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33.専属契約

おかしいこんなハズじゃなかった。

なぜ手に入らない……。


男は暗闇の中で椅子に座ったまま目を閉じていた。


兄上もそしてその妻も息子も……

できそこないの娘もすべて消したはずなのに

未だに私の欲しい物はこの手に落ちてこない。


相変わらず腐った世の中だ。

俺を認めない王家もこの世界も滅んでしまえばいい。


男は静かに何かを呟いた。


「御意……」


その言葉に頷いた黒い影がどこかに向かって飛び出して行った。




「だいたい相場はわかったかな。

やはり旅人が多いから若干高めの設定なのね……」


ヴァイオレットは話題のご飯屋でケーキを頬張りながら

一心不乱にあらゆる店のデータを書き留めていた。


(うぅ……手書きと暗算がきつい……。

エクセルが恋しい……マクロを組みたい……。

消費税がないだけでも簡単だと思った方がいいのかしら)


ノートとにらめっこをしていたヴァイオレットに

心配そうにリガロが声を掛けた。


「お嬢様、今日はこの辺にいたしましょうか。

それから最近お嬢様が夕飯をあまり召し上がらないと

母から苦言を呈されまして……」


続けてリガロが申し訳なさそうにそう切り出した。


「うっ……それを言われると辛い」


ついリサーチの為に食べ過ぎて夕飯が入らないのだ。

忘れがちだが、ヴァイオレットはまだ子供だ。


すぐにお腹がいっぱいになり眠くなってしまうのだった。


「じゃぁ、あとは仕入れ先の候補をチラ見して

今日は帰りましょうか」


リガロと共に市場を経由して屋敷に帰ることにした。


「大店は種類も豊富だけれども値段設定が高いのよね。

それに無理やり抱き合わせ商品とかも売りつけてくるから

あまり取引したくないのよ……」


ヴァイオレットは表通りにある店を練り歩きながら

先日の出来事を思い出していた。


苺を5キロ頼んだまではよかったのだが

季節ものではない為に特別に売ってやる感をだされた。


挙句の果てにリンゴと梨も2キロ買えと言われ買ったのだが

それがあまりよくない品だったのだ。


「新参ものですから、足元を見られたのかもしれません。

だいたい良い品は常連の店が買い付けてしまいますからね」


「そうよね……直接農家から買い求めた方がいいのかしら」


そう思いながら歩いていると……

隅の方の一画に小さいスペースながらも新鮮な果物を売る

兄弟が目に入った。


しかし場所が悪いのか、それとも若い二人が売っているからだろか

不思議なくらいに全く売れていなかった。


(この時間にあんなに売れ残るなんて……

廃棄しかないでしょう……)


兄の方は幼いながらも一生懸命に通る人に話しかけているが

あまり相手にされていないようだった。


(なかなかこんな奥まで買いに来ないわよね。

来たとしてももう既に目当ての物を手にいれているわね)


ヴァイオレットはその兄弟のお店の前にきた。

どうやらお薦めは“リンゴ”のようだ。


「いらっしゃいませ、今朝採りたてのリンゴです。

よかったら試食してみませんか」


そう言って剥きたてのリンゴをさしだしてきた。

まずはリガロがそれを少し割って一口食べた。


いわゆる毒見というやつだ。

そんな事も考えずにいきなりかぶりついて食べてしまい

先週激しく怒られたばかりだ。


「…………!!うまい……」


リガロは思わず声に出してしまっていた。


「えっ!早く食べさせて!!」


ヴァイオレットも一口食べた。


みずみずしくてほんのり酸味もあってとても美味しいリンゴだった。

しかも中心には蜜が入っていた。


「おいひい~これはいいわね」


兄弟二人は嬉しそうに微笑んだ。


「こちらのオレンジとプラムもお薦めですよ」


そう言ってすべて味見をさせてもらった。

大店なんかで買うよりも何十倍も美味しかった。


ゲームの世界観だからだろうか……。

食べ物の旬とやらがかなり適当だった。


秋だからと言って栗やカボチャが売られるわけじゃない。

全ての果物や野菜が一年中あるみたいだった。


それでも採れやすい時期があるみたいだが

かなり緩い設定のようだった。


「ねぇ……ここにある物すべていただける?」


「えっ!?」


兄弟はぽかんと口をあけてあっけにとられていた。

まさか大人買いされるとは思ってもみなかったのだろう。


「もしかして予約とか入ってる?」


「いえ、先週から全く売れなくて……」


「おい、余計な事言うな」


ぽかっと弟は兄から拳骨を喰らっていた。


「フフフ……」


二人は美少女にみつめられてドギマギしていた。


「本当にいいのですか?」


「えぇ、とっても美味しかったわ。

それにとても値段が安いのね」


大店の半分の値段で売られていた。


「この値段でもここの場所では売れないんです。

場所代を払ったらほとんど売り上げはありません。

でも今日はお嬢様がすべて買ってくださったので

久しぶりに肉でも買って帰りたいと思います」


そう言った兄の健気さにキュンとしたすみれだった。


そんなヴァイオレットの様子をみてリガロは嫌な予感がしていた。


(お嬢様、またとんでもない事いいだしそうだな)


リガロがハラハラしていると……

案の定とんでもない事をいいだした。


「お兄さん達のお家って果物農家なの?

この街から遠いのかしら?」


「はい、小さいですが家族で経営しております。

後は少しですが酪農もやっております。

街からは少し離れますが、そんなには遠くありません」


二人はなんでそんな事を聞くのだろうという顔をしていた。


「今度お伺いしてもいいかしら?」


ヴァイオレットはいきなりそう切り出した。


「えぇっ!!」


二人はまさかの発言に驚き何度も瞬きを繰り返していた。


ヴァイオレットは有無を言わせない圧で

強引に二人を納得させて、今週末に会いにいく約束を取り付けた。



ヴァイオレットは帰りの馬車でまたもやリガロにお小言を貰っていた。


「お嬢様、いい加減にしてください。

少しは危機感というものを持ってください!!」


「だって、今後の為にも直接取引できる専属農園が

欲しかったんだもの。

リガロだって食べてわかったでしょう!

あそこの果物は秀逸だよ」


頬を膨らませながら拗ねたようにリガロを見上げた。


「それはそうですが、どんな相手かもわからないのに

いきなり遊びに行きたいなんて言わないでください。

お立場を考えてください。

危ないではないですか……」


「それは心配してないの。

だってどんな時もリガロがまもってくれるでしょ?」


無邪気にそう言われてリガロは絶句した。


「全くお嬢様は……」


そう言いながらも尻尾は嬉しそうにパタパタと揺れていた。




その後、リガロとセバスを連れて農園にいったヴァイオレットは

しっかりと専属契約を結んでほくほく顔で帰宅したのであった。


これで果物と乳製品の販路は確保したぞ!


後は衣装かな……。

そう思いながらも眠りへと落ちていくヴァイオレットだった。


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