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ヒロインの癒しはもじゃ頭の王子です  作者: 夕山晴


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もじゃもじゃの下

 出来事はゆっくりと動いたように見えた。


 ゲルトが短剣を取り出し、何をしようとしているのかわかったとき。

 大事な人だから、とアルビーの腕を掴む彼を止めようと手を伸ばしていた。

 さすが魔術師、しかも副団長。魔術によるものだろう、思うように足が動かせないことが憎く、歯がゆかった。


 大事だから守りたいと思うのに、アルビーには手が届かない。


 必死な思いだけが募る。

 そのとき、アルビーがそっと自身の前髪に手を当てた。


「え?」


 それはアルビーがずっと守ってきた弱い部分のはずで。

 見せたくないからと隠し続けてきたものであり、そのために謎に包まれていたもので。

 思わずごくりと喉が鳴る。


 あらわになったアザにライラは目を奪われた。


 褐色のアザ。

 顔の上半分に断片的に広がるそれは確かに目立ち、惹きつけられる。


 それは──大輪の花が花びらを散らすかのような模様。丁寧に作られた絵のようで、気づけば声が漏れていた。


「……きれい」


 アルビーの瞳は、澄んだ綺麗な碧色をしていた。




「気持ち悪く、ないか」


 自ら見せつけたアザだが、大きな葛藤はあっただろう。

 言いにくそうに──聞きたくなさそうに顰められた眉間。そっと力を抜いてあげたくなる。

 大丈夫だよと安心させてあげたい。


「まさか! こう言うのは気に入らないかもしれないけど……花の模様なんて、アルビーにぴったりね」


 アルビーは少し瞠目し、口の端だけ上げる。


「花って。そんなこと言ったのはあんただけだ」


 まんざらでもなさそうな様子にライラは思わず顔を背けた。

 今まで見たことのなかった瞳が嬉しそうな色を浮かべている。それがよくわかる。もしかしたら今までも、髪で見えていなかっただけで同じ様な目をしていたことがあったかもしれない。


 そう思うと急に気恥ずかしくなった。アザだけを凝視する。


「少なくても私には……気にならないと言ったら嘘になるけど、綺麗な花の絵みたいだと思うのは本当」

「これのどこが絵なんだか」

「ええ? どう見ても花だと思うのだけど。私がおかしいのかな?」

「そうだな。これまでそんなものに例えたやつはいなかったな。それが答えじゃないか」

「あ! もしかして、アルビーだからかしら」

「……まだ言うのか、それ」


 いつもの調子に笑いあって、アルビーの目が直視できないことを誤魔化した。

 きっと見慣れていないからだと言い聞かせることにする。


「いやいや、待ってください。アザもですが、その顔……!」


 驚愕し、しばらく口を開けたままだったゲルトだが、落とした短剣はそのままに、手をブンブン振った。

 会話できるほどには復活したようである。


 ライラはちらりとアルビーの顔を盗み見た。


 ゲルトに言いたいことはあるけど、気持ちはわからなくはないわ!

 まさかこんな顔だなんて思っていないじゃない。


 ゲルトの声は悲鳴に近かった。


「その顔は、ロイ王子殿下の……!」


 もじゃもじゃ頭の下から覗いた碧の瞳。その目はロイと同じもの。

 整った顔がもじゃもじゃから出てきている。本人には決して言わないが、まるでそぐわない。


「ああ、本当、嫌になる。双子なんだ、知ってるだろ、王宮勤めの魔術師なら」


 アルビーはゲルトの反応に気にした様子もない。


「っええ! 存じておりますよ。しかし! 第二王子殿下は病気を患い、王宮の奥で静養されていると!」


 アルビーは呆れた顔で額と地面を交互に指し示す。


「だから、これがビョーキで、王宮の奥がここ。うまく捻じ曲げるもんだよ、本当。この顔を見て剣を振るうのを思い留まってくれたようだから王族には敬意を払ってくれてるんだろう。まあ、聞くか聞かないかはお前の好きにしたらいいけど、気を付けた方がいいんじゃないか。いいように使われたくないなら。普通に騙してくる奴らだぞ」


 嘘だと喚き散らそうにも、瓜二つの顔を前にしては簡単に否定できない。

 可哀想に、ゲルトは何も反論できずにわなわなと拳を震わせるだけだ。すっかりとアルビーに剣を向ける気はなくなったようである。


 ライラはほっと胸を撫で下ろしたが、ずっと向けられる優しい眼差しが耐えられない。

 嫌ではない。嫌ではないのだが。


 慣れない! え、アルビーってこんな感じだったかしら……!?


「ん?」


 戸惑いを隠そうと躍起になるライラの横で、アルビーが顔をしかめた。

 それから、アルビーが何かに気づいたように、周囲を見回した。すうっと目を細める。心底気に入らないとばかりに顔を歪めた。かろうじて舌打ちは我慢したようだ。


「ああ。いるのか。もう話は終わったようだから連れて行ってほしいんだけど」


 ゲルトでもライラでもない誰かに話しかけて、アルビーはライラの横に並ぶ。


 すると声が聞こえた。ここにはいないはずの誰かのもの。


「うーん。君のそれ、僕にはなかなか不都合なんだけれど、どうにかならないかな」

「俺もお前の気配なんて、別にわかりたくない」


 ちょうどゲルトの背後。

 空間を裂いたように、ひょっこりと出てきたのは、アルビーと同じ顔。第一王子のロイだった。


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