表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/55

37.お墨つきを頂いた!

立派な門構えの前でヴァイオレットは気合を入れていた。


「よし、行くわよ、リガロ、セバス」


「はい、お嬢様」



三人は領主の館の貴賓室に案内された。

どうやらお客様だとは認識されているらしい。


この街でのヴァイオレットの立場は一般市民だ。

貴族ではない……。


メイドさんが入れてくれた紅茶を飲みながら主を待っていた。


「お待たせしたかな……」


そう言いながら上品そうな柔和な笑顔を浮かべた

ご夫妻が部屋に入ってきた。


(思っていた印象よりも普通な方だな……)


ヴァイオレットの第一印象はそんな気持ちだった。

この国境の街はある意味、この国の最前線だ。


辺境伯が治めていると聞き及んでいたので……

屈強な男性を想像していたのだ。


「いえ、こちらこそお忙しい中、お時間を割いていただき

ありがとうございます」


そう言って挨拶をしてセバスに目配せをする。


セバスはフェリックスが作った焼き菓子の詰め合わせを

そっと差し出した。


「我が家のシェフが作った物です。

お口にあえば幸いです」


そう言ってヴァイオレットは飛びきりの笑顔で微笑んだ。


「まぁ……こちらが噂のお菓子ですね」


そう言って奥様は嬉しそうに微笑んだ。


(えっ?どういう事かしら……)


ヴァイオレット達が不思議そうに首を傾げていると

ご夫妻はさらにニコニコしながらこう告げた。


「先日は娘が世話になった」


そう言うと後ろの扉が開いて、1人の少女がやってきた。


「ダイナちゃん!!」


先日シャルが保護した少女が、猫のぬいぐるみを抱きながら

ご夫妻の横に座った。


「ダイナ様は領主様のご息女でしたか……。

そうとは知らず失礼いたしました」


ヴァイオレットが慌てて頭を下げると……

奥様は柔らかい口調で更に続けて言った。


「迷子になった娘を保護してくださったそうで

その時にネコさんに助けられて、とても美味しいお菓子を

振舞って頂いたと毎日その話ばかりするのですよ」


心なし目を潤ませながら嬉しそうに話した。


その当の本人は周りをキョロキョロ見回していた。


「ネコさんはいないの?

今日はトラさんだけなの?」


そう言ってリガロの獣耳と尻尾を見つめていた。


「ネコさんは、お家でお留守番をしています」


「ネコさんに会いたい……」


そんなダイナをみてご夫妻はますます目を潤ませている。


(なんだろ……この感じ……)


何とも言えないご夫妻のダイナに対する態度に

違和感を覚えていた。


そこに侍女がやってきてダイナにそっと告げた。。


「お嬢様……そろそろお時間です」


「はい……。

お姉さん……

また一緒にお茶会がしたいですって

ネコさんに伝えてくれる?」


名残惜しそうにしていたが……

真剣な眼差しでヴァイオレットにそう言った。


「はい、シャルに必ず伝えます」


その返事をきくとほっとした顔になり……

そのまま侍女と部屋を後にした。


ヴァイオレットは無言のまま紅茶を飲んでいた。


(これは……

ご夫妻が話始めるまで黙っている方がいいかな)


やがて……領主様がポツリと語りだした。


「ダイナは一番下の娘です。

生まれつき体が弱く……

ほとんど外に出ることが叶いませんでした。

そのせいなのか、人と接する事も極力嫌っていました」


(あんなにシャルと打ち解けて楽しそうだった

ダイナちゃんにそんな事情があったのか……)


「私達ともほとんど口をきかないような子でした」


そういって奥様は悲しそうに目を伏せた。


「そんなあの子が初めて、心の底から楽しそうに

ネコさんとのお茶会の出来事を私たちに話して聞かせてくれた。

あんな嬉しそうな娘を見たのは初めてだったよ」


そういって領主様も目頭を押さえた。


「執事喫茶というものを始めるそうですね。

是非私も娘と行かせていただくわ」


そう言って奥様は微笑んだ。


「お礼に特例だが、領主のお墨付きの看板を出すことを許そう」


「ありがとうございます。

身に余る配慮に感謝いたします」


ヴァイオレットは立ち上がり優雅に頭を下げた。


その姿にご夫妻は何か言いたそうだったが

黙って微笑んで頷いていた。


「ところであのお屋敷は確か……

2代前の領主のお屋敷だったと記憶しているが……

もしかしてあなたは……」


そういってご領主は目を細めてセバスの顔をみた。


「私はただの執事でございます」


そう言ってセバスは深々と礼をした。


(きつねとたぬきの化かし合いの雰囲気が漂っているのは

気のせいだろうか……。

やはり、この地の領主になるだけの人だな……

柔和な顔に騙されてはいけないわね)


ヴァイオレットは改めて気を引き締めるのであった。


そのまま和やかに談笑しながらお茶を頂いたのち

執事喫茶の招待状をお渡しして館を後にした。




帰りの馬車の中でヴァイオレットはぐったりしていた。


「ふぅ……久しぶりに緊張したわ。

セバスはあのご領主様と面識があるの?」


「直接的には交流はありませんが……

若い頃に何度か王室主催の舞踏会でお目にかかったことが

あるくらいですかね……ホッホッホッ」


「なんか意味深な顔をしていたわよね。

もしかして私の正体もなんとなく気がついているのかな」


ヴァイオレットは不安そうな顔をしていた。


「わかりませんが……

この地を治める猛者ですから……

何かしら感じているかもしれませんな……」




一方……

門の前から走り去る馬車を窓から見ながら男は呟いていた。


「ただの商人の娘ではないな……」


その後ろで紅茶を飲みながら微笑んでいる夫人も頷いた。


「えぇ……そうだと思います。

あんなに洗練された身のこなしは付け焼刃でできるものでは

ありませんもの……。

思ったよりも上位の方なのかもしれませんね」


「今後の事もある、いちおう調べてみるか……」


男は思案するように顎に手をかけた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ