第五話 転生
その後は色々と大変だった。転生先の世界を選べるということだったので、色々と考えながら選んだ。考えることもたくさんありそうに思えた。
でも、一番大事なのは俺が伸び伸びと生きられる環境があるかどうか。
別に、王族の誰かに生まれ変わりたいと思っているわけではない。ただ、料理人として生きられる世界を望んでいるだけだった。
だから、条件は三つ。
料理人として生活していけるような社会なのかどうか。
興味をそそられるようなことがあるか。
そして、住みたいと思える世界かどうか。
その条件に合う世界は一つしかなかった。正直にいうと、二個異常選択肢が残ったらどうしようか悩んでいた。
でも、それこそ神の思し召しか一つしか選択肢は残らなかった。
転生先の世界が決まったことをアリアナに知らせると、すぐに転生の用意をしてくれた。
転生の用意が終わると、アリアナは俺を呼びに来た。
「転生前にあなたに言っておく事があります」
それは、重々しさを帯びているというよりは、寂しさを堪えているようだった。
「あなたは転生先で小さい子供から始めると思います。そして、今私と話していることも、前世で自分が行なってきたことも覚えているでしょう。最初のうちは思考が追い付かずに混乱するかもしれません。なので、もし私の助けが必要になった時には、私に呼びかけてください。そうすれば私と話すことができます」
「分かった。覚えておくよ」
「それと、あなたにはギフトを授けようと思います。どんなギフトかは転生した先で確認してください」
そう言い終わると、アリアナは優しく俺を抱擁してきた。
「ほんの数日の間の付き合いでしたが、あなたは転生先でもうまくやっていけると、そんな予感がしました。頑張ってください」
そういうと、俺から離れた。俺の足元には、後一言アリアナが口にすれば発動する魔法陣があった。
「転生」
その言葉が魔法を発動させる最後の言葉だった。
「アリアナさん、ありがとうございました」
「違うでしょう。ありがとうございます。まだ私たちの関係が終わったわけじゃないんですから」
確かにその通りだ。まだ縁が切れたわけじゃない。
「そうっですね。ありがとうございます。アリアナさん」
不格好だけど、笑って別れよう。
「ええ。こちらこそ」
段々と、身体に何色もの光がまとわりついてきた。なんだか暖かく感じるのは気のせいなのか。
その暖かさに身を委ねていると、今度は体から光が徐々に徐々に離れていった。
自分の足の方を見ると、足の形はなくなっていた。
ああ。今俺は魂が分解されているんだな。
心からそう思った。
アリアナは目の端をキラキラと煌かせていた。
「そろそろですね」
「ああ」
ものすごく長く感じているけど、実際はもっと短い時間なんだろう。
もう残っているのは顔の周りにいる光達だけだった。
「それでは、またいつかお話ししましょう。お……」
そこからは何も聞き取れなかった。
ただアリアナの口を見ていたら分かった。
お元気で
そう言いたかったんだと思う。
徐々に視界が狭まっていった。今度こそ完全に身を委ねようと、目を閉じて、体の力を抜いた。
ここまでで、第一章が終了となります。
この次から、本縁のメインがスタートになります。
それでは、次の章をお楽しみください。