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4.専属秘書

無事に会議も終わり部屋を出ていこうとしていた時だった。


「青山さん、もしよかったら今度飲みにいきませんか?」


どこからか猫なで声が聞こえてきた。


振り返ると……

我が部のエースが早速三谷さん達に捕まっていた。


(さすが肉食女子、狙った獲物は逃しませんか)


すみれはあきれながらもそのバイタリティーだけは

密かに感心していた。


しかし青山は困ったように辺りをキョロキョロ見回した。


(えっ?私を巻き込んでくれるなよ)


そんな願いも空しくすみれを見つけるとほっとした表情になり

そのまま彼女たちを振り切ってこちらに歩いてきた。


「悪いな、今日は先約があるんだ。じゃぁな」


爽やかな笑顔を振りまきながらきっぱりとお断りをする。


そのまますみれの背中を押しながら

エスコートするように一緒に会議室を後にした。


お陰様で背中には刺すような視線が突き刺さっている。


「ちょっと、私を生贄にするのはやめてくれない。

一回くらいつきあってあげたらいいじゃない」


すみれは青山をジト目で睨んだ。


「冗談だろ」


そう言いながら青山は、心底嫌そうに吐き捨てた。


この男……表の顔と裏の顔が極端に違う男だった。

外見がいいのは勿論のこと仕事もできる。

だからもてるのもわかる。


あと腐れない女とばかり付き合っているだとか

お嬢様の婚約者がいるとか

なにかと女の噂がつきない会社一の色男である。


しかし実際は超絶口が悪く、中身はかなり腹黒い野心家の男だった。


「俺は頭の悪い女は嫌いなんです。

あいつと付き合うメリットが見いだせない。

そんな所に無駄な時間と労力を割くわけがないじゃないですか」


青山は不機嫌を集めたような顔で口元を歪ませた。


「相変わらず最低ね……」


「せめて九条部長くらいの女になってから出直して

こいっていってやりたいくらいですよ」


そういいながらすみれの腰を抱こうとしたので

書類で叩き落とした。


「セクハラで訴えるわよ。

さ、戻ったら先ほどの会議のまとめを話しましょう」


そんな青山をさっさとおいて、自分の席へと戻るすみれだった。


「俺はけっこう本気なんだけどな」


青山は頭をかきながらほろ苦く笑った。




すみれは昔から常に冷静であった。

なんでも卒なくこなし、優秀であった。

なまじ顔が美人であるがゆえに誤解もされてきた。


すごく喜んでいるのに伝わらなかったり

見た目からか大人っぽいものを与えられてきた。


本当は可愛いものが大好きだ!!

ちまっとしたものやモフモフで可愛い物が大好きなのに

周りの期待を裏切るのが怖くて言い出せなくなっていた。


だからこっそり買い集めては、家で一人眺めていた。



そんなある日……

心結が部長に昇進したばかりの時だった。


うっかりモフモフ柴犬のチャームがついた

家の鍵を会社で落としてしまった。


誰のだと騒ぎになったのだが……

あまりにも可愛らしい物だったので自分のだと言い出せなかった。


実際に拾った人はすみれにだけは、持ち主かと聞いてこなかった。


(どうしよう、家に入れないわ)


内心すみれはオロオロしていた。

その時だった、自分の秘書の西園寺エリカが徐に手をあげた。


「その鍵、私のです」


「えっ?」


フロアー中が、一瞬静まり返った。


「嘘だろ、イメージなかったわ」


「あの外見でモフモフ好き?」


そんなヒソヒソ声がきこえてくる程の衝撃だった。


この西園寺エリカという女性はちょっとした有名人だった。

なぜならこの会社創設者の孫娘だったからである。


いわゆる社長令嬢だ。


顎のラインで切りそろえられた黒髪

細く筋の通った鼻筋、切れ長な瞳。


チタンフレームの眼鏡も嫌味じゃない……

高級スーツをビシッと着こなした知的美女だ。


なぜかそのお嬢様が私の専属秘書だ。

歳は6つ下である。


入社説明会の時に気に入られたようなのだが

何かあったかな?

未だに理由がわからない。


で、私が部長に昇進した際にいきなり専属秘書になった。


社長直々に“うちの娘をよろしく頼むよ、ハハハッハ”

と言われた時には固まったわ。


西園寺さんは何故か私をウルウル瞳で見つめていて

顔が真っ赤に染まっていたよ、うん。


このまま嫁に貰わないといけないの?

くらいの勢いだったわ。


その彼女がいきなりとんでもない事を言い出した。


「さ……西園寺さんの鍵だったんだ。じゃぁ、はい」


鍵は西園寺さんの手へと渡っていった。


「持ち主もみつかったことだし。皆仕事に戻れ~」


本部長のツルの一声に、みんなそのまま通常業務へと戻った。


(えっ?えぇぇぇぇぇ。

どうすんのさこれ、どういうこと?

全く解決していませんが)


すみれはモヤモヤしたまま席に戻った。

と、同時に一通のメールが届いた。


差出人を見ると西園寺さんからだった。



モフモフ柴犬は預かった。

返して欲しければ、退社後この場所に来い。



そう書いてあり、下にお店の地図であろうURLが貼ってあった。


(うちの子誘拐された?

犯人からの要求文か?)


とりあえず、わかりましたと返信はしておいた。



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