小話:呪術師の採点
リクスの友人、サニアは呪術師だ。
呪術師というのは向き不向きがあるためその数は少なく、魔術師ほど一般的な職業ではない。魔術師と混同されることもあるが、魔術師は魔術法則に則って効果を発現させる一方で、呪術師は神霊に働きかけるという違いがある。呪術師が扱うのは、人外の力なのだ。
大きすぎる力は身を滅ぼす。そのことをよく理解しているサニアは、あまり大きな呪術は滅多に使わないようにし、普段は害の無いおまじないなどを仕事として請け負っている。
そして呪術師というのは、厄介なことに巻き込まれやすい職業でもある。だからサニアは家の場所を秘匿し、たとえ仕事相手であっても明かさない。リクスがここへちょくちょくやって来ることができるのは、サニアが直通の移動用魔術道具を渡しているからだ。
サニアにとってリクスは、それくらい大事な友人だった。
「それで、その後はどうなの?」
「なにが?」
「決まっているわ。アライシュとのことよ」
いつものように手土産としてホットサンド持参でお茶をしに来た友人に、サニアは鋭い目を向けた。
リクスが呪われてしまったとき、アライシュを紹介したのはサニアだった。サニアは以前にアライシュと共に仕事をしたことがあり、魔術師としての腕は確かだと知っていたからだ。
だが同時に、アライシュが魔術以外に興味がないことも知っていた。
そのアライシュとリクスが付き合うようになったと聞いて、大事な友人がちゃんと幸せになれるのか、サニアは確かめずにはいられない。
「あなたが相談に来たときの様子から、そうなるかもしれないとは思っていたけれど、本当に付き合うことになるとはね……」
「ふふ。あのときはありがとうね」
リクスは素直な性格で、魔力が少ないからと卑屈になることもなく、努力と工夫で魔術師として自立していた。生活をととのえることを好み、作る料理はなんでも美味しい。今日の手土産として持って来たホットサンドも、少しビターなチョコと加熱されて甘味を増したバナナが、間違いない幸せを運んでくる。
外見も、灰紫の豊かな髪に蜂蜜色の瞳の組み合わせがリクスに似合っていてとても可愛いとサニアは思う。おまけに、胸も大きい。
そんな自慢の友人をアライシュが好きになるのは理解できた。だが、まさかリクスがアライシュを好きになってしまうとは予想していなかった。
(同じ魔術師なら、まだティーズニートの方が……)
考えかけたところで、あれも相当な変わり者だったとサニアは思い直した。友人としてなら歓迎するが、ティーズニートを恋人にするのは賛成できない。
「アライシュのどこがいいのか、聞いてもいいかしら?」
「アルのいいところ? そうだなあ…………、可愛いところ?」
「はあ?」
サニアにとってのアライシュの印象は、仕事はできるが不愛想な面白みのない人間だ。どこを探しても可愛いと形容できるところはない。
「あのね、アルは自分の魔石を褒められると、分かりやすく喜ぶのよ。それが可愛いなあと思っていたら、だんだん気になっていったというか……」
頬を染めて語るリクスは可愛い。だが、その語る内容はどうにもサニアには想像できなかった。
以前、サニアがアライシュと共に受けた仕事は、湖に棲みついた白蛇を追い払うことだった。
白蛇は神の使い。下手なことをして機嫌を損ねれば、甚大な被害をもたらすことになる。かといってそのまま湖に居座られては、人間は近づけない。なんとか穏便に出て行ってもらう必要があったのだ。
そういった人外の相手をするには、人外の力を扱う呪術師は相性が良い。だがそのとき、アライシュはそのでたらめな量の魔力を発揮し、負けず劣らず活躍した。
そのことで、サニアの中でアライシュの魔術に対する信頼は確かなものになったが、あまりにも魔術にしか興味を示さないことに呆れもした。仕事の間、雑談など一切なかったし、アライシュが笑った顔を見た記憶もない。いっそ、サニアの名前を憶えているのかもあやしいところだ。
「アライシュと一緒に仕事をした後、私は顔を合わせていないの。そしてあのときの彼は、とてもじゃないけどあなたの恋人にすすめられるような人物ではなかったわ。仕事だけはできたけど」
「え、」
「そうね。今度、特別にここへ連れて来てもいいわよ。私が直接、アライシュを見定めたいわ」
「…………サニア、ほら、もっとホットサンドを食べて。熱々よ?」
サニアの勢いを甘いもので収めようとでもいうのか、リクスがホットサンドをすすめてくる。
ひらりと手を振ったのは、お皿に盛られたホットサンドに熱を加えてくれたらしい。サニアが口に入れると、温かいチョコが舌の上でとろけた。
最近のリクスは、こうして惜しみなく魔力を使えるようになった。もちろん、呪いを利用することなく。それはアライシュがリクスに魔力を貸すようになったからなので、そこだけは評価してもいいだろう。
「あの、サニア。どうしてそんなにアライシュに厳しいの……?」
「あら、大事な友人の恋人だもの。私が出会いのきっかけを作ってしまったわけだし、気になるわ」
「そ、そうなんだ……。あの、お手柔らかにね?」
「アライシュがあなたを大事にしてくれるなら、問題ないわ。そうでしょう?」
「はい…………」
それ以上は何も言わず素直に頷いたリクスに、サニアは満足げに笑った。
そうして後日、アライシュを含めた三人でのお茶会が開かれて呪術師による見定めが行われた。そこでアライシュのあまりの変貌ぶりにサニアは呆れ、ただリクスが幸せそうではあったので、ひとまず合格点としたのだった。