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36.小さなお客様

その後……数日間は……

ヴァイオレット達をお客様に見立て実地訓練をかさねた。


まだまだ拙い所はたくさんあるが、実践に勝るものはなし!

日々進化していってもらいましょう。



「セバス……

来月の頭から“執事喫茶”を稼働させようと思うのだけど

どうかしら?」


ヴァイオレットは、再度計画書を見直しながら呟いた。


「はい、いいと思います。

粗削りではありますが、全員そこそこ見栄えのする状態には

なっております」


セバスも満足そうに微笑んでいた。


「季節的にも苺が美味しい時期になってきているから

一発目は“いちごフェア”で攻めたいの。

女子はあの可愛いビジュアルに弱いのよ!!」


あれからフェリックスに色々ケーキの種類を伝授したから

かなり可愛い物を作ってくれるに違いない。


一皿料理は……

“苺のミルフィーユ”と“苺パフェ”で決まりね。


「あっ、お嬢様!」


急に思い出したかのようにセバスは手をポンと叩いた。


「ん?」


「商業ギルドには商標登録をすませておりますが

今後の為に、一応領主様にもご挨拶に伺うのが

よろしいかと存じます。

明日の午後にお約束を取り付けております」


「おぉ!さすがセバスね。抜かりがないわ」


ヴァイオレットが感心しているとそこにジェイがやってきた。


「お嬢様……今よろしいですか?」


困ったように獣耳をさげてオロオロしていた。


「どうしたの?」


「それが……」


その後ろからシャルがぐったりした様子で入ってきた。

なぜか尻尾には、小さな女の子がくっついていた。


「シャル……その子は一体……」


「俺もわかんねぇよ……。

でも放してくれないんだ……」


少女はさんざん泣いたのだろう、泣きはらした目で不安そうに

周りをキョロキョロ見渡していた。


その間にもシャルの尻尾をぎゅっと抱きしめて離さない。


「拾ってきちゃったの!?」


「らしい……」


「事件になる前に…………

元あった場所に返してらっしゃい」


ヴァイオレットは至極まじめな顔でそう言った。


双子の猫獣人のジェイとシャルは、街に出かけていた。


ヴァイオレットに頼まれてユージーンのところに

メイドキャップを取りにいったのだ。


苺フェアに備えて、新たに苺の飾りつけを加えてもらったからだ。

リガロ達もそれぞれ、どこかに苺の装飾品をつけて貰う予定だ。



ジェイがお使いをすませている間、シャルはさぼっていた。


「帰りの荷物は俺が持つから、ジェイ行ってきてくれよ。

俺はこの辺でプラプラしてるから」


そういってシャルはベンチに寝転んだ。


「まったくシャルはいつもそうなんだから」


いつもの事なのか、ジェイはさして怒りもせずに

呆れたように笑いながら建物の中に入って行った。


双子と言っても二人は正反対の性格なのだ。


しかしそれが不思議とお互いを補うらしく……

とても仲のいい兄弟だった。


シャルは中央広場の噴水の横のベンチで何をするわけでもなく

通り行く人を眺めていた。


そんな折に噴水の隅で泣いている幼女が目に入った。


(あんなに小さい子がこんなところに1人で大丈夫か?)


シャルは泣いている幼女に近づいて行った。


「お前……迷子か?親はどうした」


いきなり知らない人に話しかけられて幼女は一瞬ビクッとしたが

シャルの獣耳と揺れている尻尾にくぎづけになった。


「ネコさん……」


泣きながらも可愛らしい声で見上げてポツリとそう呟いた。


「ネコさんですよ」


シャルは幼女の前で片膝をついて目線をあわせて微笑んだ。


ピコピコ動く獣耳と尻尾が気になるのか……

幼女はチラチラとそこばかりみていた。


「これが気になるのか?」


シャルは自分の尻尾を幼女に差し出した。


それが最後……

それっきり幼女は尻尾をぎゅっと抱きしめたまま離さなくなった。




「迷子らしいです。

一応周りの人達にもきいたのですが、誰も知らないらしく……。

自警団に連れて行こうとしたら、激しく泣かれてしまって……」


ジェイが困ったように眉尻を下げた。


「お名前は言えますかな?」


セバスが優しく聞くが、顔を強張らせたまま固く口を閉ざしている。

断固拒否の姿勢の構えが見てとれた。


「………………」


そこにいた全員がどうしようと目で訴えあっていた時だった。


「俺はシャルって言うんだ。

名前教えてくれよ」


シャルが太陽のような明るい笑顔でそう言うと……

幼女は頬をうっすらと赤く染めて呟いた。


「ダイナ……」


「ダイナっていうのか……。

可愛い名前だな」


そう言われるともっと赤くなって俯いた。


(フフフ……可愛いわ。

シャルが大好きなのね………

小さくてももう立派に恋する乙女なのね……)


「そうだ、シャル!

ダイナお嬢様におもてなしをしてあげて」


「いいな!それ……」


シャルは片膝をついて左手を胸に当てて言った。


「ダイナお嬢様……。

これから私とお茶会をいたしましょう」


そう言って右手を差し出しながらウィンクをした。


「はい……」


ダイナは、はにかみながらその右手を取った。



二人は今フェリックスが作ったプチケーキを食べながら

サンルームでお茶をしていた。


その様子を遠くからヴァイオレット達は見守っていた。


「ねぇ、セバス……。

ダイナちゃんって貴族よね……」


「お嬢様もお気づきでしたか」


「迷うことなくシャルの手を取った時からそう思っていたの。

普通の女子は、多少戸惑うものじゃない。

モネなんて、真っ赤になって倒れそうだったし」


リガロの練習相手になった時のモネは大変だった。

そもそも一般の女子はエスコートに慣れていない。


なので、リガロ達の一挙一動に戸惑いをみせるのだ。


「それにテーブルマナーが綺麗なの。

あれは教育を受けた者だわ。

という事は、これはまずくない?

今頃はお屋敷では大問題になっていないかな」


ヴァイオレットは胃が痛くなった。




結局……

ダイナちゃんは、シャルとのお茶会で気が済んだのだろうか。


急にお家に帰ると素直にいいだし……

シャルとセバスで送って行く事になった。


その途中で、侍女と護衛騎士と思われる人達と遭遇して

無事にダイナちゃんを引き渡せたとの事だった。



「いやぁ~参ったぜ。

でも、可愛らしいお嬢様だったな」


そう言って嬉しそうにシャルは尻尾を左右に揺らした。


「シャルの執事っぷりも凄く上手だったよ」


「本当か!?

じゃぁご褒美に頭を撫でてくれよ……お嬢様」


そう言ってシャルは恥ずかしそうに頬を染めて

上目づかいでヴァイオレットを見つめた。


「フフフ……いいわよ。

シャルは本当に甘えん坊さんね」


そう言って、ヴァイオレットが撫でようとしたとき

横からさっとその手を掴む者がいた。


「何がご褒美だ、このばか猫!!

一歩間違えれば誘拐事件だ」


そう言ってリガロがグリグリとかなり強めに

シャルの頭を撫でた。


「い……痛てぇよ、この狂暴トラ!!」


涙目になりながら、リガロの手を払いのけた。


「もう一度最初から鍛えなおして差しあげます」


凶悪な笑顔を浮かべたリガロは、シャルの首根っこを掴んで

部屋から出て言った。


「鬼トラ!!放せよ~」


「相変わらずね……リガロったら」


ヴァイオレットはその様子をほほえましく見ていたが

周りにいた大人たちは思った。


(お嬢様が触れるのも駄目か……

どれだけやきもち焼きなんだよ……トラ獣人の溺愛怖い)


開店前に小さなお客様がいらっしゃいました。




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