1.目が覚めたら幼女でした……
眩しい光が差し込んできた……。
もうそんな時間なのか。
昨日は飲みすぎたかな?
専務の接待に同行した所までは覚えているけど
そこからの記憶が曖昧だ……。
確か今日は朝一で経営会議があったはず。
資料は昨日の夜確認したから大丈夫だ。
そんな事を思いながらベッドの横のサイドボードに
置いてあるスマホに手を伸ばそうとした。
ん?
あれ?届かない?
なんでだろう?
いつもより手が届く範囲が狭い?
改めて眠い目を擦りながら……
上半身を起こすとさらりと長い薄紫の髪が顔にかかった。
「えっ?」
スベスベで艶々の薄紫の髪を一房手で掴んでみる。
私の髪の色こんな色でしたっけ?
「へ?」
それ以上に驚いたのは自分の手の大きさだった……。
ちっちゃ!!小学生並みの手の大きさだよこれ……。
改めて自分の体を見てみた。
純白の総レースのネグリジェを着用。
そこからしてもうおかしい。
確か寝るときは綿100%のパジャマを着ていましたよ。
そのまま視線を下に下げていった。
胸がツルペタ……。
手は小さくてムチムチしている……。
おかしいな夢の中かしら。
よし、もう一度寝てしまおう。
そう思って再度体を倒して布団に潜り込もうとしたとき
上から声がふってきた。
「おはようございます。
ヴァイオレットお嬢様」
ザ・メイドと言っても過言ではない装いの若い女性が
少し引きつらせた笑顔でベッドの横に立っていた。
「おはよう……ございます?」
驚きのあまり疑問形の返しになってしまったが
返事を返してみた。
するとそのメイドは目をこぼれんばかり見開いて
口元に手をもっていき固まっていた。
えっ?
朝の挨拶の返しって“おはようございます”
じゃなかったかしら……。
“Good Morning”とか、まさかの“Bonjour”じゃないよね?
ドキドキしながらメイドさんの顔をじっとみていた。
「し……失礼いたしました。
寝覚めの紅茶を持ってまいりました」
メイドさんはハッとしたように我に返り……
真っ青になりながら震える手でカップに紅茶を注いだ。
(新人さんなのかな?
さっきからぎこちない事この上ない)
余りの緊張からなのか、カップがガチャガチャ言っている。
ハラハラしながら見守っていると……
案の定手を滑らせて、盛大に床へ紅茶をぶちまけた。
「…………」
(あっ……零した。焼けどしてないかしら)
無言のまま自分を見上げている主人の顔色をみた後
メイドさんは死の宣告を受けたように更に真っ青になり
その場に土下座した。
「申し訳ございません。
どうか……どうか命だけはお助けください」
必死に床に頭を擦りつけて懇願してきた。
これはいわゆる土下座ってやつよね。
生で初めて見たよ……。
(えぇぇぇぇぇ!!
どういう事!?
紅茶を零したぐらいで大げさな……)
メイドさんの余りにも真剣な謝罪に逆にドン引きなんですけど。
「平にご容赦ください」
プルプルと震えて頭を下げている。
「大丈夫?」
「えっ?」
涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げて……
目が零れ落ちるのではないかというくらい驚いた顔をしていた。
(だから一体なんなのよ?
なんで私が言葉を発する度にそんなに驚くのかな?)
朝の爽やかな時間なはずなのに……
何故だが微妙な空気が流れるばかりだった。




