14.師匠と弟子
そのころジャンは、いつも通りリガロに剣の稽古をつけていた。
最初の頃は、全くジャンに敵わなかった。
しかしこの頃は、10回に1回位は勝てるようになっていた。
今日も激しい打ち合いが続いていた。
「ほら、どうしましたか……
あなたの実力派こんなものですか」
ジャンは片手ですべてリガロの攻撃をかわしていた。
「はっ……」
「やみくもに打ち込んでも勝てませんよ。
あなたの自身の強みはなんですか、それを生かす戦法で
戦うことができなければ、私には一生勝てませんよ」
そんな言葉をいわれて動揺したのだろう、手の甲に
ジャンの攻撃があたり、剣が遠くへと弾き飛ばされた。
「はい、お終いです」
ジャンの剣が、リガロの喉元スレスレに突き付けられた。
「くそ……今日も勝てなかった」
リガロはその場に大の字に寝転んだ。
「この前よりは打ちこむ力も重くなっていますし……
周りの状況を見られるようになっていますよ」
「本当か!?」
嬉しそうにリガロはガバッと起きて獣耳をピコピコさせた。
「こら、調子にのらない。
あくまでもこの前よりもよくなっただけですから」
楽しそうに目を細めながらジャンは、リガロの頭を強く撫でた。
「ジャン師匠、子供扱いはやめてください」
そう言いながらも嬉しそうに尻尾を揺らし
ゴロゴロと喉をならした。
ふとそんな時にジャンは真面目な顔をして言った。
「リガロ……」
「はい、師匠」
そんな空気を悟ったのだろう、リガロは正座をしてジャンに向き直した。
「俺はしばらくこの国を留守にする。
ロベール様と隣国に留学する事が決まった」
リガロはひゅっと息を飲んだ。
「ジャン師匠……」
「そんな情けない顔をするな。
お前はりっぱなトラの戦士だろ」
「俺……まだまだジャン師匠に教えて貰いたいことが
たくさんあるんです」
動揺しながらも、言葉を頑張って絞り出す。
「…………」
ジャンも困ったように、優しくリガロの頭を撫でた。
「俺ももう少しお前とこの時間を楽しみたかったよ」
「ジャン師匠……」
リガロは赤い瞳から綺麗な涙をポロポロと流した。
「そこでお前に頼みがある。
ヴァイオレットお嬢様を守ってくれ……」
「…………!!」
「お前たちとお嬢様の出会いは決していい出会いでは
ないかもしれない。
しかしあれがあったからこそ、お前たちの家族は今……
平和に生きていられることはわかるな」
リガロは黙って頷いた。
「ああ見えて、ヴァイオレットお嬢様は聡い方だ。
まだ幼い方だが大局をみられる稀有な方だ。
お前が裏切らなければ……
お嬢様がお前を裏切ることはないだろう」
リガロの瞳が揺れた。
まだどう受けて止めていいのかわからない様子だった。
「どうか、ロベール様と俺が戻るまで……
ヴァイオレットお嬢様を守ると約束してくれ」
そう言ってジャンは頭を深々と下げた。
「ジャン師匠、やめてください。
そんな俺みたいなものに……」
「いや、お前を一人の男と見込んで頼んでいる」
締め付けられる心臓を抑えながら、リガロは首を縦にふった。
「わかりました。
このリガロ、命にかえてもヴァイオレットお嬢様を守ります」
その言葉を聞いてジャンは少しほっとした顔をした。
「じゃあ、続きをやるか!
本気でかかってこい」
「はい!!」
二人は日が暮れるまで、打ち合いをやめなかった。
 




