11.第一従者との出会い
「九条部長、リガロのENDってもう見ました?」
敏腕秘書のエリカは“クマクマスペシャル”という
クマ型のクッキーやゼリー、アイスがふんだんにのった
可愛らしいパフェをつつきながらいきなり切り出した。
「あぁ……虹の彼方で抱きしめてに出てくる
悪役令嬢の従者で褐色の白いトラ獣人だったかしら。
あのキャラって攻略できるの?」
そういうすみれは、ウサギ型に盛り付けられた
ババロアをどこから食べようかと思案している所だった。
「隠しキャラなんですよ。
メインの5人を攻略した後で、あるルートに進むと
攻略できます」
「そうなんだ、愁いを帯びたイケメン獣人だったよね」
そういうとエリカはにんまりと笑った。
「そうなんですよ。
GOOD ENDを迎えるとデロ甘の展開がまっているんですけど
BAD ENDは涙なしでは見られないんです」
そういってエリカはシュンとした。
「家族の復讐の為に……
全部……悪役令嬢のせいなんですよ。
あの時助けてあげていれば……
あ、ネタばれになっちゃうので
これ以上はいいませんが……」
そういってクマのゼリーを思いっきりつついた。
(なんか今更ながらこんな会話を思い出したわ)
確か悪役令嬢……つまり今の私だけれども
ゲームの中ではリガロ以外の家族は助けないんだよね。
お金も勿体ないし、価値がないとか言っていた気がする。
BAD END回避うんぬんより、私自身がこんな仕打ち許せない!!
「お嬢さま……ご無体な事をおっしゃる」
小太りの男は汗をかきながら困ったように眉尻をさげた。
「できないの?
この私を敵にまわすとおっしゃるのかしら」
怖い程美しい冷ややかな笑顔で一瞥した。
「いや……しかし……。
母親の獣体などもう使い道はありませんし……。
幼体の2匹はこれからの商品ですから」
「どう使おうとあなたには関係ない事。
さぁ、どうするの?」
淡々とした声で小太りの男に迫った。
「…………」
断るのは今後の事を考えて分が悪いと踏んだのだろう。
男は苦笑しながら言った。
「お嬢様にはかないませんな。
多少値がはりますがいいでしょう。
では、後程お届けにまいりましょう」
「いいえ、今すぐいただくわ。
表に馬車をよんでおりますから」
(後になんかしたら、何かしそうだからこいつ)
一瞬眉をしかめてムッとした様子だったが……。
「…………。
わかりました、おい見えないように表まで運べ」
「いいのですか、ご主人。
母親のトラ獣人は俺のものにすると言っていたのに」
「ばかやろう!! 余計な事を言うな。
いいから、お嬢様の言うとおりにしろ」
こうしてヴァイオレットはトラ獣人の一家を手に入れた。
馬車の中でトラ獣人達は息をひそめてこちらをみている。
先程念のために、母親と思われる獣体に上級ポーションをかけた。
表の傷はすべて治っており呼吸も落ち着いてきた。
数日間静養させれば、元の健康体に戻るだろう。
全員の首にはまだ隷属の首輪がはまっているが
お互いの信頼関係を築くまでは外さない方がいいと
ジャンがいうので、かわいそうだがそのままだ。
一人ぎらついた目でこちらを監視するようにみている少年。
おそらくこれが後の従者になる“リガロ”その人だろう。
思わず全員助けちゃったけれど……
これで何かが少しは変わるのだろうか。
それ以上に父様達に何と説明しよう。
昔私はあの小太り野郎から何か購入したのだろうか。
もうその事を考えると胃が痛い。
ヴァイオレット嬢よ、勘弁してよ。
お屋敷に帰り、こっそりと庭の空き家の小屋に運んだ。
流石に屋敷の者に見つかるわけにはいかなかった。
なんと馬車を操縦していたのは、あの伝説の執事のおじいちゃん!!
セバスチャンさんというらしい。
期待を裏切らない王道の執事の名前!!
執事といったらセバスチャン!
セバスチャンといったら執事!!
こんなイレギュラーなものをみても全く動じなかったよ。
むしろ優しい笑顔をしていたわ。
だからこのことを知っているのは、ジャンとセバスチャンだけ。
おいおいどうするかは後で考えることにする。
まずは父様達に説明よね……。
内緒にはできない案件だし……。
街から帰って来た父様達に恐る恐る説明をしてみた。
トラ獣人達をみた父様とお兄様は案の定固まっていた……。
ですよね……。
乾いた笑いしか出てこないヴァイオレット10歳夏の事であった。




