28.みんな……覚悟はいい?
街に繰り出して確信を掴んだヴァイオレット。
更に深くリサーチをする事にした。
その間に、着々とお屋敷の改造にも着手していた。
セバスにだけは計画を打ち明けて
それに沿う様にこっそり裏で計画を進めていた。
あの後に、今度は猫獣人の双子達をつれて再び
この前のご飯屋へとくり出した。
またもや訪れている女子達の視線をくぎ付けにしていた。
「猫ちゃんかわいい~」
「尻尾と獣耳が可愛いよねぇ」
そんな声にしっかり者の兄のジェイは照れていたが
お調子者のシャルは嬉しそうにその子達に手を振っていた。
今日の客層の中には、貴族の令嬢らしき人もいた。
彼女たちのように目立ってはしゃいではいなかったが
頬を染めながら確実に目で追っていた。
(よし、いける間違いないわ)
それからも何度もリガロやフェリックスを連れて
ご飯屋に通って、女子達の動向を観察した。
そこで新たに分かったことなのだが
この街は、ご飯屋や酒場など男性向けの飲食店は多いが
女性の為の店が少ない事が分かった。
やはり冒険者や旅人が多いからなのだろう。
あったとしてもそれは貴族しか入れない
高級サロンなようなものだった。
だからこの店に女子が集中する事がわかった。
そして何よりも王都よりも獣人に対してのあたりが柔らかい。
表立っては差別的な事はないように感じる。
しかし普通に生活していたら、女性は獣人と交流する事は
あまりないだろう。
その割に獣人は見目麗しい者が多い。
密かに憧れている女性も多いはず!
(競合店が少ないのも魅力ね。
これならば多少立地条件が悪くても勝算はあるわ)
ヴァイオレットは悪い顔になっていた。
それから一週間後。
ヴァイオレットは屋敷の応接間に全員を集めた。
「今日は皆に大事な話があります」
「なんだ改まって……」
ディアークはいつもと違う雰囲気のヴァイオレットを
不思議そうに見つめていた。
「この街に怪しまれずにとけこむ為……
そして情報収集の為に……
このお屋敷で“執事喫茶”を開きたいと思います」
その一言にその場が静まり返った。
「…………」
全員が首を傾げて困っていた。
「お嬢様……お話の意図がよくわからないのですが」
代表してリガロがそう言うと……
またもや全員が賛同するように頷いていた。
「つまりね、ここに高級サロンを開きたいのよ」
「…………」
「貴族はね、お茶会を開いて情報交換するの。
そこではたんなる噂話から真実まで……
あらゆる情報が集まってくるの。
女性の情報収集力はやばいの!!
それを使わない手はないのよ、うん」
ヴァイオレットはこぶしを握りながら熱く力説をした
そんなヴァイオレットに対して
ディアークが怪訝な顔をしていった。
「お嬢は死んだ事になっているだろう。
そんな事をしたら身元がばれねぇか?
それ以上に、貴族がいきなり知らないサロンに顔をだすか?」
「そう、だからまずは知名度を上げるのよ。
高級サロンといっても、身分は関係なく入れるの。
私の身元はわかるまでには時間がかかるでしょうから
あまり心配していないの……。
ここは王都からはなれているしね」
ヴァイオレットがそう言うと、全員が驚いたような表情をした。
「あなたたちも見たでしょう。
女性は見目麗しい男性と甘いものが大好きなのよ。
何の為に私があの店に何回も通ったかわかる?」
そう言うとリガロ達は店での出来事を思い出していた。
と、同時に遠い目になっていた。
「お嬢……まさか」
嫌な予感がしたのだろう、フェリックスは顔が引きつっていた。
「あなた達には執事になってもらって……
女性たちのお茶の相手をして貰います。
そこで情報収集を行うのよ」
「女性たちのお茶の相手……」
男たちの間に微妙な空気がながれる。
「そう、お金も稼げて情報収集もできて一石二鳥。
執事が相手をするから……。
“執事喫茶”という名前なのよ」
「はい?」
全員が目を剥いた。
「本物の執事になるわけじゃないのよ。
そういう衣装を着て、女性のお客様に疑似体験してもらうの。
お嬢様に憧れる女性は多いのよ」
「はぁ……」
男たちはなんと言っていいかわからなかった。
かなりしょっぱい表情をしていた。
そこにモネとダリアが賛同するように声を弾ませた。
「お嬢様のおっしゃっている事はわかります。
この侍女という仕事に誇りをもっておりますし
お嬢様にお仕えする事は幸せです。
しかし、たまには私も誰かにかしずかれてみたいものです。
それが見目麗しい殿方なら最高ですよね」
と、ちょっと興奮しながら言った。
「それよ!それを目指しているの」
「フフフ……。
どうせなら素敵な男性とお茶を楽しみたいですよね」
ダリアもそう言って微笑んだ。
「ダリア……俺がいるのにそうなのか……」
ディアークはシュンとした顔でダリアをみた。
「あくまでも例え話です。
私はあなたが一番ですから……」
「ダリア……」
そう言ってダリアとディアークは見つめあって
お互いの尻尾を絡めあった。
急に辺りが甘い雰囲気に包まれた。
コ……コホン
ワザとらしい咳をして話を戻すリガロがいた。
「その執事役を俺たちがやるのですか?」
「そうだよ。
因みに拒否権はないから」
ヴァイオレットはいい笑顔でそう言い放った。
「…………」
全員がざわつき出した。
「まぁ、適材適所というものがあるから……
全員が表に出る訳じゃないわ。
フェリックスは、厨房を主に任せたいの」
そう言うとフェリックスは、よしっとガッツポーズを決めた。
「でも、週に一回は表に出てもらうからね。
フェリックスのような強面兄貴が好きな女子も
一定数いることがわかっているし」
そういうと急に萎れた表情になった。
「ディアークは引き続き部下の皆さんと
裏ルートで情報収集してもらいたいから除外します」
あからさまにほっとするディアークだった。
「今の所確定なのは……
リガロとキャロットとシャルとジェイ。
時々フェリックスかな。
そしてセバス」
「私めも出るのですか?」
「時にはセバスのような本物の執事が
必要な時もあると思うから」
「老体に無理をさせますな……ホッホッホッ」
そういいつつも嬉しそうだった。
「モネ達は裏方で色々手伝ってもらう事に
なるけどいいかな?」
モネとダリアと双子のトラ獣人ちゃん達は
その言葉に力強く頷いた。
「カワウソちゃん達は、様子をみてから
デビューさせたいと思っているからよろしくね」
カワウソ達もぺこりと頷いた。
「みんな……覚悟はいいかな?」
その日からセバス指導の元……
地獄の特訓が開始された……。




