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騎士団長、苦難の令嬢生活②

侍女のサラは、穏やかな雰囲気の女性だ。

髪は肩までくらいで細い目をしている。

そして何より少し…いやかなり天然だった。


俺が踏み込んだ質問をしたり、多少言葉遣いが悪くて焦っていても

「記憶が曖昧だから、しょうがない〜」

と思ってくれているようで全て流してくれる。ありがたい。

だが、いつか悪人に騙されてしまいそうで不安だな。



サラの話によると、俺…いや、私と言うべきか…。

これから慣れていかなければ。

アリアは、本名アリア=ルシャライナ。上流貴族ルシャライナ家の一人娘らしい。母親は、幼い頃病死。父親からは、随分と甘やかされて育ったようだ。



「俺…じゃなくて私は寝込んでいたみたいだけど、昔から病弱だったかし…ら?」



下手くそな言葉遣いで問う。



「いえ、そんなことありませんよ?こんなに寝込んだのも初めてで…。」

「そうだったわね!」



勢いで誤魔化す。



「ほかの女性よりもずっと丈夫な方だと思いますよ!ですが…」



なんだか、口ごもっているようだ。言い難いことでもあるのか?



「えっと…その…お嬢様は、まだ記憶が曖昧なので、覚えていないなら…その方が…」



なにか思い出さない方が良いことなのか?

この侍女が話しにくいことなら相当なのだろう。

気になるところだが、ここで話が行き詰ってもしょうがない。他に聞きたいこともあるしな。



「話しにくいなら、また今度でいいわよ。」

「はい…すみません…。」



侍女が手際よくお茶を用意してくれる。



「どうぞ。」

「あっありがとう…!」



令嬢としては普通なのだろうが、俺としては、人に茶を入れてもらうなんて少し歯がゆい。

騎士だった頃、自分自身のことは自分でやるのが当たり前だった。団長になってからは、特別な扱いもしてもらったが、下っ端の頃なんかは、皿洗い、洗濯、掃除…。

それも訓練の一環だと言われ、休む間もなく働かされていたなぁ。懐かしい。


カップを持ち上げるとフワッと甘い匂いが香る。



「いい匂い…。」



その言葉を聞くと侍女は、わぁっと喜んだ。



「良かったです!お嬢様、この紅茶お好きですもんね。」



そうなのか。また1つ情報が。

まぁいい。とりあえず今を乗りきらなければ…。


侍女が見ている。マナーを間違える訳にはいかない。だが、分からない。確か、取っ手に指を入れてはいけなかったはずだが、知っているのはそのくらいだ。

夜会なんかは警備で何度か参加したことがあるが、そこでも自由に飲み食いなんてできたわけではなかった。

お茶会なんてもってのほかだ。参加したことなんてない。


おずおずと飲んでみる。

口から広がる柔らかな甘い香り。胸に広がる落ち着く温かさ…。

…これはすごく…



「美味い!」



まずい…いや、紅茶は美味いのだが、まずい。

つい、口に出してしまった。16、7であろう令嬢が美味いは、まずいか…。

恐る恐る侍女の方を見たが、全く気にせず、菓子を用意しているようだった。良かった…。







紅茶を飲み、菓子を食い、少し落ち着いた。

そして改めて考え直す。


ルシャライナ家か…。聞いたことないな。

以前から政治や貴族事情にそこまで詳しいわけではなかったが、上流貴族くらいの名前は、常識として知っている。

しかし、聞いたことがないということは、ここはライアールではないってことか…?

まさかと思い尋ねてみる。



「ねぇ、ここは…サザン帝国?」

「!」



サラの様子からしてそのようだ。

でも、そうだとするとまずい。

ライアールは、負けたということだ。

だとすると、レオは…無事なのか…。他の仲間も…。

ぐるぐると不安が駆け巡る。考えてはいけないとわかっているのに最悪を考えてしまう。

怖い…もし、みんながもういないかもしれないと思うと…。

あの時刺された胸の辺りが痛む。


アリアが俯いていると、サラは、少し小声で言った。



「お嬢様。確かにここはサザンの領地ですが、それは3年前の話。今は、ライアールと呼ばなければいけません!」

「え?」

「3年前のライアールとの戦争でサザンは敗北して、ライアールの従属の国になったじゃないですか。」



そう…だったのか…。

名前を聞いたことがなかったのはここが元サザン帝国の領地だったからだ。

ライアールは、勝ったのか…。

多くの犠牲は無駄ではなかったんだ。


レオは…みんなは無事かもしれない。いや、きっと無事だ。

武勲をあげてきっともっと偉くなっていることだろう。

3年経っているということは、あいつは21。家庭を持っているかもしれないな。

そうか…本当に良かった。



「間違えるとめちゃくちゃ怒られちゃいますからね、気をつけてください!

とは言っても私もたまぁーに間違えてしまうんですが…ってお嬢様?」



ああ、感傷にひたってしまっていた。

自分のこともまだまだ分からないことが多いというのに。

あいつは…親友(ライバル)は無事だと信じよう。

とにかく今は自分自身を何とかしなければ。



「ああ、聞いてるよ。話を続けてくれる?」


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