親友との別れ
マドル暦562年。
大国ライアールとサザンとの間に大きな戦いが起きた。
戦争は、激しいものであり、両国ともに多くの犠牲者を出した。
どちらにとっても厳しい戦況であると思われたが、大国ライアール側が優勢であった。
大国ライアールには、金の騎士と呼ばれるアラン=オルレーン。そして、黒の騎士と呼ばれるレオ=ヴァルツェンという2人の騎士団長がいた。
この2人が戦場に立てば敵なし。最強であった。
「はぁ…はぁ…。おい、生きてるか?レオ。」
黄金色の髪を掻きあげながら言う。
「ふっ…ムダ口を叩く暇があるなら1人でも多く殺してこい。」
黒髪の騎士は、冗談交じりで答えた。
「こんな時でも相変わらずだな、レオは。」
「お前もな。」
2人は背中をお互いに預けて戦っていた。周りの敵は、2人だけで全て蹴散らしたようだった。
「あー疲れた。少し休もうぜ。」
アランは、防具を外し空高く伸びをする。
その様子を見てレオは呆れていた。
「ノミ体力め。これくらいでへばるのか。」
「違いますぅ!最初に力出しすぎちゃうだけですぅ!」
はぁと深くため息をつきながら、レオも装備を外し気を休ませていた。
「その計画性のなさ、学生の頃から変わらないな。」
「へいへい〜。」
流すような返事にレオは再度呆れた。
レオと2人だけで話すのは、少し久しぶりな気がする。
ふっと気が緩んでしまう。
「…なぁ、レオ。」
アランの声色が下がった。
その声を聞き、レオはアランに深く耳を傾ける。
「…なんだ。」
「王様はさ、俺たちに何を求めてるんだろうな。」
「…。」
静寂が広がる。
「俺は…さ、もう人を殺したくないよ。」
本音だった。誰にも言ったことがない本音。
レオの顔が見れない。
騎士としてなっていない、お前らしくもないと馬鹿にされるかと思った。
こんな時に何を言っているんだと叱られるとも。
しかし、彼からの返事は、予想外なものだった。
「俺もだよ。俺も戦争は嫌いだ。」
バッと顔を上げる。
驚いた。お前もそんなことを思っていたなんて。
いつも、事を冷静に判断し、時には国のために冷酷な判断も厭わない。そんなお前も…。
遠い目をしながら、レオが続ける。
「だが、金と権力のないやつの話で動く人間なんていない。所詮は騎士団長。政治に口出しなんて出来ない。」
確かにそうだ。この国は、完全な格差社会。地位がなければ使われることしか出来ない。
だったら…
「だったら…俺はここで武勲を上げて貴族になってやる!そんで、戦いなんてない…俺たちがずっーと寝てられるくらい平和な世の中を作るんだ!」
拳を握り大声で決意する。
「ふっ…あははは」
レオは、声を上げて笑う。
「そっそんなにおかしいかよ!」
大声で笑われて、顔が真っ赤になる。確かに恥ずかしいことを言ってしまったが…。
「いや、お前らしい暑っ苦しい考え方でいいと思うぞ。」
「褒めてないだろ!」
笑いすぎだ!とアランはレオを小突く。
「まぁ、それがお前の良いところでもあるがな。」
レオは、ボソッと呟いた。
「どうした?なんか言ったか?」
「いや、いつまでもガキだなってな。」
「なんだって?この前の親善試合の決着、ここでつけてもいいんだぞ?」
「そんなことしてる暇はない。」
「ホント無愛想だな─」
その時だった。
木の影からマントを羽織った男飛び出してきた。
刃物を突き出しながらレオの方へ飛びかかる。
速い…間に合わない…!
「レオ!!!!」
俺は、咄嗟にレオを押しのけた。
「…っ!」
鋭い衝撃が胸のあたりから広がる。
短刀が心臓を貫いている。
レオは、剣を抜き男に斬りかかるが、ヒラリとかわされる。
マントの男は、悔しげな顔で刃物を抜き、またすぐ森の闇に去っていった。
顔は、見えなかったが…マントの下のあの服は、我が国の…
そう思いながら俺は、ドサッと地面に倒れた。
「おい…おい、アラン!なんで…どうして俺を庇った!!!」
レオは、震えた手でアランを抱きかかえる。
どうした?いつもの仏頂面に似合わないな、レオ。
口に出そうとするが、声がかすれて出てこない。
「だめだ!!頼む…死ぬな……。アラン…。」
苦しそうな声で懇願する。
しかし、わかっていた。ここが自分の死に場所なんだと。
胸から滴り落ちる血、ぼやけた視界、遠のく意識…
もう自分は死ぬんだと思った。
こいつを残して先に死ぬなんて思ってもみなかった。
そして、こんなに悲しむなんてことも…。
レオ、俺も悔しいよ。悲しいよ。
でも、最期は、笑うって決めてたんだ。
だから…
「ごめん…な…。レ…オ。きっ…と、また会え…る。」
アランは、笑った。涙を流しながら。
そして、手を伸ばし、レオの頬をなぞった。
レオは、アランの手を握り何度も名前を呼んだが、その手が握り返されることはなかった。
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