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10.もう一つのエンディング

今日もお兄様と一緒に父様の視察のお供をしています。


我が領地で一番大きい街“クロッシュ”に来ています。

王都にも比較的近い地域なのでかなり発展した街だ。


その分問題も大きい。

勿論……地域によっては危険な場所もあるし犯罪も起こる。


残念な事に貧富の差も顕著に出てしまうのが都心部だ。


父様とお兄様は街の代表と問題点を改善する会議に参加中。


私は孤児院の訪問が終わったので……

行きつけらしいパティスリーに向かう途中だった。


専属侍女のモネ曰く、ここのチョコレートケーキじゃないと

食べないからと言われ何度も買いに行かせられたらしい。


なんかごめん、全く記憶がないから本当にごめん。

と密かに心の中で謝っておいたわ。


そこがどうやら下町にあるパティスリーらしく

馬車で乗りつける訳にはいかないようだ。


仕方がないので、大通りに馬車は待機してもらっている。


自ら行くことに反対されたのだが、どうしてもいかなければ

いけない衝動に駆られ久しぶりに我儘を言ってみた。


そこで打開策として……

あまりよろしくない地域の近くなのでジャンが護衛として

ついて来てくれることになった。


目立たないように町娘風のドレスに身を包み

二人で下町を歩いていた。


「お嬢様の我儘が久しぶりに出ましたね。

今回はまた何を企んでいらっしゃるのですか?」


ジャンはにやにやとした笑みを浮かべていた。


「企むって……」


ヴァイオレットはジト目でジャンを睨んだ。


ジャンはヴァイオレットの今までの我儘や奇行の

すべては人を見極めるための演技だったのだ!

という勝手な解釈で納得をしていた。


あの時以来、自分へのあたりが随分柔らかくなった。

下手すると尊敬の眼差しで見られる事もある。


ごめん……中身が入れ替わっています。

とも言えず毎回何とも言えない気分に陥るのであった。


そんな時だった……。


ギャンンンンン!!


獣が発する悲痛な声が路地裏から聞こえてきた。


「…………!!」


その声を聴いた途端ヴァイオレットは、思わず駆け出していた。


「ちょ……お嬢様……」


ジャンも急いでヴァイオレットの後を追いかけた。


キャン!!ギャンンンン!!

悲痛な声は止むどころか酷くなっていた。


狭い路地を抜け、そのまま更に奥に進むとそれはあった。


どうやら男が鞭をもって何かを叩いているようだ。

それは叩かれながらもギラギラした目をしており

決して屈服している感じはなかった。


その横の檻にも、傷ついた獣が虫の息で横たわり

それに縋るように泣いている子供の獣が二匹入っていた。


余りの光景にヴァイオレットは言葉を失った。


「あっ?何みてんだ……お嬢ちゃん。

あんたのような子が来る場所じゃないぜ」


そう言って男はいやらしい笑顔を浮かべながら

ヴァイオレットを上から下までなめまわすようにみた。


その間にもそれを足蹴にしていた。


ジャンが間もなく追いついてヴァイオレットを

庇う様に前に出ようとした。


「チッ……おもり役の兄ちゃんか。

お嬢ちゃん迎えがきてよかったな……」


その男は更に目を細めてニヤついた。


すると後ろの扉が開き、小太りの中年男性が出てきた。


「躾は終わったのか」


「へぇ……それが……」


そう言ってヴァイオレットの方へ視線をなげた。


「ん?」


小太りの男は訝かしむようにヴァイオレット達をみた後

何故か急にしたしげに頭を下げた。


「これは、お嬢様……。

お久しぶりでございます、あの時以来ですな」


(えっ?知り合いなの!?)


すみれは顔が引きつりそうになったがそこは堪えて

優雅に微笑んだ。


「足が疲れたわ……。

それにドレスが汚れてしまう、ジャン……抱っこ」


そこで徐にジャンに抱っこをせがんだ。

ジャンは一瞬目を剥いて驚いたが空気をよんで抱き上げた。


その瞬間ヴァイオレットは耳元にこっそり呟いた。


「全く記憶がないけれど話をあわせるわ、いいわね」


ジャンに抱かれたままヴァイオレットは男たちを

優雅に見下ろして微笑んでいた。


「今日もまた新しい玩具をご所望ですか」


男はもみ手をしながらへりくだった。


(今日もまたって……)


すみれは倒れそうになった。

ヴァイオレットさんや幼女のお買い物にしてはネタが

ヤバすぎませんか……。


そこではじめて男の下でギラついてこちらを睨んでいる

赤い瞳と目があった。


パシャ!!


またあの時のような眩しい光とシャッター音が聞こえてきた。


「お嬢様が悪いのですよ。

あの時ひとこと…………と言ってくだされば」


そう言って褐色の肌をしたトラ獣人は涙を流した。


どこか地下室のような場所にいるらしい。

しかも自分の首と足には鎖のようなものがつけられている。


狂気に彩られた瞳で見つめながらその男は牙をむいた。


「今日からは俺がご主人様です。

あなたのその絶望に歪んだ顔がみたかったのです!!

この日をどんなに待ち望んだことでしょう。

さぁ……お嬢様……いやヴァイオレット……

覚悟はよろしいですか……」


そう言って男は舌なめずりをした……。


これはもしかして……BAD ENDのひとつなのかしら。

ヤバい……ヤバすぎる……。


眩暈を起こしそうだ……。


「……様、………様!!」


ハッとしてジャンの顔を見ると心配そうに眉を下げていた。


「大丈夫ですか、お嬢様……急に固まって真っ青に

なっていらっしゃいましたので」


「大丈夫よ、少し考え事をしていただけ」


何かいいたそうな顔をしていたが、小太りの男は

あらためて笑みを浮かべてもみ手をしながら言った。


「ここではなんですから、店の中にご案内します」


「結構ですわ……。その子をくださる?」


ヴァイオレットは男が鞭を振っていた者を指さした。


「こちらでございますか。

これはまだ仕込む前でして……その……」


男はしどろもどろになった。


「それならば、こいつの弟はどうでしょう。

ほら、こちらにいる幼体の1匹です」


そういって檻の中の子供を指さした。


その瞬間虫の息だった獣が牙を剥きだして唸った。

死にそうになっても子供を守りたいのだろう。


(泣きそうになる……。

泣くな……ここで選択も間違えてはいけない……)


すみれはぎゅっと自分の手を握った。


「そこにいるのは家族なの?」


平然を装って聞いてみた。


「はい、珍しくトラ獣人の家族が手に入りましてね。

母親の方は可愛がってやろうとしたのですが……

獣姿から戻らないので、こうして子供に躾を……

おっとお嬢様にきかせる話ではありませんでしたな」


そういって男は楽しそうに口元を歪めた。


(こいつ絶対あとでそれ相当の報いを受けてもらうわ!!)


俄然すみれはやる気になった。

ジャンも全身で嫌悪感を露わにしていた。


「それならば、この家族ごと私にくださらない?」


そういってヴァイオレットは妖艶に笑った。


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