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王から紹介された彼ら1

 王宮で暮らし始めてから一ヶ月ほど経った。


 連れてこられた直後と比べると、だいぶ頭の整理もでき、それなりに生活はできている。

 子爵家で身の回りの世話をしてもらっていた侍女も呼び寄せてもらったため、見知った顔があるというだけでも心身の負担は軽減された。


 とはいえ、一番ストレスを感じる元凶はなくならない。


 ライラの周りにはよくイケメン──主に王から紹介された例の四人だったが──が現れる。


 これこそが今ライラを悩ませる大元だった。


「ライラ嬢! よかった、会えて。薔薇が綺麗に咲いていたから、君に渡そうと思って」

「ロイ殿下、」

「いやだな。君には殿下だなんて他人行儀に呼ばれたくないな」


 ロイはライラを引き寄せ、薔薇の花束を握らせる。

 少し屈んでライラを覗き込むものだから、真正面にイケメンの顔がある。



 いぃーやあぁーー!


 ライラは叫んだ。もちろん心の中で。

 顔は変わらず、レッスンで鍛えたお淑やかな笑みだ。


 イケメン! イケメンの顔が目の前に!


 ライラにはイケメンの耐性がなかった。

 前世は平凡地味、そして今世は田舎者。

 そんなライラには、顔の華やかな面々は眩しすぎるのだ。


 だからこそあまり関わらないようにしたかったのだが。


 興味のない素振りが物珍しかったのか、はたまたヒロイン補正なのか──ライラは後者だと思っている──、なぜだか気に入られてしまったのだ。


 もちろんイケメンは好きよ。

 好きだけども! 


 まったくもってイケメンに好かれたいわけじゃない。嫌われたくもないけど。


 イケメンに好かれるという想定外な事態にライラは戸惑い、会えば逃げるそして追いかけられる、を繰り返している。


 イケメンは少し遠目から眺めるのがいいのだ。

 眼福だし、心臓にも悪くないし。眼福だし。


 近すぎるイケメンの顔からじりじりと離れつつ、距離感って大事なのよ、とライラは思う。


「まあ、なんて素敵な薔薇なのでしょう。ありがとうございます」


 当たり障りなく答えて、更に続ける。

 ここからが大事なところだ。


「でも、こんなにたくさんの薔薇を一人で楽しむなんて……。そうですわ、ルーン様にもお裾分けしてもよろしいでしょうか」


 その名も。

『子爵家への好感度は落とさず、それとなく貴方には興味ありませんと伝われ』作戦よ!


 金髪の髪から覗く碧の瞳が数回瞬いて、ロイは花の中でふわりと笑った。

 風と共に薔薇の香りがライラを包む。


「なんて優しいんだ。そういえばルーンも薔薇が好きだったね。それは君にあげたものだから、君の好きにしたらいい」

「…………え、ええ。ありがとうございます。そうさせていただきますわ」


 作戦失敗、なの!?


 もらった花を他の男に譲ると言っているのに、ロイは目を細めて微笑むばかり。

 優しいのはどっちよ、とライラは思うが、失敗した手前、早々に退散するに限る。


「では、失礼いたします」

「待って」


 ひいぃー。手をお離しになってー!

 引かれる手を凝視する。

 少し振ってみるが、びくともしない。


「な、なにか?」

「今からルーンのところに行くの? ……本当に君は僕の気を引くのが上手だね。みすみす行かせると思う?」

「そんなつもりは!」


 断じてない。

 だって、さっき、自分であげていいって言ってたじゃない!


 再び腰を引き寄せられ、目の前にはイケメンの顔。

 眩しくて目も開けられない。

 というかいつも距離が近いのよ。王子だからって何しても許されるわけじゃないわよ。


 ライラはしきりにヒロイン補正め……! とぼそぼそ呟く。

 最初は普通に向かい合って話していたのだ。なのに日を追うごとに距離は段々近づいて、一ヶ月経った今、話すときにはどこか触れ合っている。

 いや、おかしいでしょ。


 薄目で悶々とこの世界の神か何かに文句を言っていると、前髪越しにロイの唇が触れた。

 小さく、ちゅ、と音がして慌てて離れる。


「な……!」


 額を押さえて飛び退いたライラを見て、ロイはおかしそうに口元を手で隠す。


「これくらいはね。じゃあルーンによろしく伝えてくれ」


 颯爽と去るロイの背中を見送って、へなへなと座り込んだ。ダメージ大である。

 ライラは這うように側の木に近づき、寄りかかる。

 青空は爽やかで、頬を撫でる風は穏やかだ。


 こんな気持ちに私もなりたい。


 貰った花束を横へ置き、ライラは空を見上げる。

 ゆっくりと動く雲は、今のライラを少し和らげてくれる。




 しかしそんな平和もすぐに崩れ去った。


「何してるのー?」


 ひょっこりと顔を見せた本日二人目のイケメンに、零れそうになる盛大な溜息を口を塞いで押し込めた。


「そんなに感動してくれるなんて嬉しいなあ」


 都合よく解釈してくれた、魔術師のルーンである。

サブタイトル 脇役の彼ら1

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