43.おかえりなさいませ、お嬢様!
ついにこの日を迎えた。
皆さん来てくれるかしら……。
今日はプレオープンだから、基本的には招待状を渡した人のみだが
1人だけ友人枠で招待できることになっている。
今のところ紹介制でじわじわと進めて行こうと思っている。
まだ執事の人数も少ないし……
そもそもそんなに大きな部屋を開放していない。
1テーブルに1人の執事という具合だ。
つまりフェリックスは裏方に徹するので……
5つのテーブルしか用意していない。
慣れてきたら2倍ほど広げようとは考えている。
あくまでも高級サロンなのだ。
街中のカフェのように薄利多売は考えていない。
普段は何か起こらない限り表には出ないが
今日はオーナーとして挨拶をする予定だ。
因みに……
信じられないほど気合が入ったメイド服を着せられている。
ユージーンの最高傑作らしい。
そういうのいらないんだけど……。
先程も私の姿をみて感極まって叫んでいたわ。
「うぉぉぉぉぉ!! マーベラス!!
まさに俺のミューズが降臨した!!」
スマホがあったら連写されて画像を永久保存フォルダか
何かに入れられていただろう。
やっぱりあの人は天才だけどヤバい人だ。
そんなユージーンの姿をみている
リガロの心底冷えた視線がいっそう怖さを増していたわ。
ユリアお母様も可愛いわ……って
凄く褒めてくださったけれど、違う違う……そうじゃない。
あくまでリガロ達が主役だから。
次回作も期待して下さいって、目を潤ませていたわ……。
後で厳重注意だな。
そんな事を思い出しながら若干遠い目になっていると
何やら門の方が騒がしくなってきた。
招待された方達がどうやら到着したようだった。
まずは入り口わきの小部屋でいったん待って頂くのだ。
これは後々、お客様を入れ替える際にお客様同士が
顔をあわせないようにするためだ。
もちろんこの部屋の内装も抜かりはありません。
調度品は一級品の物を取り揃えております。
ここでは、ダリアさんが作ったちょっとしたお菓子を
自由に摘めるようにしている。
今日は、苺のキャンディーと苺味のプチメレンゲだ。
一番初めにきたお客様は……
領主様の奥様と三女のダイナ様だった。
そしてお友達のご令嬢だろうか、これまた貴族らしい
お母様と少し勝気なお嬢様が一緒にいらしていた。
その後にいらしたお客様は、アマーリアさんだ。
お友達なのだろうか……
上品そうなふんわりとした雰囲気の20代くらいの女性と一緒だった。
そして3番目のお客様は、未知のお客様だった。
ユージーンさんのお兄……いや、お姉さまのご紹介の方だ。
銀縁の眼鏡をかけた細面の女性だった。
姿勢もよくきりっとした真面目そうな女性だった。
4番目のお客様は、街のカフェで私がナンパしたお姉さんだ。
明るくてスタイルが抜群の気さくな女性だった。
(勝手な推測だけど、自立している女性だと思った。
おそらく自分の能力を職業にしている人だ。
もしくは商会を経営しているとか……
なにか女社長的な匂いがしたのだ。
だから思わず声を掛けてしまった……)
部下だろうか、ちょっぴり小悪魔的な少女と一緒に来ていた。
最後のお客様は、セバスの古い友人の方だった。
優しそうなおばあ様だった。
でもきっと名のある方だろう……。
佇まいといい、けっして派手ではないが仕立てのいい服。
お付きの女性もまた知性を感じさせる妙齢の女性だった。
(うっ……なんかオーラーが凄い。
セバス……恐るべし)
年齢も身分も違う女性たちがひしめていた。
ここから始まるのね……。
ヴァイオレットは気合を入れて皆の前に出て行った。
「ようこそお越しくださいました。
オーナーのヴァイオレットと申します」
全員の視線がヴァイオレットに注がれた。
「ここから先は夢のような世界だと思ってください。
あなたの為だけに執事が尽くします」
少しお客様達がざわついた。
それは期待に満ちたと言うべきか……。
未知の物への興奮のようなものだった。
「その前に1つお約束がございます。
こちらの扉をくぐりましたら、すべての方が
“お嬢様”になります。
そこには、年齢も身分も関係ありません。
全員が等しく“お嬢様”です。
それだけはお守りください」
今度はちょっぴり困惑したざわつきが広がった。
するとあのおばあ様が嬉しそうに胸の前で手をあわせて言った。
「嬉しいわ……。
何年ぶりになるのかしら……。
“お嬢様”って呼ばれるのは」
その言葉をきいた周りの女子達もそう思ったのか
一気に華やいだ雰囲気に戻った。
「いいねぇ、私はうまれてこの方一回も呼ばれた事ないよ。
なんかこそばゆいがたのしみだねぇ」
そういってカッコいいお姉さんは豪快に笑った。
(すごいな……あのお方。
一言でこの場の空気を変えちゃったよ、やっぱり只者ではない。
あとでユリアお母様に聞いてみようかしら
セバスはどうせホッホッホッって笑って教えてくれないだろうから)
ヴァイオレットは内心ほっとしながら周りを見回した。
その時だった……。
準備ができたのだろう、扉が開かれた。
リガロ達が整列しているのが見える。
そして全員が声をあわせてこう言った。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
そう言って、胸に手をあてて頭をさげた。
きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!
とは叫び声は聞こえなかったが、全員が息をのむ音は聞こえた。
心の叫びの“かっこいいぃぃぃぃぃ!!”は
不思議と聞こえた気がする。
よしよし、つかみはいいわね。
ヴァイオレットは密かに悪い顔で微笑んでいたとか、いないとか。




