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ヒロインの癒しはもじゃ頭の王子です  作者: 夕山晴


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中庭のパーティー2

 

 ロイの何でもないような様子にぶわりと鳥肌が立つ。肌が見える二の腕をさすった。


「え、どうして、ですか」

「ああ。ライラ嬢が悩んでいたようだったからね。彼相手には、一度、成功しているだろう? だから、もしかしたら、と思って彼を呼んだ」


 鳥肌は消えない。優しいと思っていたロイが、魔術師たちと同じことを言う。


「……彼の傷を治させるため……いえ、傷つけるために?」

「言い方が悪いね。──だが、そうだ。結局うまくできたんだろう? よかったじゃないか。さすがライラ嬢。頑張ったね」


 行われた非人道的なことに顔を歪めるでもなく、ただライラを褒める。気まずい様子もない。

 ロイもまた、聖女に対して盲目的なのだろうか。しかし、続く言葉は思っていたものとは違っていた。


「だからこの場に彼も呼んでいるよ。一番の主役は君だけれど、そのための功績者は彼だからね。ライラ嬢のついでのようにはなってしまったけれど、間違いなく彼はこのパーティーの主役に値する」


 テッドのことをまるで実験台のように扱っていた魔術師とは違い、多少の気遣いはしてくれるようだった。

 しかしライラは納得できない。


「でも、今回は治ったからよかったですが、もしかしたら治らなかったかもしれない。そんな危険なことを彼にやらせるなんて」


 ロイは首を傾け、それから安心させるように微笑んだ。


「小さな傷くらいで危険なことにはならないと思うが。まあライラ嬢の言い分もわかるよ。だから念のために回復薬も準備してあった。聖女が持つ癒しの力には遠く及ばないが、小さな傷を塞ぐくらい、問題ないからね」


 今度はライラが首を傾げる番である。


 小さな傷ですって? あんなに血がたくさん出ていたのに?

 それに回復薬って……? 魔術師たちはそんなこと一言も言っていなかったのに。


 そんな様子を見ていたキースが割って入ってくる。いつの間にか顔から笑みは消えている。


「なんか、嚙み合ってないんじゃないか。様子が変だ」

「ええ。私も少々気になっておりました」


 フリッツもまたキースに同意したところで、呑気な声が聞こえてきた。


「あ、ライラ発見~」

「……テッド!」


 不躾に上から下までライラを吟味するように見てから、テッドはにかっと歯を見せた。

 親指を立てる。


「いいな! やっぱりちゃんと女だったんだよな。別人じゃない?」

「ちょっと! 失礼すぎるでしょ。しかも王子殿下の前で!」


 ライラは幼馴染の醜態に、「申し訳ございません」と頭を下げる。

 懐が深いのか、庶民だから仕方ないと思ってくれているのか、ロイも他の皆も窘めるようなことはしなかった。


「ちょっとライラ借りますね」

「え! 今すごく大事な話をしているんだけど」

「ええ、その話、また今度じゃダメなわけ? せっかくのパーティーなんだからさ。ダンスもあるんだって?」

「って、あなた、踊れないでしょ」

「いいの、いいの。こういうのは雰囲気を楽しむものなの。わからなくたってなんとかなる」


 言いながらライラの腕をぎゅっとひっぱる。


「ちょっと!」

「一番の功績者、なんでしょう。だったら俺にも少しくらいイイコトがあってもいいと思うんですよね」


 憤るライラを意に介さず、何を思ったのか不敵な笑みをロイに向ける。ライラは内心冷や汗をかきっぱなしである。

 多少イライラしそうなものだが、さすがに王子、穏やかな表情を崩すことはなかった。


「そうだね。今の話はまた明日にでも時間を取ろう。テッド殿の言う通り、せっかくのパーティー、ライラ嬢に楽しんでほしいからね」


 そう言ってロイは小さく手を振った。行っておいで、と余裕である。


 すみませんすみません、うちの領民の態度が悪くてすみません。


 申し訳なさでいっぱいになりながら、テッドにずるずると手を引かれ、あっという間にガーデンの中央を陣取った。

 恥ずかしげもなく堂々と繰り広げられるのは、貴族のダンスではなく、領地内のお祭りを彷彿とさせるようなテッドの踊り。心から楽しんでいるように見えるテッドに、とうとう申し訳なさも吹き飛んだ。ライラはくすくすと笑みをこぼす。


「ああ、やっと笑った」

「え?」

「ライラ、あの人たち苦手でしょう。顔がしんでる」


 さっと血の気が引いたが、テッドは「そこまであからさまじゃないから。大丈夫」と言ってくれたのでひとまずは胸をなでおろした。


「そんなにわかりやすかった?」

「ああ。普段と違いすぎ」

「そんなこと言われたって」


 あの顔で見つめられれば、いつもどおり過ごせるわけがなく。

 ましてズボン姿で走り回り、木登りする姿なんて見せられるはずもない。

 テッドが知るライラの姿とは違って当然なのである。


「連れ出してくれたのね。ありがと。でも! 相手は私と違ってちゃんと身分の高い方々なのだから、相応の振る舞いは心掛けないといけないわ。田舎者の私とは違うんだから」

「はいはい」


 一曲、祭り気分で踊りきって戻れば、全員が眩しい笑顔で迎えてくれた。たじろいだライラだったが、すぐさまロイから手を差し出される。二曲目だ。

 断れるわけもなく、ロイともダンスを踊る。今度は貴族流のダンスを披露した。


 その後もイケメンからのお誘いは絶えなかった。

 フリッツが色鮮やかなドリンクを持ってきて、談笑して。キースから申し込まれたダンスを断れば、代わりに一緒にご飯が並ぶテーブルへ。お腹が満たされたところにルーンがやってきて今度はケーキの山へと連れて行かれた。


 がんばった……! がんばってる私!


 一通りこなして、妙な達成感を味わいつつ、人目を避けるように隅へ寄る。

 日が落ちた後のガーデンは、魔術による光の玉が連なって浮かび、辺りを照らしていた。花も木も、食器も、集まる人の顔も輝いて見える。


 綺麗ではあるものの、現実味はない。ライラはぼんやりと目の前の光景を見守っていた。


「なあ、ライラ、ちょっとこっち」


 呼ばれて、声の方へ振り向く。テッドがいた。その手にはドリンクが二つ。


「どうしたの?」

「いいから、ちょっと、もう少し向こうへ」


 顎で示したのは光で照らされていない、ガーデンの奥。


「お疲れのライラにイイコトだ」


 テッドの瞳が悪戯っぽく光り、目の前にグラスを掲げて見せた。

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