6代目マーリンの恋愛録
4日連続短編投稿企画中。
本日1日目です。
いっけなーい、遅刻遅刻!
私夢野真莉、高校一年生!
なんて茶番をやっていられないくらいやばかった。
朝起きたら家を出なきゃいけない時間。両親はとうに仕事に向かい八つ当たりの相手もいない。
机の上には朝ごはん。きっと普段通りの時間に起きたら温かかったであろうご飯は固くなっていてダブルで肩を落とす。私はイギリス人のクウォーターだけど朝はご飯派だ(顔が完全にイギリスに寄ってるからこの話をするとウケる)。けれど今日はそんな時間はない。せっかく準備してくれたお母さんに心の中で10回謝罪しながらキッチンからパンを掴んで飲み込みながら1分で着替え10秒で髪を整え鞄を掴んで家を出る。
現在時刻8:10。始業時間は8:30でここから学校まで歩いて20分。
「走ればギリ間に合うっ!」
「お前なぁ…余裕ってもんを覚えろよ」
「浅野?!なんでいるのさ」
玄関先には金髪の少年、幼馴染の浅野竜司がなぜか待ち構えていた。
金色の髪は染めているわけではなく天然。彼はイギリスとのハーフだ。この辺はイギリス人、というか外人が結構住んでいるらしく、お向かいさんの出身は確かフランス。
「俺?恐らく起きていないであろう幼馴染を起こしに家に突撃するか悩んでいたところだが」
「察しのよく出来のいい幼馴染を持てて幸せだよ!けどなんでこんな時間まで待っててくれたの?浅野も下手すれば遅刻するよ」
「俺もお前も足速いから大丈夫だろ」
「浅野って頭いいのにアホだよね」
「ひどくね?!」
と言い合いながらも猛ダッシュ。確かに浅野はサッカー部のエースだし私も陸上部のエースだ。普段から鍛えてるしそもそも足も速い方。外人の血が混ざっていると運動神経が良くなるの法則は私と浅野には適用されているらしい。
走り続け、交差点にたどり着くも赤信号だからストップ。ぜーはーと呼吸を整える。
そんな私の様子を見て浅野は微妙な目で見てくる。
「浅野だって肩で息してるじゃん!それに私は短距離なんだよ」
「何も言ってないし違うし…。お前、ウィッグずり落ちてるぞ。よくそんなので隠し通せてきたよな」
「マジで?!…見られたのが浅野でよかった」
その指摘に大急ぎでウィッグを直す。
ウィッグの隙間から見える髪の色は白。瞳の色は金。明らかに現代日本人としてはおかしい色彩。金の瞳はイギリスとのクウォーターでまだ誤魔化せるかもしれないけれど白髪は絶対アウト。大人になったらファッションで受け入れられるかもしれないが私はまだ高校生なのだ。さらにこの髪、染められない。色が定着しないから染色で誤魔化せないのだ。学校には説明してあるけど目立ちたくないので普段は黒髪のウィッグをつけている。カラコンは怖いので目はもう諦めた。
もう6代目だっていうのに初代様の血、濃すぎるんだよなぁ…。お母さんは黒に染めれたらしいのに。
実は私にはちょっと人には言えないような(というか言ったら正気を疑われるような)秘密がある。私の本名はマーリン・真莉・ダヴェド。イギリス国籍を持つクウォーターで日本での通称名は夢野真莉。夢魔とのハーフの予言の魔術師、マーリン!…の6代目。英語は喋れませんよろしくね!
マーリンにはたった一度だけ決定された運命を変える力を持つ。その副作用で実は未来視もできたりするのだ。
血が薄まった私には、事象を設定しその結末が脳裏に文字として浮かび上がるだけだけど大変便利なものだ。ちなみにだけど5代目であるお母さんは映像で見えるらしい。
学校までの道のりはあと半分。赤信号で暇だしと未来視の力を行使する。
『私は今日学校に遅刻するか否か』
『未来は無限に広がっている』
よーし、間に合う可能性がある!大丈夫大丈夫。
…決まっている運命というのは実はあまりない。ゆっくり行けば遅刻し急げば間に合う。例えば今のような状況は未来の決定は私次第だ。当人の努力次第でどうとでもなる場合、私の未来視は『未来は無限に広がっている』と回答する。
そう、決まっている運命というのは例えば。
『私が浅野竜司と付き合えるか否か』
『不可能。あらゆる未来においてマーリン・真莉・ダヴェドの側に浅野竜司はいない』
これとか。
ー私にはたった一度だけ運命を変えることのできる力を持っている。でもそれは、もしかすると浅野の気持ちを改変することになるかもしれないのだ。
だから私は改変に頼らず、どうにかして浅野に振り向いてもらえるよう努力している。けれど、決定された運命というのは、覆らないからこそ決定されているわけで。
「おい、マーリン。マジで急げって、やばいんだから」
「もうそろそろ学校なんだからマーリンって呼ばないで!」
「幼稚園時代にそう呼べって言ったのはマーリン…真莉だろうが」
あらゆる未来において彼は私のそばにいないという。
毎日一緒に登下校して。
…自惚れちゃダメだということは分かっているけど。どうしてこの状況で浅野は私のそばを離れるのだろう。
まだ付き合うどころか告白すらしていないけれど。
***
「やーやー、今日も朝からお熱いことで」
予鈴3分前に教室に到着した私はニヤニヤしている友人、愛・ヴェンウィックの歓待を受けた。ちなみにおむかいさんのフランス人っていうのは彼女のこと。
「ちょっと愛!本当そういうのじゃ無いから!……まだ」
「いじらしいのもかわいくてよろしい!いや、実際なんで告白しないのさ?うちが男だったらこんな可愛い子に告白されたら即OKするけど」
「いや、浅野は私のそばにいないらしいから…」
「なんだそれ」
心底意味のわからないといった顔をされる。
それはそうだ。正直私だってなんでいないのかわからないんだから。
…順当にいけば振られるんだろうけど。
だから私は告白できない。
現状維持こそ最善だと信じて。
「お前らー鐘鳴ったぞ、席につけー」
「やば!じゃあね愛」
チャイムの音を聞いて大急ぎで自分の席に着く。
「……誰から見たって浅野くんは真莉のこと大好きだと思うんだけどなぁ」
朝礼がはじまり、ぼそっと呟いた愛の声は私に届かなかった。