18.キラッキラのメニュー
ヴァイオレット達はわざと回り道を選んで国境の街を目指していた。
今は王都からかなり離れた港町に二人はいた。
ここは港町ゆえに、人の出入りが多い。
隠れるのにはもってこいの場所だった。
馬を売り、着ていた衣服やアクセサリーを売った。
少しのお金だけを残して、残りは架空名義の口座にいれた。
そして庶民的な服装に着替えた。
リガロは目立たないように頭からローブをかぶり
冒険者を装った。
「はぁ……久しぶりのベッドだぁぁぁ」
ヴァイオレットは宿屋のベッドの上にそのままダイブした。
「お嬢様、はしたないですよ」
リガロは笑いながら窘めた。
「リガロ、お嬢様はだめよ。
私たちは兄弟なんだから」
「そうでした……」
二人は怪しまれないように、兄弟を名乗ることにした。
「それでは、明るいうちに今後の進路を考えましょうか
と思ったけれど……。
お腹空いたから、ご飯食べに行きましょう」
リガロは何か言いたそうだったが、飲み込んだ。
出歩いて素性がバレたら危険だと思ったのだろう。
「わかりました。
私と手をつなぐことが条件です、いいですね?」
「…………」
ヴァイオレットは、渋々リガロの手を握った。
二人はメイン通りを歩いていた。
至る所に店が立ち並び、いい香りが漂ってきていた。
「うわぁ……どれも美味しそう悩むわ」
「携帯食ばかりでしたからね」
流石のリガロも目をキラキラさせていた。
「どこか安くて比較的綺麗なお店はないかな。
一本裏通りにでも入ってみる?」
「そうですね、路面店は高級店が多いですからね」
二人は角を曲がり路地へと入った。
しばらく歩いて、更に路地に入っていった。
ここまでくると下町にあたるのだろう。
地元の人が行くようなこぢんまりとした佇まいの店が増えてきた。
いくつかよさそうな店をピックアップしながら
更に奥へと歩いている時だった。
出汁のいい香りが漂ってきた。
(懐かしい香りがする……。
和食が食べたいな)
それは角にある定食屋のような店から香っていた。
「リガロ、この店にするわ」
「ここですか……」
お世辞にも綺麗な店とはいい難い店構えだった。
「うん、とてもいい匂いの出汁の香りがするの。
こういうお店の料理は美味しいに決まってる!」
そう言うと店の扉をあけた。
中は外見を裏切るくらい、綺麗なお店だった。
カウンター席4つにテーブル席が3つ。
各テーブルには……
赤いギンガムチェックのテーブルクロスがかかっており
小さいガラスの花瓶に一輪の小さな花まで添えてあった。
(あたりのお店だな。
掃除も行き届いているのがわかる)
二人は奥のテーブル席に座った。
すると店の奥からかなり大きな男が出てきた。
「らっしゃい……」
「…………」
ヴァイオレットはその男の顔をみてひきつった。
なぜなら、凶悪顔のクマ獣人だった。
(怖っ……。顔こわっ!
たった今三人ほど屠った面構えしているよ。
それなのに、腰に巻かれたカフェエプロンの柄が
可愛らしいクマっていうのが相まって、逆に怖い)
男は無言でメニューと水をドンとおいた。
コップもクマ柄だ……。
「決まったら。言ってください。
本日のランチはあの黒板にかいてありますから」
そう言うと、のしのしと歩いてカウンターに戻っていった。
気を取り直してメニューを開いてみた。
「えっと……。
森のくまさんお薦め“ふわふわパンケーキと森の妖精サラダ”。
“きまぐれ猫さんのグラタンとキラキラオレンジジュース”」
「…………」
リガロとヴァイオレットは無言で見つめあった。
(何、この死ぬほど可愛いメニュー達は!!
あの厳ついクマ獣人が本当にこれを作るのか?)
二人の心情はそう見事にシンクロしていた。
その噂のクマ男をみると、何やら難しい顔で魚だろうか
解体しているらしい。
(やばい物を処理している図にしかみえない……)
「リガロは決まった?」
「はい……。これにします」
口に出すのが恥ずかしいのだろう、少し頬を赤らめて
メニューを指でさした。
「わかった。じゃぁ注文するね。
すみませーん」
「はいよ」
二人はキラッキラの名前のランチを注文した。
「“ウサギさんのゴロゴロ野菜のポトフ”と
“リスさん達のお茶会セット”一つ」
「そちらのお兄さんが……
“ワイルド狼のステーキ祭り”と大盛ライス。
“いちご畑で捕まえてミックスジュース”以上だな」
凶悪顔のくま男は低音ボイスで、淀みなく
キラッキラなメニュー名を繰り返した。
「なんだか注文だけで疲れたな」
「確かに……フフフ」
「フェリ、お客さん?
手伝うよ……」
そこに店の奥から一人の少女が出てきた。
(ふぁ……ウサギ獣人の美少女!!)
「キャロ……ここは一人で大丈夫だ。
お前は休んでいていいぞ」
「大丈夫。今日は調子がいいから……。
いらっしゃいませ」
そういってウサギ獣人の美少女はにこっと笑った。
お揃いのカフェエプロンを巻きながら、店に出てきた。
(可愛いな……。
耳が白くてホワホワだぁ……)
心配なのだろう。
料理を作りながらクマ男はチラチラと少女を見ている。
(フフフ……。
恋人同士かしら、なんかいいなぁ)
「きっとあのこが考えたのだろうな、このメニュー」
リガロがポツリと言った。
「そうだよね。
凄く可愛い彼女の雰囲気にあってるよね」
そこに料理を運んできたウサギ獣人の美少女が
笑いながらこっそり言った。
「いいえ、このメニューはすべてあのシェフが
考えたものなんですよ」
「えっ?」
マジか……。
ヴァイオレットは思わず、料理とクマ男の顔を
交互に見比べてしまったくらいだ。
名前に劣らず……
出てきた料理も可愛らしいお皿に、可愛らしく盛り付けられていた。
(ニンジンが星形とウサギ型にくりぬかれている……。
どれ一つとっても仕事が丁寧で可愛い)
食べるのがもったいないくらいのクオリティーだった。
「いただきましょうか」
「は……はい」
味も美味しくて、ヴァイオレット達は大満足だった。
凶悪顔のクマ……恐るべし。




