26.熱烈な再会劇
「んん~思いの外よく寝た」
ヴァイオレットは馬車からおりて、胸いっぱいに朝の空気を吸った。
キャロットと双子の猫獣人の兄妹はまだ眠っているようだ。
木に凭れながら三人で固まる様に寝ていた。
その傍でおそらく一晩中焚火の番をしていたのだろう
ディアークが胡坐をかいて座っていた。
「よぉ、よく眠れたか?」
「おはようございます……。
お陰様でぐっすりと眠れました」
フェリックスの姿が見えないので、無意識にキョロキョロ辺りを
見まわしていたのだろう。
「クマ公なら周辺の散策にでかけたぞ。
恐らくもうすぐ帰ってくるだろう」
そう言った傍から後ろの森からガサガサ草を分けて
何者かがやってくる気配がする。
「ん?」
急にディアークがヴァイオレットを庇う様に前に出た。
その者もいきなりディアークにとびかかってきた。
それをいとも簡単に片手で受け止めた。
あまりの速さに戦っている本人達さえ気がつかなかったのだが
初めてお互いをみて固まった。
「……お前……リガロか?」
「…………親父!?」
大きさや風格が全く違ったが……
そっくりの顔形の男たちが剣を交えていた。
「どうしてここに……」
目の前の光景が信じられないのか……
リガロは何度も目を瞬いていた。
そんなリガロを見てディアークは困った顔をして頭を掻いた。
「話せば長くなる……」
その後ろからフェリックスがやってきて豪快に笑った。
「本当にお前らは瓜二つだな。
再会できてよかったな!」
ディアークの肩をバシバシと叩いた。
「あぁ……。
お嬢のいう事は本当だったんだな。
改めて礼を言うぜ」
そう言ってディアークは喉を鳴らして笑った。
そんなやり取りに微笑んでいたヴァイオレットだったが
直ぐに顔を引き締めた。
「リガロ、お帰りなさい。
それで、街の状況はどうだった?」
「はい、無事に皆と合流できました。
街外れの洋館に潜んでいるようです」
リガロは全員が無事だったことに加えて、父親に会えたことが
嬉しかったのだろう。
獣耳が喜びを表すようにピコピコゆれていた。
「よかった……」
ヴァイオレットは、ほっと胸を撫で下ろした。
ひとまず馬車で街に入るのは目立つので……
人を先に街に入れようという話になった。
残りの荷物などは、ディアークさんの部下たちが
独自のルートで何回かにわけてこっそり運んでくれるらしい。
なので、まずはヴァイオレットが街に入る事になった。
関所が見えてきた……。
うー緊張する……。
そんなヴァイオレットをみてディアークが目を細めた。
「豪快な嬢ちゃんだと思っていたが……
そうやって緊張している所をみると歳相応なんだな」
「からかわないでください」
ヴァイオレットは頬を膨らませてふくれた。
「ハハハハハ……可愛いぜ」
「もう……」
そんな話をしているとヴァイオレット達の番になった。
「次の方……」
関所の役人はヴァイオレットの顔を見た後に
チラッと後ろの獣人二人を一瞥した。
「この街には叔父を訪ねてやってきました」
そう言ってヴァイオレットは偽の身分証を提示した。
名前と出身が偽って書いてある。
商家の一人娘という身分になっている。
「後ろの二人は……」
「正式な護衛ですわ」
そう言ってよく見ろと目で促した。
ディアークとフェリックスの首には隷属の首輪が嵌まっていた。
「……許可します」
そう言って役人はポンと判子をおした。
そのまま三人は何くわない顔で街の中へと入って行った。
「…………ふぅ……緊張した」
「なかなか様になっていたぜ」
「面白がっていますよね……」
ヴァイオレットはジト目でディアークを軽く睨んだ。
その後はリガロ達と合流して……
辺りが暗くなる黄昏時に屋敷へと入った。
その後が大変だった……。
まずはディアークの顔をみた瞬間……
あの穏やかで微笑みを絶やさないダリアが吼えながら
思いっきりディアークに抱き着いた。
ディアークはディアークでそれに答えるように吼えて
きつくダリアを抱きしめた。
ここまでは感動の再会だったからよかったのよ……。
その後になんと二人は……
全員が見ている前で派手なディープキスを繰り広げた。
「えっ?ちょ……」
トラ獣人の求愛激しいなぁ……。
ヴァイオレットは若干引き気味だった。
が、他の人達はよかったな~
くらいの勢いで微笑んでいたから獣人の間では普通の事なのだろう。
ま、リガロだけは複雑な顔をしていたけどね。
興奮冷めやらないトラ夫婦はそのままの勢いで
ヴァイオレットの前にやってきた。
「お嬢様……。
もう一度ディアークに再会できるなんて夢みたいです。
本当にありがとうございました」
ダリアは涙ながら何度も頭をさげた。
「本当に偶然の出会いだったの。
これのお陰かな」
そういって牙のネックレスをダリアに返した。
「お嬢、これから何でも言ってくれ。
あんたの恩に報いたい」
そう言ってディアークも胸に手をあてて頭をさげた。
「ありがとう……。
私の目的は両親の行方、そして兄の状況。
この二つを探るためにこの街にきたの。
だからその為に力を貸してくれる?」
そう言ってヴァイオレットは皆の顔を見回した。
「おうよ!」
「お嬢の為なら大陸の裏側でもいってやるぜ」
全員が満面の笑みで首を縦に振っていた。
「ありがとう……本当にありがとう」
ヴァイオレットは嬉しくて泣き出した。
「あらあら、お嬢様が泣いてどうするのですか」
ダリアが優しくヴァイオレットを抱きしめた。
「お嬢さまよかったですな。
でもこれからですぞ……」
そう言ってセバスチャンは何処か遠くを見つめていた。




