22.どうしてこうなった?
「どうしてこうなった……」
ヴァイオレットは後ろ手に縛られたまま
木の根元に座らされていた。
フェリックスはその目の前で、屈強な男二人に
首元に槍を左右から突き付けられている。
仮面をつけているので顔はわからないが
外見から察するに……
トラ獣人とライオン獣人のようだ……。
「なんでこんなところに人がいる……。
お前はなぜこの子供につき添っている、奴隷か?」
「…………」
フェリックスは無言のまま男たちを睨みつけていた。
(とにかくよろしくない状況ですわ)
1時間ほど前の事だった……。
「このまま国境の街に入るのは目立つな……」
「そうね……。
まだどんな街かさえ、わからないものね……」
国境の街の手前にある森の開けた草原に一旦馬車を止め
ヴァイオレット達は緊急会議を開いていた。
「もしかしたら、セバス達が先についていて何かしら
手筈を整えていてくれているかもしれないけど……
確かめるすべがないのよね」
「希望的観測にしかすぎません。
一旦、俺が単独で街の様子を見てこようと思うのですが」
そう言ってリガロは旅支度を始めた。
「一人で大丈夫?」
ヴァイオレットは心配そうにリガロを見上げた。
「むしろ一人の方が動きやすいです。
冒険者として潜入しようかと思っています。
ここはフェリックス達がいれば、お嬢様の安全は守られますし
お袋たちがもし街のどこかにいたなら……
俺ならば匂いで跡を辿れます」
そう言って目でお嬢様を頼むとフェリックスに言った。
「おいおい、会ったばかりの俺達をそこまで信用してくれるのか
大丈夫か、トラの旦那……。
俺達がお嬢様に何かするかもしれないぜぇ?」
フェリックスは楽しそうに口角をあげた。
「こうみえて、人を見る目はあるつもりだ」
「そうかい……」
そう言って男たちはがっしりと握手を交わした。
リガロを見送ってから、ヴァイオレット達は野営の準備に取り掛かった。
「ヴァイオレット、俺達そこの川で水をくんでくるぜ」
「俺は魚釣ってくる。旨いのを食わせてやるからな」
双子の猫獣人達は、桶を持ちながら得意げに胸を叩いた。
ゴチンッ。
そんな二人の頭の上に拳骨が落ちた。
「ヴァイオレットお嬢様だよ。
言葉遣いには注意してねって言ったよね、僕」
顔は笑っているが、目が笑っていない美人なウサギさんが
二人の後ろに仁王立ちしていた。
「キャロ……。ごめんなさい」
猫達は……尻尾を震えさせながら涙目で必死に謝っていた。
「ほんとにしょうがないな、あいつらは」
その横でフェリックスが薪をくべて火を起こしていた。
「私は、その辺で小枝を拾ってくるね。
もう少しいるよね」
ヴァイオレットは、藪の中へ入って行こうとすると
後ろからフェリックスが追いかけてきた。
「待て、一人で遠くに行くな。
街が近いとは言え、まだここは森の中だ」
「そんな、遠くには行かないよ。
でも、ありがとう。
フェリックスがいてくれれば安心ね」
そう言って、ヴァイオレットは飛びきりの笑顔を見せた。
(うッ……可愛い……可愛すぎるぞお嬢様……)
可愛い物大好きなフェリックスは心臓を鷲掴みにされた。
そのまま少し森の奥にはいり小枝を拾っている時だった。
フェリックスは何か違和感を覚えた。
誰かにみられているような気配がする……。
「お嬢……」
感性を研ぎ澄ますように獣耳をたてた。
「ん?」
パキン……。
何かをヴァイオレットが踏んだ。
と、思ったら……
そのまま網のようなものに捕らわれて……
木の枝にぶら下げられてしまった。
「なっ……!」
「お嬢!!」
すぐさまフェリックスが助けようと、腰の剣を抜こうと
手をかけたがすでに遅かった。
「おっと、そのまま手を頭の上にあげろ」
誰かに喉元を槍で突き付けられていた。
「フェリックス!!」
「大丈夫だ、大人しくしていてください」
ヴァイオレットも網の中から出されたが、手を縛られ
俵のように担がれてしまった。
そのまま二人は森の奥へと連れていかれた。
「親分が戻ってくるまでここに入ってろ」
二人は洞窟をくりぬいて作られたと思われる
牢屋に入れられた。
「お嬢、すまねぇ……。
俺がついていながらこんなことに……」
「フェリックスのせいじゃないわ。
しかしこの者たちはどういう者達かしら……」
ヴァイオレットは、牢屋の中から外の様子を窺っていた。
獣人の男たちが数人いるのが見てとれる。
「山賊とかそういう荒くれ者の集団には見えないのよね。
やっていることは乱暴なんだけど……
ちゃんと統制がとれているというのか……。
下品じゃないというのか……」
「どういう意味だ、それ……」
「まず身だしなみが綺麗、それにほらみて……」
ヴァイオレットに促されてフェリックスが
その方向を見てみると……。
「女性たちや子供たちがいるのが見える?
みんな笑顔でしょう。イキイキしているというか。
環境がいいのよ。
無理やり攫われてきたとかじゃないのよ」
「確かに……。
山賊や荒くれ者の集団ならば女や子供は戦利品だからな。
おっとすまねぇ、お嬢様にこんな話」
「大丈夫、物の道理はわかっているから」
こんな話にも全く動揺しないお嬢様に
またもやフェリックスは何かを言いたそうにしていたが
あえて口をつぐんだ。
「まぁ……親分とやらがよっぽど怖いのか。
それとも何か意味があって集っているのか
今のところは何もわからないけれどね」
そんなおり急に目の前が騒がしくなった。
「親分が帰って来たぞ」
「おぉ……無事だったか」
「何か新しい情報はあったか?」
男たちが一人の男を盛大に出迎えているようだった。
「急に何かバタバタしだしたわね」
ヴァイオレット達も檻の中からその様子を窺った。
すると……
「親分、怪しい者を2名捕らえました」
「なに、スパイか?」
「それが、えらい綺麗な人の少女とクマ獣人でした」
「あ?こんな場所にか」
「はい、もしかしてまだあの付近に仲間がいるかも
しれませんが、今のところこの2人しかみつかっていません」
(キャロットさん達大丈夫かしら……)
そんな会話が聞こえてきた。
ちょうど岩陰になって、親分と思われる獣人の姿が見えない。
「案内しろ、一応確かめる」
「はっ……」
「こいつらです」
「……………………!!」
(うそでしょ!! この人って……まるで……)
自分達の前に現れた親分の姿をみて
ヴァイオレットもフェリックスも息が止まった。




