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23/55

23.確実にそうですよね!?

男たちに牢屋から出され……

後ろ手に縛られたまま、親分の前に出された。


親分と呼ばれたその獣人は、険しい顔で二人を見下ろしていた。


噓でしょ……。

こんな事ってある?


ヴァイオレットはその男から目を離せなかった。


その男は褐色の肌をした白いトラ獣人だった。

ルビーのような赤い瞳をしており……

そう、まるでリガロだ。


リガロが大人になったら、このような感じに

なるのだろうというくらいそっくりな外見をした男だった。


「あ?」


余りにも自分の顔をまじまじとみる少女に

居心地が悪くなったのか……気まずそうに尻尾が揺れていた。


「そんなに俺の顔が気に入ったか?

そこのクマ獣人に飽きたら、今度は俺か?あ?」


ヴァイオレットの顎を掴みながら……

嘲る様に笑って牙を剥きだした。


「…………。

笑えない冗談ですね」


目を逸らさず、きっぱりと言ってやった。


「ほう……」


獲物を狙うような肉食獣の瞳でヴァイオレットを見つめた。


「私たちはスパイではありません。

国境の街に行くために通りかかっただけです」


「獣人をつれてか?」


「それが何か?

いっておきますけど、フェリックスは奴隷じゃありません」


心外だという様にヴァイオレットは男を睨みつけた。


「はっ?

人が獣人を連れて歩くのに奴隷以外に何がある。

護衛だろうが愛玩だろうが、所詮俺達は奴隷だ」


そう言って口元を歪ませた。


「フェリックスは私の料理人です!

今はそれ以上でもそれ以下でもありません。

でも……ゆくゆく大事な……家族となる人です」


「……………」


ヴァイオレットのその一言に辺りが静まり返った。

そう言われたフェリックスでさえ固まっていた。


「ククク……。アハハハハハハ。

笑わせる、そんな冗談クソくらえだ。

夢みたいなことを言ってんじゃねぇよ、お嬢様」


男は徐に、ヴァイオレットの胸ぐらを掴んだ。


「獣人がどんなに苦しめられているかお前らにわかるか

軽々しく家族なんていうな……

人に家族を奪われた者の気持ちがわかるか……

俺の気持ちがお前なんかに……」


「親分……」


「人を許すな!!」


周りがざわつき始めてきた時だった。



激しく上下に揺さぶられたからだろうか

ヴァイオレットの胸元が破け……

あるものが男の目の前に落ちてきた。


「……………!!

まて、お前ら静かにしろ」


「ケホケホケホ……」


ヴァイオレットはむせながら、地面に手をついた。


「お嬢!!」


フェリックスは思いっきり暴れて、拘束していた男を

投げ飛ばしヴァイオレットの元へ駆け寄った。


男たちは尚も拘束しようと動いたが、それを無言で

親分は手で制した。


それから、静かにヴァイオレットの前に進み

片膝をついて、胸元にゆれているそれを手に取って言った。


「これを何処で手に入れた」


その瞳には悲しみと懐かしさが浮かんでいた。


「殺して奪ったのか?」


今度は反対に激しい怒りと殺気が包んだ。


「これは私の大切な家族から預かったものです。

今は訳があって離れていますが……

必ず再会できると信じています」


「生きているのか……」


男は泣きそうな瞳でヴァイオレットを見つめた。


「ダリアさんはじめリガロ……

そして双子ちゃん達は、みんな無事に生きていますよ」


ぎゅっと牙を握って男は涙を零した。


「そうか……」


「あなた、ダリアさんの旦那さんでしょう?」


「何故そう思った?」


「だって、怖いくらいリガロにそっくりだもの」


「親分……?」


周りの獣人達は話が見えなくて困惑しているようだった。


「手荒にあつかってすまなかった」


ヴァイオレットの腕の縄を解いた。


「私の事信じてくれるの?

もしかして、あなたの言うとおり家族全員……」


「いや、これはダリアが子供達の次に大事にしているものだ。

例え何があっても自分から外すことはない。

無理やり奪おうものならば、相手を道ずれにするか

死んでも離さないだろう……」


そう言って男は牙を愛おしそうに撫でた。


「お嬢……。

俺達以外にも、まだ獣人を保護していたのか!?」


呆れるようにフェリックスはヴァイオレットをみた。


「俺もお嬢に助けられたくちだ。

きっとあんたの家族もお嬢に助けられたと思うぜ」


そういってフェリックスは親分の肩を叩いた。


「そんなかっこいいものじゃないよ。

私がやりたい夢の為につきあって貰っている人達が

たまたま獣人だっただけだから……」


そう言ってヴァイオレットは口を尖らせてそっぽをむいた。


そんなツンデレお嬢さまにほっこりした大人達だった。


「俺は……ホワイトタイガーの“ディアーク”。

この解放軍のリーダーだ」


どうやら本来ここは、人に攫われたり、行方不明になった

獣人を探したり取り戻したりする秘密組織のような所らしい。


それが、いつしか密かに獣人達に広がり……

戦争孤児になった子供や未亡人になった獣人達までも

集まってくるようになったとか。


ディアークもここにくるまでは、かなりランクの高い傭兵だった。


ある日、大きい儲け話があったのでそれに参加する為

長期家を空けた。


とある、有名パーティーに所属する名の通った

冒険者の紹介だったので、大半の獣人冒険者は

その話を信じてその依頼を受けた。


しかしその依頼こそが実は、罠だったのだ。


獣人達を捉えるために、男たちを一斉に駆り出し

手薄になったところをせめるという卑劣なやり方だったのだ。


それに気がついて急いで戻ったが……

大半の女性や子供の獣人が連れ去られたあとだったらしい。


勿論ディアークの家族もそうだった。


怒り狂ったディアークは、家族を見つけるために

各地を放浪する旅に出ることになり、その途中でこの組織に出会った。


行動を共にしていくうちに、その判断力と知恵と

カリスマのお陰なのか、いつのまにかトップに君臨するように

なっていたとか……。


「お嬢様はなぜこちらに?」


ヴァイオレットも軽く自分の身の上を話した。


「そう言えば、この国境付近の街は最近きな臭い噂が多いな。

確かに数週間前に、国境の谷付近で馬車の事故が

あったと聞いた気がするな……」


ディアークは思案するように顎に手をあてた。


「私はこの目で見るまで、どうしても父達が亡くなった事を

信じることができません。

それに兄の行方も探したいのです」


「ふむ……」


「その為に、この国境の街に根をおろして真相を掴もうと

画策している途中だったのです」


「そうか……。

ならば俺も協力するぜ」


「親分!?」


周りの獣人達がざわついていた。


「罠だったらどうするんですか、この少女のいう事を

信じるのですか?」


そうでしょうね。

周りの側近さん達のいう事が正しいと思うよ、うん。


ヴァイオレット本人でさえ、その提案に驚いたくらいだ。


「ダリアが信じた人だ、俺も信じる」


「奥さんを愛しているんですね」


「おうよ、あんないい女はそういないからな」


見惚れてしまうようないい笑顔でディアークはそう言った。


「フフフ……。

ぜひその言葉を本人に言ってあげてください」


そう言うと一瞬目を見開いてから……

目頭を押さえながら無言で頷いた。


「さて、どうするか……」


ヴァイオレット達は、それぞれ動き出そうとしていた。



その頃キャロットはパニックになっていた。


「お嬢様とフェリはどこまで薪を取りにいったの?

双子は双子で帰ってこないし……。

僕を一人にしないでよぉぉぉ!!

ウサギは寂しいと死んじゃうんだぞっぉぉぉ!!」


とか言っていたとか……。



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