2.乙女ゲームの世界へようこそ
改めまして……。
公爵令嬢の“ヴァイオレット=エムロード”です。
目覚めたら何故か幼女の公爵令嬢でした。
何度も自分の事を上から下まで確認いたしました。
なんなら軽く自分の頬を引っ叩いたくらいだ……。
しかし何一つ状況は変わりませんでした。
推定年齢8歳くらい。
薄紫の髪、少しつり上がった黄金の瞳……。
透けるように白い肌にバラ色の頬と唇。
お人形さんみたいな美少女だった。
しかも公爵令嬢ですよ。
なにこの無駄に高スペック!!
と、叫びたいところだったが……
残念なお知らせがあります。
私事ではございますが……
お嬢様は“悪役令嬢”だったのです。
そうなのよ、どこかでこの顔見た事あるなと
脳みそをフル回転しました。
そこで思い出しました。
人気乙女ゲーム“虹の彼方で抱きしめて”に
出てくる悪役令嬢じゃない!!
主人公をあらゆる手段で陥れて苦しめる
美貌の悪役令嬢……
ヴァイオレット=エムロードその人だわ。
何故に幼少期なのかはわからないけど
間違いないわ。
お約束すぎませんか?
この手の展開って何度も小説で読みましたけどぉ
と、思わず心の中で叫んじゃったわ。
笑えない……。
よりによって悪役令嬢に転生はないでしょう。
今の流行りは、“追放もの”とか“ざまぁ”とか“無双”
いやもうそれも廃れているのかしら……。
どちらにせよ、悪役令嬢って……
確か最後はお約束のように断罪されてしまうキャラよね。
今すぐはどんな内容だったか思い出せないけど
ろくな死に方ではない事は確かだ。
恐怖のあまり体が震えた。
息が苦しくなった、一回深呼吸しよう。
メイドさんたちが遠巻きに不思議そうにみているけど
構うものか……。
待てよ、ということは……。
私は一回地球上にて命を終えたという事なの!?
自分の知らないところでそんな事になっているなんて
悲しすぎる……。
来週は久しぶりの有給がもぎ取れたから
チョコレート博覧会行くのを楽しみにしていたのにぃ。
違う……違うそうじゃない。
そんな悠著な事をいっている場合じゃない。
あぅぅぅぅ本当にどうしようこの状況。
誰か説明プリーズ!!
小さすぎる身体にありあまる情報量と思考が
追いつかなかったのだろう……。
ヴァイオレットはそのまま倒れた。
「お嬢様!!
ヴァイオレットお嬢さま!!」
今朝紅茶を零したメイドさんが必死な顔をして
駆け寄ってくるのが見えたのが最後……。
そのまま意識が閉ざされていくのを感じた。




