15.何かが起こっている……
あれから一か月後……。
お兄様とジャンは、隣国へと旅立って行った。
「お嬢様、お手紙でございます」
リガロが銀のお盆にのせて、ヴァイオレットの元に
手紙や書類を運んできた。
「ありがとう、あら……。
ジャンからあなた宛てにカードが届いているわよ」
「本当か!」
嬉しそうに尻尾をゆらしてヴァイオレットに飛びつきそうになった。
後ろから軽い咳払いが聞こえる。
「ゲッ!」
リガロはその顔を見た途端、飛び上がった。
「なんですか、その態度と言葉使いは」
リガロの額にビシッと教育的鉄拳が入った。
「痛って!じじい!何しやがる」
ビシッ、ビシッ、更に目にも止まらない早業で2発入った。
リガロは痛みに悶えて、床に転がっている。
「ホッホッホッ……。
ではお嬢様、失礼いたします」
何事もなかったように、リガロを引きずってセバスチャンは消えた。
(さすが伝説の執事、動きに無駄がない)
お兄様から、1週間に1~2回の割合で手紙が届いていた。
内容は日常のたわいない出来事や、隣国の様子などが
綴られていた。
時には、隣国にしか咲かない珍しい花の押し花のしおりが
入っていたり、綺麗な鳥の羽が入っている事もあった。
そして最後には必ず自分を気遣う一文が添えられていた。
私の可愛い天使。
ヴァイオレットいつもお前の事を想っている。
(お兄様、どうかご無事で)
ヴァイオレットは手紙を嬉しそうに抱きしめた。
しかし5ヶ月程過ぎた頃だろか……。
だんだんと手紙の間隔が空くようになった。
1週間に1回が、3週間に1回に。
1ヶ月に1回と確実に減っていった。
ぽつぽつとだが来ている手紙には特に変わった事は
書かれていない。
お兄様も王子様のお守りが忙しいのか……
勉強や課題におわれる日々が始まったのだろうか。
それともまさか好きな女性でもできたのかしら!
なんてのんきな事を考えていたくらいだ。
ある日……
1通の手紙が届いたのを最後にお兄様からの連絡は途絶えた。
もう3ヶ月ほど手紙は届いていない。
流石にこれはおかしい……。
父様に相談したところ、父様にも手紙は届いていないようだった。
私があまりにも言うものだから……
父様も心配になったのだろう。
王宮を通じて連絡を入れてもらった。
が、隣国からは儀礼的な定型文の書類しか返ってこなかった。
皆様元気で勉学に励んでおります。
的な内容だったらしい。
なんだよ、それ。
おかしいでしょう!
普通なら国賓なんだよ!
この国の王子様も留学しているんだよ!!
すぐに個人的に連絡がいって、お兄様直筆の手紙やカードなり
返送されてくるはずなのに……。
嫌な予感がしてきた。
そんな中………
急遽、隣国との外交パーティーが再来週に開催される事になった。
もちろん国を代表して、父様と義母が参加する事になっている。
タイミング的におかしくないか。
連絡も取れない国に、父様達が招待されるの?
お断りできないのだろうか。
何度も危険だと父様に進言したが、国同士の問題なので
お断りするのは無理らしい。
むしろ中で何か起こっているのなら、堂々と中に侵入できる
チャンスだから行ってくる。
くらいの勢いだったから……。
父様……以外に血の気が多いのよね。
まぁ、選りすぐりの護衛騎士の方が4人ついて行くし
何かあったら国際問題に発展するから……
隣国もそこまで愚かな事はしないだろうと考えていた。
それなのに、父様達が隣国へと入る直前に……
国境付近で消息が不明となった。




