12.新しい生活
一生大事にすること。
そして一通りの教育を施して、自分に誠心誠意仕えさせること。
これを条件にトラ獣人達の保護を認めると父様から言われた。
お兄様は危険ではないかと凄く心配してくれたが
ジャンのとりなしもあり、渋々承知してくれた。
あの小太り男の事は調査してくれると約束してくれた。
自分のお膝元でそんな事が行われていることは
流石に許せないらしい。
本家のお屋敷に隠しておいて置くのは限界があった。
この国では、獣人の地位は低い。
表立って獣人を連れてあるいている貴族もいるが
それはきっと後ろめたい事で手に入れた者だろう……。
(みんな見目麗しい子達ばかりだけども、目が死んでいるもの)
それぐらいこの国では獣人の価値が低かった……。
かえのきくアクセサリー感覚だ。
人権などないに等しい……。
こんな理不尽な事が裏の世界とはいえ、堂々と罷り通るのだ。
できれば公爵家には迷惑をかけたくない。
なので、郊外にある別邸に静養する名目で……
私は盛大な引っ越しを行った。
数人の使用人とトラ獣人一家だけを連れていく予定だ。
今後は信用をおける者だけしか傍におかない。
本家の掃除が一掃したはいえ、正直言って油断はできない。
ここならば都心から離れているし、田舎なので
比較的に獣人に対する偏見も少なかった。
それに町の至る所で獣人を見かけることがあった。
なんでも近くにダンジョンがあるらしく……
冒険者が集まる町だからかもしれない。
獣人は能力が優れているので、傭兵になる者も多かった。
冒険ランクが上がれば、地位も名誉も手に入るのだ。
自分たちが脅かされない為に、傭兵になるのだ。
しかしその分色々な意味で犠牲になる者も多い……。
「モネ、お昼は近くの定食屋さんに行って
なにか買ってきてくれる?」
ヴァイオレットは自分の荷物を解きながら言った。
「かしこまりました」
「ジャンは、庭まわりの点検をお願いいたします」
「はい、かなり手入れが必要なようですね」
そうそう……
何故か伝説の執事こと……セバスチャンさんまで
ついて来てしまっていた。
当たり前のように御者の席に座っていた時には
驚きの声をあげてしまったわ。
でもまぁ、生き字引的な意味でもいてくれたら心強いわ。
このお屋敷でもいつ通り好きに過ごしてください。
でも今日は初日だから働いてもらうからね。
「セバスは……馬たちのお世話を……」
と言いかけたら、トラ獣人の双子達がそっと手をあげた。
「えっ?君たちがやってくれるの?」
ヴァイオレットは屈んで双子に視線をあわせて微笑んだ。
「お母さんの傍にいてもいいんだよ?」
「大丈夫です……できます」
双子のお兄ちゃんの方が震えながら答えた。
妹の方は恥ずかしそうに頷いた。
二人とも6歳くらいかな。
獣耳と尻尾がキュートなトラ獣人だった。
そう言えば、リガロは白いトラなのに
この二人はスタンダードというのか……
普通の黄色いトラなんだよね……
肌の色も褐色でもないし。
まぁ、可愛いからいいけどね。
でも、未だに完全に怯えは消えないようだった。
その為か名前も教えてくれない……。
それでも時間をかけて歩み寄ったおかげなのか
随分心を開いてきた感じはある。
リガロは相変わらず警戒をとかないまま、黙ってこちらを
みつめていた。
母親の方は一階の使用人部屋のベッドに寝かせてある。
昨日初めて獣人姿の彼女をみた。
凄い美人なトラ獣人だった。
(これじゃぁ、あの男が執着するのがわかるわ……
獣人は見目麗しい者が多いと聞くが、別格だった)
最初は掴み掛からんばかりの勢いで暴れたが……
双子達がそれをしがみついて止めた。
リガロも心配するように駆け寄ったので事なきを得た。
子供たちが全員無事なのがわかったからであろう。
泣きながらしばらく親子で抱きしめあっていた。
まぁ隷属の首輪があるから、実際のところ私には
何も攻撃ができないんだけどね……。
しばらくして彼女が落ち着いたところを見計らって
今まであったことを簡潔に説明した。
彼女はただ黙って話を聞いていた。
「そうですか……」
話しを聞き終わると思案するように目を伏せた。
「あなたが望むなら解放する事も可能です。
しかし今のままでは、危険の方が大きいかと思いますが。
お子さんも小さいようですし、あの男はまだあなたに
並々ならぬ執着があるようにみえます」
ヴァイオレットはそう言って彼女に決定権を委ねた。
「…………」
黙って彼女はヴァイオレットを見つめていた。
「あなたは私たちに何を望んでいるのですか」
やがて静かな口調でそう聞いた。
それは半分諦めのような感情だったのかもしれない。
瞳の中の光が死んでいた。
主人があの小太り野郎から、得体のしれない幼女に変わっただけ。
結局のところ何も変わらない……
そう思ったのかもしれない。
「そうですね……。
長男さんには私の従者になって欲しいかな。
トラ獣人の能力の高さは折り紙付きですもの!!
双子ちゃん達は、動物が好きみたいだから……
うちの屋敷の動物の世話を……」
「…………」
思ってもみなかった答えだったのだろう。
彼女は口をあんぐりとあけてヴァイオレットをみていた。
「あなたには……ご飯を作ってもらいたいかな。
私の侍女みたいなものですね。
あとできればなのですが、護衛も頼みたいかな。
女性しか入れないところとかもあるので……。
それにモネと一緒に屋敷の管理とかも任せたい」
「はぁ……」
何をいっているんだこいつ正気か!?
という顔をしながら……
リガロと目をあわせて首を傾げていた。
「最初は見習いだからお給金は少ないけれど
慣れていって一通りできるようになったらまた相談しましょう。
家族全員でこの屋敷で暮らしながら……
仕事を覚えていってください」
その言葉をきくと、彼女はいきなりハラハラと泣き出した。
「本当にそれでいいのですね。
子供たちはもう辛い思いをしなくてもいいのですね」
そう言って顔を両手でおって泣き出した。
「まだ体がお辛いでしょう、ゆっくりと休んでください」
そういってヴァイオレットはそっとトラの家族を残して
部屋をでた。
部屋をでると壁にもたれてお兄様が立っていた。
「お兄様!! 来てくださったんですか」
嬉しそうにヴァイオレットは駆け寄った。
「お前は本当にあれでいいのか?」
心配そうに瞳を曇らせながら頭を撫でた。
「この国にいる獣人は人嫌いが多い……。
特に女子供は辛い目にあった者がほとんどだ……。
いつ裏切ってお前に牙をむくのではないかと心配だ」
そう言ってヴァイオレットを抱きしめた。
「いいのです。
もし裏切られたとしたら、私がそれだけの者だったと言うことです」
微笑みながらヴァイオレットはそう言った。




