25.街外れの洋館
アマーリアは、ぐでんぐでんに酔っていた。
「まだ飲むぅぅ~」
そう言いながら、犬獣人の少女の獣耳をもみくちゃにしながら
グラスを離そうとしなかった。
「あらん……困ったわねぇ。
うちもそろそろ閉店なのよぉ」
スキンヘッドのムキムキ店長が困ったようにため息をついた。
「アマーリアの常宿はあるのか?」
リガロはコップを無理やり引き離しながら聞いた。
「確かこの近くに家を借りているはずよ。
ほとんど帰ってないようだけど……」
「そうか……」
リガロは何とかアマーリアから場所を聞き出し
犬獣人の少女と共に家まで送っていった。
鍵を開けさせて、ベッドまで運んだ。
当の本人は既に夢の中の住人のようだ。
リガロと犬獣人の少女は“お疲れ様”と無言で
目で語り合った。
やがて少女は獣耳をペタンと下げ尻尾もさげて
しょんぼりしながら言った。
「あの……私は店に戻ります。
夢のような楽しい時間をありがとうございました」
そしてぺこりと一礼すると部屋から出て行こうとしていた。
「いや……待て……
アマーリアの話だとあんたを三日間自由にできる金を
あの店の主人に渡したそうだ」
「えっ!?」
犬獣人の少女は驚いたように目を見開いた。
「だからここにいて世話を任せたい」
まだ信じられない様子だったが……
いきなりアマーリアから手を掴まれて布団へ引きずりこまれた。
「あんたの仕事は私の抱き枕兼湯たんぽだよぉ」
そう言ってぎゅっと犬獣人の少女を抱きしめて
離さなかった……。
「あううううう……」
顔を真っ赤にしながら犬獣人の少女は戸惑っていた。
「だ、そうだ……。後はよろしくな」
そう言ってリガロは家を後にした。
リガロは街外れの洋館を目指して歩いていた。
街外れと言っても、ちらほら商店や民家などが
立ち並ぶ閑静な住宅街の一画にそれはあった。
「ここか……」
確かに長年そのまま放置されている外観だった。
錆びついた門はしっかりと施錠がされており
たくさんの蔦が絡まり生い茂っていた。
正面からは入ることはできないようだ。
見る限りはとても誰かが住んでいるとは思えなかった。
その割には朽ちた感じはあまりない。
神経を研ぎ澄ませて辺りを窺ったが……
人や動物の気配はないようだ。
(とりあえず中に入ってみるか)
リガロは屋敷の外をぐるりと一周した。
しかし塀も高く、もちろん裏口の門も固く閉ざされていた。
正直侵入できるところが見つからなかった。
しいていえば……
大きな木の枝が塀にかかって飛び出ている箇所がある。
(あそこから行くしかないのか……)
どうしたものかと考えていると……
微かにカタンと何かの音がした。
目を凝らして中を覗いてみると
何か光の玉のようなものがふわふわと揺れていた。
「…………!!」
それは段々と大きな光となりこちらに向かってくる。
リガロはとっさに構えたが……
それに反してゆるい声が聞こえてきた。
「以外に遅かったですねぇ……ホッホッホッ」
カンテラを持ったセバスチャンが微笑んでいた。
裏口の施錠を開けてもらい、黙ってついて行った。
何故か屋敷とは反対側の場所に歩いていき……
地面にある鉄の扉を開けた。
「さっ、どうぞ」
どうやら地下につながっているようだ。
そのまま鉄の梯子を下りていくと中は広い空間だった。
手前にはたくさんの棚があり瓶詰の食べ物などが
ぎっちりと並んでいた。
その中を通り過ぎて更に奥へ進んだ。
また鉄の扉を開けて進むと長い廊下が見えた。
段々と光が見えてきて更に鉄の梯子を上ると
小さな物置部屋に出た。
やっと地上に出て屋敷の中に入ったようだ。
「随分遠回りをするのだな」
「今はまだここは幽霊屋敷のままでいいのです
目立ってはいけません」
意味深な笑顔を浮かべながらセバスチャンは
屋敷の奥にある部屋へと向かった。
そこの扉を開けると小さい塊が飛んできた。
「兄ちゃん……」
二匹の小さい虎がリガロに抱き着いている。
「……お前たち無事だったのか」
それを優しくぎゅっと抱きしめた。
そのまま顔を上げると急いで駆け寄ってくるダリアの姿がみえた。
「リガロ……!!」
親子はぎゅっと固まって抱きしめあった。
「ヴァイオレットお嬢様は無事なの?」
ダリアは涙ぐみながらリガロの手を取った。
「はい。
今はこの街の手前の森で待機しております」
「えっ!そこにおひとりにして置いてきたの!?」
「いいえ、また新たに新しい仲間が増えたもので……」
そう言ってリガロは苦笑しながら今までの出来事を
かいつまんで皆にきかせた。
「ホッホッホッ……お嬢様らしいですな」
セバスチャンはニヤリと笑った。
「本当ね……」
ダリアも嬉しそうに笑った。
「笑い事じゃありませんよ。
何度寿命が縮みそうになったかしれません……
本当にお転婆な方だ」
肩をすくめながらため息をつくリガロだったが
尻尾は嬉しそうに左右に揺れていた。
「今日はもう遅いので、明日朝一で迎えに行ってきます」
「それがいいわね」
「では、私達も色々と準備を進めましょう。
お前たちいいですね」
そうセバスチャンが言うと、どこからかカワウソの獣体が
わらわらと出てきた。
そこに一人だけ少年のカワウソ獣人が混じっていた。
14歳くらいだろうか……。
「こいつらは一体!?」
リガロは驚いてその少年の顔をまじまじとみた。
少年はオドオドしながらその視線に耐えていた。
「お世話になります……」
しかし意を決したのか震える声でそう言った。
それに続くようにカワウソ達もぺこりと頭を下げた。
「はぁ……」
リガロは気の抜けたような返事を返すしかなかった。
誰なんだこいつらは?
そう思いっきり顔に書いてあったのだろう。
「ホ~ホッホッホッホッ、詳しい事はまた」
セバスチャンに促されて……
リガロは全く状況がわからないまま部屋に案内された。
考えても仕方がないので、今日は早めに休むことにする。




