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46.隣国への道

その次の週も、またその次の週も大盛況だった。


相変わらずリガロが人気第1位のようだった。

予約枠の調整が大変になりそうだ。


まだ確信的な情報は何も掴んでいないが……

今は焦らず仲良くなることが大事よね。


その中でオリビアさんから有意義な情報を貰った。


この街から隣国に入る為には、かなり厳しい審査があり

旅人や一般の人、さらに貴族であっても数日かかるらしい。


しかもその半分が待たされた挙句に、許可が下りないのだ。


でも特定の商人だけは、パスを見せるだけで

すぐに関所を通過できるとの事だった。


もちろんアクス商会はその特定の商人にあたる。


これは堂々と隣国に入れるチャンスなのではないか!?


ヴァイオレットは個人的にオリビアさんと交渉する事にした。



「およびだてして申し訳ございません」


ヴァイオレットはオリビアに対して

ソファーに座る様に促しながら……

リガロにお茶の用意をするように目配せをした。


「いやぁ、お嬢様にはいつも楽しませて貰っているからね」


そう言ってオリビアはヴァイオレットの後ろに控えている

エリアスを見て意味深な笑顔を浮かべた。


「まずはうちのシェフの新作のケーキをどうぞ」


そう言って数種類のスティックケーキをだした。


「おぉ……これはまた美味しそうだ。

それにどれも見た目が美しい……」


そう言って嬉しそうに目を細めるとパクリと1つ食べた。


「これは旨い!!」


「気に入ってもらってよかったです。

オレンジケーキは見た目も可愛い上に美味しいですよね。

因みにこちらのスティックケーキの日持ちは……

3ヶ月もあるんですよ!」


そういいながらヴァイオレットは

チョコ味のニューヨークブラウニーを食べた。


「そんなに日持ちするのか……。

小さいし……携帯食にもいいな……」


感心するように、スティックケーキをまじまじみていた。


旅人が持っていく携帯食はあまり美味しくないのが定番だった。

干し肉や硬いパンが主流だ。


お金に余裕のある人は、干した果物やクッキーなどを

買うくらいであまり種類もなかった。


しかし旅人は皆必ず何かしら買うので、商会としては

携帯食はかなり売れゆきを見込める大事な商品だった。


それ故にそれぞれの商会が、いかに美味しい携帯食を

販売できるかを日々競っているのだ。


オリビアは他のスティックケーキを何本か食べた後

紅茶を一口飲むとヴァイオレットに言った。


「さて、お嬢様はこのスティックケーキの専売販路を

うちにして下さる代わりに……

私に何を望んでいるのでしょうか?」


そう言われたヴァイオレットは、微笑みながら頷く。


「さすがオリビアさん……すべてお見通しでしたか。

是非“アクス商会”の力を借りたいのです」


「なぜ私なんだ?

商会ならもっと大きな所だってある」


訝しく思っているのだろう……

窺うような目線をヴァイオレットに投げてきた。


「それはオリビアさん自身を信用しているからです」


「…………」


互いに真剣な目で見つめ合い、しばし沈黙の時が流れた。

そして、その沈黙を破ったのはオリビアだった。


「お嬢様の気まぐれな案件じゃないのだな」


オリビアは改めてまっすぐヴァイオレットと向き合った。


「はい、私の全てをかけている案件です」


「…………」


「わかった、話を聞こう」



そしてヴァイオレットは、話始めた……

行方不明になった兄を探しに行きたい事をオリビアに訴えた。


「ですから、どうしても隣国に行きたいのです」


「お嬢様の事情と気持ちはわかった。

かなりの案件だったな……まいったな……」


オリビアは頭を抱えて情けない声をあげる。


「2~3日時間をくれないか……。

かなり綿密に計画を練らないとこれは危険な問題だ。

ミーシャにも相談しないと私の一存だけではきめられない」


エリアスはミーシャの名前をきくと一瞬ビクッとした。


「わかりました」


その日はそのままオリビアは帰っていった。



「どうでしょうかね……」


リガロは紅茶のお替りを注ぎながらヴァイオレットの顔をみた。


「五分五分といったところかしら……。

きっとオリビアさんの事だから、隣国に留学した兄の事も

調べると思うわ……。

そうしたら自ずと私の正体もわかってしまうわね」


そう言いながらゆっくりと紅茶をひと口飲んだ。


「それはかなりマズイのではないのですか。

もしお嬢様が生きていることをあの人達に知られるような

事があったらかなり危険です」


エリアスは顔面蒼白になりながらそう言った。


「そうね……大変よね……。

そうしらたまた皆でどこかに逃げないといけないわね」


そう言いながらもちっとも大変そうな感じではないヴァイオレット。


「お嬢様……危機感なさすぎですよ。

オリビアさんが裏切ったらどうするのですか」


獣耳と尻尾を下げながらエリアスはオロオロしていた。


「なんとなくなんだけど大丈夫な気がするの。

あの時あのお店でオリビアさんと出会った事は

偶然とは思えないの……」


「お嬢様……」


「人との出会いって何かしら意味があると思うのよね。

もちろんいい出会いばかりではないよ。

でも中には自分にとって大事な出会いっていくつかあるの。

オリビアさんとの出会いは、そのうちのひとつの気がするの」


ヴァイオレットは嬉しそうに二人を見つめて言った。


「もちろんリガロとエリアスに出会ったことは

私にとって最高の出会いのひとつだからね」


「お嬢様……」


リガロは目を丸くした後に、照れくさそうな顔で目をそらした。

しかし尻尾が嬉しそうに高速回転していた。


「俺も妹もお嬢様に出会えた事は幸運でした」


エリアスも感動に打ち震え、尻尾がユラユラと揺れていた。



それから二日後……

オリビアさんからOKの返事を貰った。


来月の頭に隣国の支店の様子を見に行くらしい。


その時にお供として連れて行ってくれることになった。

私の他に護衛として2人まで連れて行けるらしい。


1人はもちろんリガロだけど……

あと1人はどうしようかな……。


先方の気持ちを汲んでここはやはりエリアスかしら。


本当はフェリックスが1番なんだけど……

そうすると執事喫茶を閉めないといけなくなるし。


そんな事を悩んでいるさなか……

まさかあんな出会いがあるなんて、夢にも思っていなかったわ。



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