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35.デザイナー

危険人物かと思われた男性は自称“デザイナー”さんだった……。


リガロとフェリックスに左右から睨みをきかせられながら

縮こまりながらソファーの端にちょこんと座っていた。


「…………」


顔面蒼白で今にも倒れそうな勢いだ。



騒ぎを聞きつけたイルマ達が屋敷の中から出てきた時の事だった。

イルマが男性の顔をみて驚いていた。

どうやら知り合いの方の弟らしいという事が判明した。


そこで確かめるためにアマーリアにその人物に

連絡を取ってもらった次第だ。


と、そこにアマーリアと一人の男性がやってきた。


「遅くなってすまない、身元を保証するものを連れてきたぞ」


アマーリアはそう言うとムキムキマッチョの男性を

ヴァイオレット達に紹介した。


「お嬢様、この度は愚弟がご迷惑をおかけいたしました」


そう言って菓子折りのようなものを差し出しながら

神妙な顔で男性は頭を下げた。


「あなたは……」


リガロはその男性をみて目を見開いていた。


「あらん、あの時のイケメンのトラ獣人さん!

その節はどうもぉ。

という事は、この方があなたのご主人様?」


急にオネエモードになる男性だった。


リガロさんやどういうことですか?

と無言のまま目で訴えるヴァイオレットであった。


「アマーリアの行きつけの酒場の店主の方だ」


()()()()()()()()


ハートが飛びそうなポーズでくねくねしながら

ムキムキマッチョの男性は迷うことなく自分の名前をそう告げた。


(ジュリエットさん……ですか?)


「…………」


(どちらかというと……ゴンザレスさんですよね?)


そこにいた全員がツッコミを入れたかったが

あえて飲み込んだ。


「そして、弟の“ユージーン”です。

本当にこの度は申し訳ございませんでした。

こんなんですが、プロのデザイナーです。

けっして怪しい者ではありません」


首が折れるのではないかという勢いで弟の頭を掴み

深々と頭を下げさせた。


「それなのにお嬢様方に不快な思いをさせるなんて……

()()()()()悲しい……」


そう言ってハンカチで涙を拭っていた。


(お姉ちゃん……)


もうそろそろツッコんでもいい頃かしら。

ヴァイオレットはうずうずしていた。


「かくなる上は、どこにでもつきだしてください」


そう言って兄弟そろって更に深く頭を下げた。


「いや……確かに驚きはしましたが

それ以上にユージーンさんでしたっけ?

その類まれなるセンスに心惹かれまして……。

もしよかったら個人的に依頼をしたいのですが」


ヴァイオレットがそう言うと

二人は目が落ちるのではないかくらい瞳を見開いて固まっていた。


「この子のセンスを認めて頂けるのですか?」


先程とは違う意味でジュリエットさんは目に涙を浮かべていた。


「はい、先ほど私たちをモデルにしたデッサンを

拝見させて頂いたのですが、それがもう素敵で……」


ヴァイオレットが手放しで褒めると目をカッと見開いて

かなりの至近距離まで近づいて来て……

ジュリエットはギュッと手を握ってきた。


「ありがとうございますぅ……」


(怖い……迫力がありすぎる……)


ヴァイオレットは軽く腰が引けてしまった。

だが構わずジュリエットは話を続けた。


「私がこんなんでしょう……

まわりもこんなのだらけ……。

だから物心がついた頃からこの子は、女の子の絵ばかり描いて

育ってしまって……」


「…………」


ユージーンは恥ずかしそうに下を向いていた。


「王都の服飾専門学校も首席で卒業して……

老舗の仕立て屋にも就職していたくらいなんです。

なのに、どうしても自分がデザインした服を作りたいと

言って急にやめて帰ってきてしまって……」


(あー。

老舗の仕立て屋は伝統を重んじるからなぁ。

ユージーンさんのデザインは認められないだろうな)


「実は……」


ヴァイオレットはざっくり執事喫茶の事を話した。

そこで執事服と可愛らしいメイド服を作って欲しい事を伝えた。


と、急に人が変わったようにユージーンは大きな声で言った。


「やります!是非やらせてください!!」


こんなに大きな声が出せるんだ……。

髪の毛であまり見えないけど、瞳が奥の方でギラギラ光っている!!


「よし!イエス!!」


なんか人が変わったようにガッツポーズを決めて酔いしれてる……。


「フフフ……本当に洋服作りが好きなのね。

こちらこそ、ぜひお願いいたします。

そのかわり私の要求は厳しいわよ」


そう言ってヴァイオレットは右手を差し出した。


「お嬢様……ありがとうございます」


その手をそっとユージーンは両手で握って涙ぐんだ。


こうして思わぬところから専属デザイナーを手にいれることができた。



それからというもの……。

ユージーンは、次々にその人にあったイメージの執事服を作り出した。


ヴァイオレットの要求以上の物をたやすく作り出していた。


「いいわねぇ……最高だわ!!」


モネ達も素晴らしい出来栄えにうっとりしていた。

そんな中うかない顔の者が1人いた。


「お嬢様……」


リガロは困ったように獣耳がへにゃっと下がっていた。


「どうしたの?」


「何故……私だけは白い執事服なのですか?」


他の皆の執事服はそれぞれの個性を生かしたデザインではあったが

基本黒一色で作られていた。


「いいでしょう!!

リガロの褐色の肌が映えるし……

ナンバーワンの証なのよ」


ヴァイオレットは鼻息荒く力説した。


「はぁ……」


リガロはますます困ったように眉尻をさげた。


そこに次々と執事服に身を包んだ皆が集まってきた。


「いいわ!!

すっごく皆にあっている!!

流石ユージーンね」


「ありがとうございます」


ユージーンも照れながらも満足そうにしていた。


「あっ!リガロだけ白い執事服だぁ

いいな~なんかカッコいい~強そう~」


シャルが興味津々な顔でリガロの周りを

くるくる回りながら見ていた。


「でしょ、でしょ。

シャルも頑張れば白い執事服が着られるかもよ?」


そう言ってヴァイオレットは軽くウィンクした。


「本当か!?よしっ、俺もがんばる」


そう言って目をキラキラさせていた。


(なんだと!?)


リガロ以外の者達は、そのヴァイオレットの発言に

ちょっぴり慄いていた。


(勘弁してくれ……俺はこのままでいい)


と大半の者が思ったとか……。


「じゃあ……

引き続き可愛らしいメイド服のデザインよろしくね」


ヴァイオレットがそう告げると

ユージーンはこれまで以上の笑顔を見せた。


どちらかというと可愛らしいドレスのデザインをする方が

テンションがあがるらしい。


「はい、最高傑作が生まれそうな予感がします」


そう言ってヴァイオレットの手をぎゅっと握った。

蕩けるような瞳で熱くヴァイオレットを見つめていた。


もう既にユージーンの頭の中では

可愛らしいメイド服に身をつつんだヴァイオレットが

微笑んでいるのが見えているかのようだった。


グッ……

そんな中……無言でリガロにその手をやんわりと外された。


怒りを感じていてもそこは執事たる所以なのか……

手を叩かなかったのは、ユージーンがデザイナーだからだろう。


「お嬢様に易々と触れないで頂きたい」


口調は穏やかだったが視線は射殺すような目だった。


「はひっ……すみません……つい……。

では、また後で……」


我に返ったユージーンは焦りながら部屋を出て言った。


「全く油断も隙もない男だ……」


そんなリガロの行動を他の皆は生暖かい目でみていた。


(あれは一種のやきもちだな……)


(だな……)


「さっ……お嬢様、茶葉の買い付けに行きましょう」


そう言ってヴァイオレットの腰をさりげなく抱いて部屋を後にした。


(お前は触れていいのかい!)


と、フェリックスは思いっきり心の中でツッコミを入れた。


自覚症状はゼロだが、トラ獣人は意外にやきもちやきらしい……。



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