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ヒロインの癒しはもじゃ頭の王子です  作者: 夕山晴


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中庭のパーティー3

 

 テッドに無理やりグラスを押し付けられ、暗いガーデンへ足を踏み入れる。


「六、七、八……」


 テッドに言われた「いいから二十歩進め、何もなかったら戻ってこい」を忠実に守り、ライラはゆっくりと歩く。背後の光が少しずつ遠ざかる。


「……二十」


 そこに現れた人影を、怖いとは思わなかった。

 見慣れた背格好に顔はほころぶ。


「アルビー?」

「……ああ」

「どうしたの! こんなところに! ……もしかして会いにきてくれた?」

「……テッドがうるさくて」

「会いにきてくれたんだ!」


 嬉しくなって、持っていたドリンクを一つ手渡す。

 二人、顔を見合わせてから、その場に腰を下ろした。隣り合わせだ。


「いつの間にテッドと仲良くなったの」

「いや、あいつが押しかけてきて……立入禁止だって言ってるのに……あんたの幼馴染なのも納得だ」

「ふふ、図々しいのかしら。田舎者だもの」

「田舎かどうかは関係ないと思うけどな」


 遠くで笑い声と音楽が聞こえる。

 今朝はガーデンに行くのを避けてしまった手前、ライラは少し落ち着かない。


「あの、ごめんなさい。ガーデン、大丈夫だった?」


 間違いなく、ガーデンに人が押し寄せたのはライラのせいだ。

 恐る恐る尋ねてみたが、アルビーに気にした様子はなく、ライラを非難するつもりも元より無いようだった。


「別に。聞いてるとは思うけど、昨夜だけ立入禁止が解かれたが、人数制限ありでの入場時間厳守だったからな。気にしなくていい」

「……そう。だったら、いいんだけど」

「あんた、申し訳なく思ってるんだろう」

「!?」


 なんなの。最近鋭すぎない?


 暗がりでライラの表情は見えにくいはずだが、アルビーは「やっぱり」と溜息を吐く。


「だからあえてガーデンには顔を出さなかったな?」

「え……どうしてわかるの。今までそんなこと気づかなかったじゃない」


 人に興味がなさそうなアルビーにわかるはずがないのに。

 そう思ったが、アルビーがからくりを明かしてくれる。


「と、テッドが喚き散らして行った」

「な、なるほど」


 アルビーが立てた人差し指に、ライラは大きく頷いていた。


「で、テッドがどうしてもこいって言い続けたから、仕方なくここにきた」


 そう言うとアルビーはドリンクをあおる。

 眉はしかめてそうだが、言葉に棘はない。仕方なく、ではあるものの、嫌ではなかったからきてくれたのだ。


「ふうん。そっか! うふふ」

「うわ。変な声で笑うなよ」

「ふふ、だってー。嬉しいんだもの」


 前のアルビーなら、どんなにテッドが居座って喚いたとしても、人が集まる場所にきてくれることはなかっただろう。

 彼の中での自分の存在感が大きくなっている気がして、ますます顔は緩んだ。


「でも、大丈夫なの? あまり人に会いたくないんじゃ」

「ああ。だから、ここ」


 真下の地面を指さした。

 暗い場所では人の顔が判別しにくく、万一顔を見られたとしてもアザまでは見えそうになかった。


「あいつは納得してなさそうだったけど。ここだけは譲れないから」


 強い意志を感じ、ライラは「そうよね」と従順に頷いた。


 暗闇なのはテッドの嫌がらせなのかと思ったことは内緒にしておこう。


 ライラはそんなことを思い、するりと話題を変えた。


「あ、アルビー。聞いて。大事な話」

「え?」

「あのね、私が昨日二回、力を使ったこと、ロイ殿下は知っていたのよ」


 アルビーの意識を向けさせたあと、今日知った事実を打ち明けた。


「ロイ殿下だけじゃない。キース様もフリッツ様も、たぶんルーン様も、知っていたんじゃないかしら」

「……なんだって?」

「ちょっと、怪しいでしょ。訓練場の出来事は防護の魔術のおかげで外には漏れないはずなのに。明日、詳しいお話を聞けることになったから、聞いてくるね」

「…………気をつけろよ」

「うん。大丈夫。危険な雰囲気はなかったもの。なんだか話に思い違いがあるみたい。またわかったら教えるね」


 心配そうな視線を遮るようにドリンクに口を付けた。

 パーティーの喧騒が少し遠くで聞こえ、ライラたちのいる場所だけが切り離されたように思える。


 アルビーの心地よい声、話し方、自然体での会話。疲れた心身に染みるようで、今のような時間が大事なのだと、ライラは感じていた。


 アルビーには癒されてばかりね。私も、何かしてあげられているかしら。

 迷惑ばかりかけている気がするけれど。


 じっとアルビーの前髪を見つめる。

 その奥にある瞳は何を見ているのだろうか。

 風に揺れても見えない前髪の奥。気にならないと言ったら嘘になってしまう。けれど、無理矢理に見たいとは思わない。


 見つめ続けていると、アルビーが体勢を変え、ライラの真正面に身体を向けた。彼の口がふ、と弧を描く。


 ──!?


 もじゃもじゃの前髪。さらに今は暗闇だ。

 あり得ないはずだというのに、目が合ったような錯覚を覚え、ライラの心臓は大きく跳ねた。


 知ってか知らずかアルビーが口を開く。


「ああ。そうだった。あんた、そういうのも着るんだな」

「え? あ! っ、どう? 似合ってる?」


 心拍の変化になのか、それとも突然の話題になのか。一瞬戸惑ったが、確かにいつもとは全然違う着飾った姿。

 立ち上がってスカートの端をつまんで広げて見せる。ズボンではこうはできない。

 おまけに美少女の笑顔もつけてみる。

 そうこうしているうちに心臓の音は気にならなくなった。


 しかし残念なことに、少し期待していた褒め言葉は全く聞こえてこない。


「………………まともに、見える」


 これだけである。


「ええ!? もうちょっと何かない? 私だって元々、一応、ほんとに一応だけど、貴族の一員なのよ!」


 仕方がないので、アルビーの緩んでいた口元が褒め言葉の代わりだと思うことにした。




 ライラが素知らぬ顔でパーティーへと戻れば、テッドが待ち構えていた。

 にやりと笑う。


「どうだ? イイコトあった?」


 つられるように、ライラの顔も緩んでいた。


「うん。ありがとう」


 お互いに片手を挙げて、手のひらを鳴らした。

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