屈強な親父さんだった。


「たくさんあるから見て行ってくれ。

少量でも売るからな」


「ありがとうございます」


ヴァイオレットはひとまず商品を見ることにした。


その間キャロットがさりげなく、親父さんと話をしている。


(おぉ……!!

早速キャロットの美少女ぶりに親父さんの鼻の下が伸びている)


なにやら話が弾んでいるようだった。

さすがキャロット!!


「おっ……シナモンがある。

フェリックスこれを買うわ」


「不思議な香りがしますね……」


「これはかなり色々なものに使えるのよ。

おっ……ブラックペッパーもいいわね……」


ヴァイオレットは密かにテンションが上がっていた。


そんな時にどこからか大きな声が聞こえてきた。


何気なくその声がする方向の窓をみると

店の勝手口だろうか裏側の景色が目に入ってきた。


どうやら屈強な男たちが、店の商品を運んでいるらしい。


しかしどうもその人達がよろしくない。

なんと足かせがついていたのだ!


(まさか奴隷?

百歩譲って獣人ならまだわかる……。

わかっちゃうのもどうかと思うけど……)


でもどうみても人だ……。

なぜだろう……。


その人達をこき使っている小太りの男が怒鳴っている。


「早く運べ!!

これが終わらないと飯抜きだぞ」


そう言いながら鞭を振っている。


男たちはボロボロの服を着て虚ろな目でただ黙々と

商品を店の奥に運んでいた。


何ともいえない表情でヴァイオレットがその様子を見ていると

傍を通った若い商人が呟いた。


「隣国で罪を犯した人が奴隷に落とされて

働かせられているらしいですよ」


「えっ!」


ヴァイオレットは驚きのあまり目を見開いた。


「大きな声じゃ言えませんが……

この街のどこかにその人達の市場があるとか……」


「…………」


「フフフ……。

お嬢様には刺激が強い話でしたね……。

これは失礼いたしました」


フェリックスが慌ててヴァイオレットの元に

やって来るのが見えたのだろう。


その男は踵を返して店の外に足早に出て行った。


「お嬢! 

俺から離れないでくださいって言ったじゃないですか。

誰ですか?先ほどお嬢に話しかけてた若い男は」


「知らない人……」


その男はフードをすっぽりと頭から被っており声と体格で

かろうじて若い男だとわかるだけで怪しげな男だった。


「なんだって!?」


「よくわからないけれど、隣国の情報を一人で喋って

そのままいなくなったよ」


ヴァイオレットも困ったように肩をすくめた。


「怪しいですね……」


一先ず怪しまれないように、いくつかの香辛料を大量買いした。


大型顧客になると思ったのだろう……

店主の親父の態度もかなり軟化した。


「申し訳ないのですが、流石にうちの護衛1人では

この量を持ち帰れませんわ。

もしよかったらお店の方をお貸願えませんか」


ヴァイオレットは上目づかいで店主に懇願してみた。


ヴァイオレットもキャロットに負けないくらいの

美少女である……。


店主の親父はそれはもうデレまくって……

1つ返事で奴隷らしき若い男を1人貸してくれた。


先程の人達よりも小綺麗な青年だった。


しかし首に隷属の首輪がつけられている上に

首から胸元に刺青のような紋章が刻まれていた。


それをみたフェリックスは顔を顰めていた。


「なんなりとお申し付けください」


そう言って青年は深々とお辞儀をした。


その青年に馬車まで香辛料の袋を運んでもらった。

作業が終わると帰ろうとしたので、家までくるように言った。


しかし青年はきっぱりと断ってきた……。


そこでヴァイオレットは、家でも仕事をしてもらう為に

店主に多めに金額を払って納得済みだと青年に伝えると

渋々と馬車に乗ってくれた。


チラリとその青年の横顔をみた。


今は薄汚れているけれど薄いグリーンの髪

それと同じグリーンの瞳をした凛々しい青年だった。


20代前半くらいだろうか……

体つきも細マッチョだ……。


知的な感じがするので、恐らく参謀タイプだな

なんて勝手に妄想していたら、ばっちりと目があってしまった。


その青年は一瞬びっくりしたように目を見開いたが

やがて切なそうに微笑んで目を逸らした。


(一体隣国で何が起きているのだろう……)



屋敷につくと青年は黙々と働いてくれた。


その間見張る様にみていたフェリクスがポツリと言った。


「あの男の首元に入っている文様は……

服従の文様だ……。

本来人には使ってはいけない禁忌の魔法だ」


「えっ!まさかそんな事が!?」


ヴァイオレットは衝撃を受けた。

申し訳ないと思いながらも青年の文様にくぎつけになった。


「あの男……隣国でかなり高い地位にいたのだろうな」


「どうしてそう思うの?」


「普通なら隷属の首輪で十分なはずだ。

それなのに更にそんな禁忌の魔法まで課せられるとなると

かなり重要な秘密を持っていてそれを喋らせない為や

もしくは敵側にまわらせない為とかだな」


フェリックスは思案するように顎に手をかけた。


「確かに身のこなしと言い、話し方といい……

もしかして貴族の方かもとは思ったけど……

フェリックスの話をきいたら信憑性がおびてきたな」


ヴァイオレットも眉間に皺をよせた。


「ねぇ……何とかして服従の文様を解除できないかな。

そんな重要な人物なら、こっちの陣営に引き入れたい」


「難しいですね……。

かなりの上位クラスの魔法使いか神官じゃなければ

無理じゃないでしょうか」


フェリックスは苦しそうな表情でそう言った。


「そうだよね……無理だよね……。

そんなお知り合いはいないし……駄目か」


そこにその青年がやってきた。


「仕事が完了いたしました。

お手数ですが、この書類にサインを頂けますでしょうか」


そう言って書類を出してきた。


どうやら買った品物を確かに受け取りましたという

旨の確認書類だった。


「はい、ちゃんと確認いたしました。

作業してくれてありがとうございます。

お昼の時間になってしまったから

よかったらご飯でも食べて行って」


ヴァイオレットがそう言うと青年は首をふった。


「私には身に余る行為です」


そう言いながらお暇しようとしていた青年だったが

信じられないくらいお腹はぐうぐう鳴っていた。


「…………」


「………………」


青年は耳まで真っ赤になりながらバツの悪そうな顔をした。


「フフフ……。

ダリアの作るご飯は美味しいの。

遠慮しないで食べて」


そう言って青年をむりやり食堂に案内した。


今日のランチは“ハンバーグ”だ。

付け合わせにジャーマンポテト、アスパラガスのチーズ焼き。


それにライスかパンを選んで食べる。

デザートにはチョコレートケーキがついてくるのだ。


青年は一心不乱にご飯を食べていた。


よほど美味しかったのだろう……。

なきながら食べていた。


しかも自分だけこのような美味しい物を食べて

すまないと独り言のように呟きながら泣いていた。


きっと店に残してきた仲間たちを思っているのだろう。


「ありがとうございました。

これで何日かまた生き長らえそうです……」


そう言って青年は深々と礼をした。


恐らくまともにご飯など貰えない環境なのだろう。


ヴァイオレットは青年に色々聞きたかったが

フェリックスの言葉を思いだし飲み込んだ。


きっと何か聞いても禁忌の魔法で喋れなくなっているだろう。

青年を余計に苦しめるだけになるだけだ。


だからせめてこれだけは……


ヴァイオレットは紙にそっと書いたものを青年にみせた。


それを読んだ青年は、切なそうに微笑んで指で表した。


(あと4人もいるのか……)


ヴァイオレットは、スティックケーキをパラフィン紙に包み

そっと青年のズボンのポケットにいれた。


「これならちいさくて見つからないと思うわ。

これは腹持ちもいいし、栄養価も高いの

あとで他の方達とこっそりと食べて」


青年は涙ぐみながら何度も頭を下げていた。

そしてそのまま店へと帰っていった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ