38.執事の心得
ヴァイオレットは壁に貼った大きな紙の前に立っていた。
「それじゃあ……最終確認をするわよ」
「はい、お嬢様」
リガロをはじめ、表舞台に執事としてたつメンバーが
執事服をビシッと着こなし一列に並んでいた。
ヴァイオレットは、執事心得を作った。
細々したルールはあるが、大きい約束事は主に3つだ。
それをまとめて、皆の控室の壁にポスターにして貼りだした。
今まさにそれを指し棒で指し示しながら読み上げた。
「1つ、常に笑顔で接客する事!」
「2つ、言葉遣いは丁寧にする事!」
「3つ、基本的にはお客様との恋愛は禁止します!
ただし、本当に恋人同士になりたい場合を除きます。
その時は、執事を引退して裏方もしくは他の仕事に
ついてもらいます。
以上、この3つは厳守してください」
「はい」
全員が力強く頷いた。
そこにリガロが付け加えるように言った。
「それから……
お客様からの個人的な贈り物を受け取ったり
お屋敷以外でのデートのお誘いを受けることも禁止です」
「えっ!お菓子とかでも駄目なの?」
シャルが残念そうに獣耳をさげた。
「駄目です。
一度受け取ってしまうと贈り物攻撃がとまらなくなります。
それ以上に自分自身の身の安全の為にも禁止です。
毒物混入や危険な魔術などがかかっているかもしれませんしね……」
「そっか……わかった」
シャルは素直に頷いた。
「あくまでも執事という立場を忘れないようにしてください。
私たちは疑似恋人ではありません。
節度のある行動を心がけてください。
適度な距離感が大事なのです」
リガロはそう言って全員を見渡した。
「そこが一番難しいところだと思うけれど皆よろしくね。
その都度何か問題が起きたら考えましょう」
「はい、お嬢様」
「それからスタンプカードはそれぞれ持ったわね?」
「はい」
「初めてのお客様には、自分の名刺代わりにこれを渡してね。
2回目以降のお客様には、自分のマークの判子を押すこと」
ヴァイオレットは、スタンプカード制を導入することにした。
何度もリピートしてもらうためだ。
それぞれの名前と自分の柄の模様が入ったカードを作成した。
リガロのスタンプマークはもちろんトラだ。
フェリックスはクマだし、キャロットはウサギ
シャル達はネコだ。
因みに20ポイント貯まると……
その月に開催されているフェアのアフタヌーンティーセットが
無料になるという特典がつくことになっている。
30ポイントが貯まると……
お気に入りの執事と何かしら交流できるイベントを
と思っているが、まだ具体的には考えていない。
庭のガゼボで花鑑賞をしながらプチデートとか?
直筆のバースディカードが貰えるとか?
何が喜ばれるのかしら……。
あまり距離感が近くなってもよろしくないから。
皆の負担も大きいし、お嬢様たちにとっても健全じゃないから
加減が難しいのよね。
考えてばかりじゃ始まらないから……
とにかく走り出すしかないのだけれど。
ヴァイオレットは人知れずひとりごちた。




