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ヒロインの癒しはもじゃ頭の王子です  作者: 夕山晴


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聖女になりたい理由

 

「でね! その光はうんともすんとも動かないのよ!」


 そう話すライラの隣には、くりんくりんと跳ねる頭の持ち主である。

 ライラは、ルーンの魔術体験が終わるとすぐにガーデンへと訪れていた。


「魔術って大変なのね! みんな簡単に使ってるようだから、あまり気にならなかったのだけど、実際に触れてみてわかったわ。あれは、すごいものよ!」


 終わってみれば成果は一切なかったが、ルーンは最後まで付き合ってくれていた。

 終始にこにこと微笑み、最後まで諦めなかったことがえらいと慰めてくれた。そもそもやろうとして簡単にできるなら、魔力さえあれば全員が魔術師である。

 あまりに集中しすぎて、ルーンの顔面に気を取られる暇もなかったのは良かったことかもしれない。成果は一切なかったが。


 感覚を研ぎ澄まし、普段意識すらしない聖力へ働きかけたことで、ライラはへとへとだった。

 体力には自信があったにもかかわらず、この状態。頭とも身体とも違う何かがやはり疲れるようだった。


「で、あんたは何でここにきた」


 呆れたような声色で、アルビーは言う。


「疲れてるんなら、部屋に戻れば。わざわざこんなところにやってきて話すこともないだろ」


 昨日、帰らないのかと聞かれ、答えられなかった。アルビーと会うことに気まずさがなかったわけではない。

 しかし疲れたライラが自然と向かったのは、この場所で。

 それは、昨日の問いに対する、答えのような気がした。


 ふふ、と笑うライラをアルビーは訝しむ。


「というか、帰るんじゃないのか。わざわざ聖女になるために力を使う訓練なんかしなくたって」

「──アルビー、」


 遮って、ガーデンを見渡した。

 昨日と同じ曇天だが、寂しさはなく、晴天とはまた違った優しい色味に包まれているようにさえ思う。


「アルビーは、私がここにいるのは、嫌?」

「……ここが嫌なのは、あんただろ」


 拒絶の言葉にも、昨日よりは傷つかない。

 何か一つ目標ができれば、足を踏みしめる足場ができたように、強くなれる。


「……私、もうしばらく帰らないことにしたの。自分でそう決めたの。……もしアルビーが嫌なら、考え直すけれど。ほら、ここにはきっとお世話になると思うから」


 ライラの目標は、アルビーに必要としてもらえること。

 きっと名実ともに聖女になれば、そう簡単に「帰れば」なんて言われないはずだ。


 大きなエメラルドのような瞳をアルビーに向けて、尋ねる。


「どう、かな」


 躊躇いがちなのは、不安からだ。

 この時点で帰れと言われてしまえばライラの目標が達成することはない。

 アルビーに距離を置かれたまま、すごすごと家に帰ることになるのだ。


「……別に。あんたがそれでいいなら、好きにすれば」


 願いが通じたのか、アルビーは拒絶しなかった。

 ライラの意志を尊重してくれているのかもしれないが、消えない不安はそうじゃないと警告してくる。


 ──本当にどちらでもいいのかもしれないわ。


 ライラがいても、いなくても。


 眉が下がりそうになるのを堪えながら、ライラは「ありがとう」と微笑んだ。

 帰ってほしいと思われているわけではないのだからと、もう一度地面を踏む足に力を入れた。


「ええ! そうするわ。まずは、聖女の力をうまく使えるようになろうと思ってるの」

「へえ」

「何よ。聖女の力なんて使えるようにならないって思ってるんでしょう」


 小さく頬を膨らませれば、アルビーは肩をすくめてみせた。


「いいや。思ってない。そんなことしなくたってあんたは聖女だろ」

「力が使えない聖女なんていらないでしょ」

「そんなことないさ。この国は、いや他の国でも、聖女を欲してる。たとえ力が使えなくても、天啓を受けた人間が認めた、聖女という存在がいればいい。それだけで大きな求心力にはなる」

「それって」

「──ああ。別にお飾りだっていいんだ。……それでも、あんたは力を手にしたいのか?」


 脅しのようなセリフだったが、その中に心配するような空気を感じ取る。

 だからライラは怯まなかった。


 そんなの関係ないわ。だって私はただアルビーに認めてもらいたいだけ。


 簡単には手放せないような、そんな人間になりたいとライラは願う。

 いなくなっても何も思われないなんて寂しいし、悔しい。

 自分ばかりそう感じてしまうのが、やるせない気持ちになる。


 だからきっと見返したいのだ。


「ええ。だってその力があれば、誰にだって聖女だとわかってもらえるんでしょう」


 一度突き放されて悲しくなったライラは、もう二度と同じ気持ちを味わいたくない。


「アルビーにも、わかってもらいたいんだもの」


 そして、自分と同じように、離れがたいと思ってくれないだろうか。


 そんな気持ちには微塵も気づいていないだろう。

 アルビーは苛立たしそうに舌打ちした。


「だから、知ってるって、そんなの」

「うん。絶対に見せてあげるからね。待ってて!」

「いや、いいから」


 会う前までの気まずさを感じることもなく、これまでと変わらない会話ができる。

 それにライラはひどく安心するのだった。


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