騎士団長、苦難の令嬢生活⑤
何とか無事?着替えを終えた。
サラは、本当はもっと絞めるんですが…と無邪気な悪魔みたいな発言をしていたが、許して欲しい。
呼吸をする度肺が圧迫されて苦しいんだ。何かの訓練だと思えば我慢できなくもないが…コルセットは、今後緩くして貰えるよう頼もう。
「では、私は、カップを片付けてから参りますね。旦那様のお部屋は、西側の奥ですからね。」
「ありがとう。」
ニコニコとしながら侍女の背中を見送る。
さて、まぁ少し遠回りをしても大丈夫だろう。
情報収集開始だ!
…と意気込んだものの…
「あの─」
「きゃぁ!…おっお嬢様。でっでは!」
いや…
「お疲れ様─」
「おっお嬢様!?おっお身体は大丈夫ですか…?」
「ああ、それはもう─」
「でっでは、仕事がありますので…。」
あの…
「ねぇ─」
「しっ失礼いたします!!!!!」
これは…
「あ─」
「すみません!!!」
避けられすぎだろ!!!!!
確かにアリアは、最悪オブ最悪みたいな令嬢だが、こんなに避けなくても…いや、サラが例外すぎたんだ。
いつ火がつくか分からない我儘、爆弾令嬢なんで普通にというかめっちゃ嫌だ。そりゃあ、あんな反応になってもおかしくないだろう。
父親の部屋に行くまでに少しでも話を聞けたらと思っていたが…まぁ、仕方ない。
ナラント・ルシャライナ
ここが父親の部屋か。
ふぅーと深く呼吸をする。
どんな男かは、分からないが用心するに越したことはない。
重い気持ちでノックをする。
「誰だ?」
疲れ切っているような声だ。
「私です、アリアです。お父様─」
その瞬間中からガタガタ、ガシャーンっとけたたましい音がした。
なんだ!?何が起こったんだ!!?
「おい!どうしたんだ!?」
中で倒れたのか?
不安になりドアノブに手をかける。
「ダメだ!開けないでくれぇ!!」
「は?」
部屋の中から情けない叫び声が聞こえる。
「一刻も早くお前の姿が見たい…!見たい…!が、お父様は、今、とてもみすぼらしい格好をしているんだ。お前に…お前に見られる訳にはいかない!!」
「は?」
…えーっと、めちゃくちゃどうでもいいな。
「何言ってるんですか、入りますよ。」
「だっだめぇええええ!」
叫び声とともにゆっくりと扉を開く。
するとそこには床に這い蹲る男の姿があった。
…この男さっきから何をしているんだ。
そんなに娘に会いたくなかったのか?
「お父様…ですよね…?何をして─」
「こんな姿をお前に見られるなんて…。」
小さくなって泣いている。
「どんな姿でも、大丈夫だから、顔をあげてください。」
「うっうう。」
父親の両手を包み込み、笑ってみせる。
すると父親は観念したのか、涙でぐしゃぐしゃな顔をのそっと上げた。
少し頬が痩せこけ、目の下にも濃いクマがあるようにみえる。
「お前がとても、とても心配で…ここ数日食事が喉を通らず、悪夢にうなされ眠ることもできず…こんな姿になってしまった…。」
なるほど。こんな風になってしまうほどこの父親、本当にアリアを心配していたようだな。
気が弱そうだが、良い父親じゃないか。
しかし、早く栄養を取らないといつ倒れてもおかしくない。記憶喪失なんて言ったらそれこそ卒倒だ。ここは、慎重に…
「ご心配をおかけしました。私は、もう大丈夫ですから、安心してください。それよりもお父様が心配です。食事をとり、身体を休めてください。」
父親は、ポカンとした顔でこちらを見つめている。
なにかまずかったか…!?
「なにか…気に触るようなことを言いましたか…?」
ブンブンと頭を振る。
「ちっ違う!自分の事以外興味が無かったお前がそんなに私の心配をしてくれるなんて…!」
また、おいおいと泣き始めてしまった。
はぁー、困った。アリアの以前の行いが酷すぎて、ちょっとの事でも大袈裟に反応されてしまう。
「お父さ─」
声をかけたその時、いきなり侍女が部屋に飛び込んできた。
「なっ」
「失礼します、旦那様!アリア様!いっ今、こっ婚約者様が…!」
こんやくしゃ…????
「レオ=ヴァルツェン様がお見えに!!」
レオ…ヴァルツェン…?
ん?
どっかで聞いた事…
いや…まさか…
え?
「ええええええええええ!!!!!」
つまり…俺は…
親友の婚約者に転生したってことかよ!?!?!?