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ヒロインの癒しはもじゃ頭の王子です  作者: 夕山晴


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魔術師と聖女の力1

 

「お待ちください、聖女様」

「なに?」

「その前に、私どもに聖女様のお力を示していただけませんか?」


 テッドを隠すように身体で遮り、リーダー格の魔術師が言う。


「まさか私どもの好意を無下にされるわけでは、ございませんでしょう?」


 連れてきたテッドと話をしたいのなら力を示せ、と目が訴えてくる。

 親切心からだとはとても思えなかったが、見せる見せない以前にそもそもライラに力は使えない。

 だから、わざわざ時間を設けてもらって、ルーンに力の使い方のコツを教えてもらっている。


「……私は、この訓練場へ、力を使えるようになるためにきています。ルーン様に見ていただいているのも、その思いがあってこそ。ですから、今はまだ、貴方がたの要望にお応えすることはできません……」


 魔術師はライラがこの訓練場にきていることを知っていた。ライラの今の実力も把握しているはずだった。

 にもかかわらず、力を見せろとテッドへの道を阻む。


 不可解そうに眉を顰めたライラに向かって魔術師は優しげに声をかける。

 寛大な心だと見せつけるかように、両手を広げた。


「聖女様のためにとお連れしましたが、聖女様に元気な姿をお見せするためだけではないのですよ」


 魔術師が身体を横に一歩ずらすと、再びテッドの姿が目に入る。

 先程と変わらないテッドと、横には短剣を持った魔術師が、いて。

 反射的に危ないと手を伸ばしていた。


「……何? やめっ」


 ライラが叫び終わる前には、テッドの腕に剣先が走る。

 大した予備動作もなく切り付けた魔術師は無表情のまま数歩下がった。短剣を軽く拭いて懐にしまう。


「っ、おいっ」


 アルビーはライラを支えようと腕を掴んだが、ライラの目はまっすぐにテッドの腕だ。

 数秒遅れて、テッドは崩れ落ちた。


「痛っ……う」


 テッドの腕から血が滲み、流れて落ちた。

 その血は赤く、鮮明で、否応なしに崖下での出来事が脳裏に浮かぶ。

 アルビーの手を振りほどいて駆け寄るライラを、魔術師たちは邪魔しなかった。


 ちょっと待ってよ! なんで、こんなこと……!


「テッド……テッド!」

「く、そっ、なん、なんだよ」


 切られたのは腕だけで、他に外傷はない。

 テッドの意識もはっきりしているようだった。痛みに顔を歪めている。

 それがテッドにとっていいのか悪いのか判断つかないが、崖から落ちたときよりは軽傷であることは明白だった。


 多少安堵はできるものの、テッドの腕を掴む手は震えていた。


 ──血を流すテッドを二度と見たくなかったのに。


 また、私のせいで、テッドが傷つく。

 崖下に落ちそうになったライラを庇ったのが、数ヶ月前。

 今日は、自分のせいで王宮にまで連れてこられた。会えたのは嬉しかったが、こんな目に遭わされるなら、二度と会えなくたって構わなかったのに。


 一度ぎゅっと目を閉じた。歪む視界は涙だろう。

 なんで、テッドがこんな目に遭わなくちゃ、いけないのよ!


 だから聖女だなんて、ヒロインだなんて、嫌だったのに……!


 連れてきた魔術師を恨み、切り付けた魔術師を憎み、ヒロインである自分を罵倒した。

 自分が聖女でなければ……ヒロインでなければ、周囲の人間が巻き込まれることはなかった。

 使えない力なんて何の役にも立たない。あるのは力に付随する災厄だ。


 ──助けてよ。


 眉間に力を込め、歯を嚙み締めた。

 こんなこと、決して許されるわけはないのだから。



 途端、ライラの身体が光り始める。

 はじめは薄くぼんやりと。徐々に強くなる光は眩しく、魔術師たちは見ていられず目を閉じた。


 彼らが目を瞑ったのは一瞬だった。目を開いたとき、ライラの身体は光っておらず、テッドの腕から流れ落ちる血は止まっていた。

 ライラは、腕に付着して残った血をハンカチで拭う。

 テッドの腕に痛々しい切り傷はない。滲んだ額の汗はそのままだが、顔から苦痛の色は消えている。


 魔術師たちから漏れ出た感嘆の声は、歓声にも似ていた。


「おお、素晴らしい……!」


 彼らは心からと思える拍手を鳴らす。顔は、興奮からか紅潮していた。

 聖女の力を見られたことが心底嬉しいというように。


「さすが聖女様……! これこそ、癒しの力……!」


 ライラは貴族令嬢の顔をかなぐり捨てたくなる衝動をなんとか抑えていた。


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