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執事な吸血鬼は伯爵令嬢を逃がさない  作者: 佐崎咲
第二章 伯爵令嬢と伯爵令嬢
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9.ギルバートの背中

「背中、見せて」


 パーティが終わって邸に戻るなり、ギルバートを私の部屋へと拉致った。


「何です、性急ですね」


 のらりくらりとされそうで面倒だったから、ギルバートの服を掴み、強引に剥がしにかかった。


「シェリア様は変わった趣味をお持ちですね。たまにはこういうのも悪くはありません」


「うるさい、茶化すな。ミシェルに階段から突き落とされたんでしょう? 怪我、見せてみなさいよ」


 白くパリッとしたシャツをべりっと剥ぎ取る。


「……あれ?」


 怪我がない。

 血も出ていないどころか、アザにもなっていない。

 

「何にもない」


 現れた白い肌をぺたぺたと触りまくるけど、すべすべでできもの一つない美しい肌がそこにあるだけだ。


「優しく触れてくださいね」


 何でもない顔をして美しい肌をさらすギルバートに、私は顔をしかめた。

 そして間髪入れずに、肩甲骨のあたりをぐっと押す。


「マッサージしてくださるのですか? あいにく、凝ってはおりませんがどうしてもと仰るのであれば甘んじてお受けいたしますよ」


 そう言ってギルバートはベッドにうつ伏せに寝転がり、欠伸をして見せた。


「バカ」


 そこまでして私に弱っている姿を見せたくないのか。


 ギルバートは自在に姿を変えることができる。

 ということは、背中の怪我くらい普通の肌と変わらないように見せることもできるはずだ。

 不意でなければ、痛みだって我慢できてしまうだろう。


 腹が立つ。

 助けられ、庇われるばかりで何もできなかった自分が。


 ミシェルの言葉がなければ、見過ごしていた。

 きっと今までも、こうして私に気付かれないように守ってくれていたんだろう。


 ロクに契約を果たしていないなんて思っていたことを心の底から後悔する。

 いざこうして身を挺して守られると、それがどういうことかと思い知る。


 ギルバートに怪我をしてほしくなかった。

 痛い思いなんてしてほしくなかった。

 それも、私のせいで。


 欠伸をして見せながら寝そべるギルバートにツカツカと歩み寄ると、床に膝をつき、持って来ていた薬をその背中にこれでもかと塗りたくってやった。


「ああ、これは存外くすぐったいものですね」


 わずかにギルバートの頬が歪んだのがわかった。

 じっと見ていなければ見逃してしまいそうなほど、ほんの少し。


 やっぱり痛いんじゃないか。

 くすぐったいなんて、嘘ばっかり。

 悔しいような、腹が立つような複雑に込み上げる思いを飲み下しながら薬を塗り終え、その背中にさっき剥ぎ取ったシャツをそっとかけた。

 その上からギルバートの背にそっと触れ、頬を寄せた。


「無茶しないで。ギルバートが死んだら、怒るから」


「死にませんよ。私は吸血鬼ですから」


 私を安心させるために言ってくれたのだと思う。

 けれど、小さな呟きがうつ伏せたベッドに吸い込まれていったのがわずかに耳に届いた。


 ――死にたくても死ねませんしね。


「え? 何、よく聞こえなかった」


「なんでもありませんよ。とにかくシェリア様が心配なさることは何もありません。私はごらんの通りですから」


 この時きちんと訊き返さなかったことを、立ち止まって考えなかったことを、後でとても後悔した。


 私はいつでも、いろんなものを見落としてしまっている。

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