第四話 不安の解決と目標。
次に目が覚めた時には、頭がすっきりとしていた。どれくらい寝ていたのかが分からない。外の景色が見えるわけでもないから、太陽が登っているのか星空が広がっているのかを把握できない。
ひとまず、アリアナに会おうと、起き上がって自分の衣服を整える。今着ているものは、最初に目が覚めたあの部屋で着ていたのと同じだった。どうやら、神の世界でも湯浴みはするらしい。だが、俺の場合はまだ魂が具現化しているだけで、ちゃんとした体があるわけじゃないらしい。つまり、自ら泥沼に堕ちに行くようなことさえしなければ汚れる心配もないそうだ。
部屋を出て、昨日夕食をとった部屋に行くと、アリアナの近くには堆く書類の山が積まれていた。
「アリアナ」
「ああ、起きたのですね。すみません散らかってて」
俺が呼びかけると笑顔で答えた。
「いえ。それよりも、アリアナと別れた後に考えていたんですけど、転生はしたいんです。それは良いんですけど、どう生きたいかが決まらなくて」
あの後、寝付けないなりに考えていた。
妻と娘が今どうしているかを知って、それで、どう生きたいかを決めるつもりでいた。
俺の心を読んだように、アリアナは微笑んだ。
「分かったわ。あなたの奥さんと娘さんのことを調べておく」
その言葉に少なからず安心を覚えた。
「でもね、たとえ映像であっても、あなたに奥さんたちの姿を見せるわけにはいかないわ」
覚悟はしていた。
今更驚きもしない。レストランの後輩たちが持っているライトノベルで、そういう独自のルールがあることは知っていた。あくまで神だから許されること。それを俺までが許されるなんて思っていなかった。だから、俺は単に妻と娘がどうしているかを、訊こうと思っていた。妻と娘の姿をもう一度見られるならそれに越したことはないが、それが叶うと思っていたわけじゃないから。
「覚悟はしていました」
覚悟がどれだけできていても、それでも、断念していたわけじゃなかった。
頬に熱い物が通るのを感じた。
目の周りが熱くなっていることにも気づいている。
「でも、少しは期待していました。ああ、情けない」
そう言って、鼻を啜る。
「それってすぐに調べられますか?」
「はい。すでに、回答が私の手元に来ています」
彼女は手元に置かれていた赤色の蝋で封のされた手紙を開ける。
「あなたの奥さんは娘さんと一緒にちゃんと生きようとしているそうです。詳しいことは伝えられないのが残念ですが、少なくとも奥さんの方はあなたが死んだことをずっと悲しく思っているそうです」
そうか。
ちゃんと生きようとしてくれるなら良かった。
あの人のことだから、何もできなくなっているんじゃないかと心配だったけど、大丈夫……いや、大丈夫なわけではないか。
不安がなくなったわけじゃあないけど、今はあの人を信じよう。
着ている服が簡単な作りをしているせいで、どうしても袖はないけど、腕を目の辺りに押し当てて、ゴシゴシと擦る。
まだ塩辛く悲しい味のする雫が頬のところに残っているのがわかる。
「いつまでも悲しんでいる訳にはいきませんよね。あの、どう生きたいかっていう問いですけど、これに決めました」
そう言って、アリアナの耳元で言った。
それはアリアナ以外には聞こえないような、囁きだった。
「良いと思いますよ」
自分が正しいと思ったことを貫き、やりたいことを自由に、思いっきりやる
それが俺の目標。
次の人生でも正しく生きようと思った。それは、期待してくれたアリアナへの恩を仇で返したくないから。
そして、今度の人生はあっちの世界ではできなかったことを思いっきりやりたい。
そう思っていた。