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16.私は認めません……

父様達が消息不明になった。


朝食を取っていると、そんな一報が飛び込んできた。

セバスチャンがすぐさま本邸に連絡を取るが……

誰も応答しない。


「どういうことなの、あの執事はなにやっているの?」


ヴァイオレットは取り乱した。


なんで父様達までこんなことに。

やっぱり行かせなければよかった……。


落ち着け……。

動揺すればするほどドツボにはまる。


ヴァイオレットは深呼吸をした。

ふぅ……。

大丈夫、できる……大丈夫……。


よし!行くわ。


「リガロ、馬を用意して。

本邸に私が乗り込むわ。

一応覚悟はしていて、何か起こるかもしれないから」


そう言った少女の目にもう迷いはなかった。


「御意」


リガロは恭しく礼をすると、すぐさま部屋をとびだした。


「セバス、後の事はあなたの判断にまかせるわ」


「かしこまりました」


セバスの目も鋭かった。

これから起こるであろうことを予感しているのだろう。


「お嬢様……」


ダリアも双子のトラ獣人兄弟も神妙な顔をしていた。

モネも胸の前で手を組んで震えている。


「大丈夫だから、行ってくるね」


ヴァイオレットはダリアごと皆を抱きしめた。

そしてダリアにだけきこえるようにそっと呟いた。


もしもの事があったら、子供たちを連れて逃げなさい

いいわね、命を大事にするのよ。


「お嬢様……」


ダリアもぎゅっとヴァイオレットを抱きしめた。

そこにリガロが入ってきた。


二人は何も言わず抱きしめあって、無言で目をあわせて頷いた。


その時だった、ダリアが何かを首から外して

それをヴァイオレットの首にかけた。


「ダリア……これは?」


「これは、私が子供の次に大事にしているものです。

きっとこの先、お嬢様を守ってくれるでしょう」


それは、何かの牙だった。

察するにダリアの旦那様の牙であろう。


「こんな大事なもの受け取れないわ」


「いいえ、差し上げるのではありません。

今度会うときまで、貸して差し上げるのです」


そう言ってダリアはウィンクした。


「フフフ……。

わかったわ。貸して貰うわね」


お互いに無事に生き延びて、また会おうと遠回しに

言っているのだと思った。


「行ってくるわ」


「お帰りをお待ちしております」




ヴァイオレットは本邸の門の前についた。

やけに屋敷が静かだ……。


いつもいる門番がいない。


そのかわり見知らぬ男たちが二人、こちらを訝しんでみている。


「あなたたちは誰?」


「はい?おまえこそ誰だよ。

薄汚ねぇ獣人なんかつれてきやがって……

ここを何処だと思ってんだ。

公爵様のお屋敷前だぜ、うせろよ」


そう言って男たちはニヤついていた。


「あなたたちこそ、失せなさいよ」


ヴァイオレットは馬の上から冷たく男を見下ろした。

リガロだけは馬からおりて、男たちの動向を具に観察していた。


「あぁ?」


「私の顔を知らないなんて、どうせもぐりでしょうから」


「なんだと、黙って聞いてりゃ……

調子に乗りやがって」


男が殴り掛かりそうになったが、リガロが素早くその男の

手を払い落した。


「汚い手でお嬢様に触れないで頂きたい」


男たちは少し狼狽えながらも悪態をついてきた。


「チッ……獣人のくせに」


埒があかないので、ヴァイオレットはため息をつきながら

その男たちに向かって言った。


「仕方がありませんね。

本当はこんな事ありえないのですが、私から特別に名乗ります。

私は、ヴァイオレット=エムロード。

この家の者です。

いわば、あなたの主人です。

早く門をあけなさい」


男たちは目をあわせたあと、吹きだした。


「こりゃ、面白い事をいうお嬢ちゃんだ。

あんたがこのお屋敷のお嬢様なら……

俺はこの屋敷の公爵様だよ」


そういいながら下品な声で笑った。


おかしい、こんなにも話が通じないなんて

一体中で何が起きているの。


そこに誰かが呼びに行ったのだろう。

見覚えのある男がやってきた。


「これはこれは、

元お嬢様のヴァイオレット様ではありませんか」


男は愉快そうに口元を歪めてそう言った。


ヴァイオレットが常に怪しんでいた

筆頭執事のあの男だった。


あの裏切り者の取締役か!?

いや、取締役もどきか……。


取締役ではありませんよお嬢様……。


「元ですって?

何をおっしゃっているの?」


そんなヴァイオレットを見ながら嘲笑するように男は言った。


「あぁ、かわいそうな方ですね。

だからあなたは偽物なんですよ。

何も知らないし、知らされていない」


「…………」


更に楽しそうにその男は続けた。


「レナルド様達が消息不明になり……はや三日。

更にロベールぼっちゃんも消息不明。

ククク……」


父様が行方不明になったことを直ぐに知らせなかったのね!!


セバスにまで気がつかれないなんて……。

そうとう用心して情報操作をおこなったとしか思えない。


後の祭りだが、かなり陰謀めいた匂いがする。


「もう、もはやこのエムロード家は……

クロウ様のものになったのです」


その男はうっとりするようにそう言った。


「クロウ……?」


どなたですか?

ん?えっ?そんなキャラいた?

設定資料とか読みこなさないといけないレベルのキャラ?


ヴァイオレットは頭をひねった。

いいや、それは横においておこう。


「でも、まだ父様達の生死がわかったわけじゃない。

それなのに、勝手に当主が変わるなんてありえないわ」


ヴァイオレットがそう反論すると……

男はにやりといやらしい笑みを浮かべた。


「先ほど、国境付近の谷底で、馬車と共に男女の遺体が

発見されたようです。

持ち物から推測され、レナルド様達と判明されました」


「うそ……」


ヴァイオレットは馬から落ちそうになった。


「お嬢様!!」


リガロがしっかりとささえて、なんとか持ち直した。


「ですから、ロベール様もいらっしゃらない今

レナルド様の弟君の“クロウ”様が当主代理人となりました」


父様に弟なんかいたんだ。

知らなかった。

今まで一度も交流はなかったし、父様の口からきいた事ないな。

あやしい……本当に弟か?


「それにしても、おかしくありませんか?

順番でいくなら、ヴァイオレットお嬢様がすじかと」


リガロがそう反論すると、男は吐き捨てた。


「獣人ごときが、高貴な方達の話に水をさすな。

だから嫌なんだ、卑しいものは」


なんてしつれいな奴だろう。

ヴァイオレットは侮蔑をこめて男を睨んだ。


「ヴァイオレット様…。

確かに母君は公爵様の恋人の一人だったかもしれませんが

何処の馬の骨かわからない女が生んだ娘など。

本当に公爵様の娘なのでしょうかね……。

そういうわけで、クロウ様はヴァイオレット様を認めない

という結論をお出しになりました」


「はぁ?」


なに勝手な事してくれたんだよ。

国王はそれを認めたとでもいうのか?


「ですから、ただのヴァイオレット。

ここからお引き取り下さい。

これ以上騒ぎたてますと、衛兵を呼びますよ」


「お前……」


リガロが牙をむいて殺気を纏わせたが……。


「リガロ、いいわ。行きましょう」


「そうですよ、それが賢明な判断です。

では、さようなら。

()()()()()()()()()


そう言うと男は屋敷の中に帰っていった。



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