19.乱入者
顔に似合わずキラッキラの可愛らしい料理を出す定食屋。
凶悪顔のクマ獣人と美少女のウサギ獣人が営んでいた。
不思議空間で味わうご飯はとても美味しかった。
思わずデザートを追加注文してしまうくらいだった。
しかし何故か客はヴァイオレット達だけだ。
今お昼真っ最中ですよ、かきいれ時なのに……。
(なぜだろう、見かけも味も問題ないのに。
全くお客が来ないなぁ……。
むしろ女子は大好きだと思うんだけどな……このメニュー)
厳ついクマ獣人のご主人が原因か?
いや……その分給仕のウサギ獣人の美少女が緩和して
くれるはずだし……うーん謎。
リガロも満足したようで……
今は猫のカップに入ったコーヒーをチビチビ飲んでいた。
どうやら猫舌らしい。
虎だからかな……フフフ……ちょっと可愛い。
一息ついたのか、クマ獣人は買い出しに出ていた。
店の中にはウサギ獣人の美少女と私達だけだ。
そんなほっこりした時間を邪魔する奴があらわれた。
バァァァアァァン!!
凄い音を立てて店の扉が開いた。
余りの音にビクッとして紅茶を零しそうになったくらいだ。
「よお、ウサギちゃん一人かぁ?」
ガラの悪そうな男たちが3人入ってきた。
その声をきいたウサギ獣人の美少女は顔が強張った。
ウサギ耳も震えて少し後ろに下がっている。
いかにも成金風の小さい男と用心棒だろうか?
大きい男二人がにやにやしながらカウンターに座った。
「この店は客に茶の一つもでねぇのか?あぁ?」
「今日はなんの御用ですか。
今月分はもう納めたはずですか……」
震えながらもウサギ獣人の美少女はきっぱりと言った。
「いやぁね、兄貴がそれじゃ足りねぇって言ってんだよ」
男はニヤついてウサギ獣人の美少女に詰め寄った。
「そんな横暴な」
「いやなら出ていってもらっていいんだぜ。
それか何か、足りない分お前が兄貴の店で働くか」
「そっちの方が稼げるんじゃねぇか」
そう言って男たちはいやらしく笑った。
(なんかいやな感じだな)
すると男の一人がヴァイオレット達に気がついたようだ。
「客なんか入ってるじゃん。
お客さん、この店はやめたほうがいいぜ。
うまい飯屋なら他のみせ紹介するからさ」
「…………」
ヴァイオレット達はその発言をスルーした。
(こうやってこいつらがこの店に嫌がらせをするから
お客さんが来ないのね)
「お嬢さん……うちの店にきなよ。
もっと豪華でうまいもの出すからさ」
(あぁ……もううざい。
はやく帰らないかなこいつら。
事情もわからないから下手に反論もできないし)
「お客さんに迷惑ですから、やめてください」
ウサギ獣人の美少女は涙目になりながら反論した。
「あぁ?生意気いうんじゃねぇよ、獣人のくせに。
誰のおかげでここに店ひらけていると思ってんだ」
男は凄んだ。
(王都からかなり離れた場所でも……
まだこんな扱いなんだ……)
ヴァイオレットことすみれは悲しくなった。
「チッ……いいから、こいよ。
足りない分はお前がからだで払えよ」
そう言って男はウサギ獣人の美少女の手首を強引に掴んだ。
「やめてください……!!」
ヴァイオレットはリガロに目で促した。
リガロも頷いて席を立とうとした時だった。
「その手を放してもらおうか」
クマ獣人が男の手を振り払って、
ウサギ獣人の美少女を自分の後ろへと避難させた。
「フェリ……」
ほっとしたような顔になり、ウサギ獣人の美少女は
店の奥へと避難した。
「なんの騒ぎですか」
クマ獣人は男たちに睨みをきかした。
かなりの迫力があったのだろう。
男は若干声を震わせながら言った。
「こ……今月分に上乗せが発生したんだ。
今すぐ……300,000クーヘンきっちり払って貰おうか。
できなければ、このウサギを……」
クマ男はそれをきくと直ぐに店の奥に消えると
布袋のようなものを持って戻ってきた。
「ここにきっちりある。
それを持って消えろ」
男たちは一瞬ビクつきながら、その中のお金を数えた。
クマ男の言う通りきっちりあったのだろう。
「チッ……おまえら行くぞ」
「兄貴……いいんですか」
「今日のところは許してやらぁ。
じゃあなウサギちゃん」
そう言って店を後にした。
(テンプレな悪党だったな。
一体なんだったのあいつら……)
嵐のような出来事に面食らっていると
ヴァイオレット達の元に、クマ獣人とウサギ獣人の美少女がきた。
「騒がせてすまなかった。
迷惑をかけた分、今日のお代はいらない」
そう言って二人は頭を下げた。
「いいえ、そういう訳にはいかないわ。
ここの料理、可愛くてとっても美味しかったの。
だから料金はちゃんと払うわ。
払うだけの価値があるもの、あなたの料理は」
そう言ってヴァイオレットはにっこりと笑った。
「お嬢さん……」
ウサギ獣人の美少女は目を潤ませながら言った。
「フェリの料理は本当に美味しんだ。
それなのにあいつらが……」
「キャロ……やめろ。
お客様には関係ない事だ……」
「だって悔しい……」
そう言ってはらはらと涙を零した。
「よかったら事情を話してくれない?」
ヴァイオレットはそう切り出した。




