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悪魔との契約

『ふむ、無事に暗黒勇者の引き継ぎは完了したようだな』


 この頭の中に直接響くような声は……


「ノーラン様!」


 玉座の影からぬっと現れたのは、黒い影で構成された魔物――デュラハンのノーランだった。……というかあんたいつからそこにいた!? いや、影移動で今来たとこなのかな? とにかく無事でよかったよ。


『カナよ。……凄まじい力だ。その力があれば一人で勇者を倒すことも可能であろうな』


 ノーランは私の全身を観察しながら呟いた。やっぱり、断然力は増しているようだ。


「わたしは暗黒勇者じゃなくなったけど、見捨てないでねノーラン……」


『当たり前です魔王様。我が身は常に魔王様と共にあります』


「ノーラン……ありがとうっ」


 魔王様とノーランはぎゅっと抱き合った。

 鎧を着た黒い影と、銀髪のダウナー系お姉さんが抱き合うという光景はなんというか……すごくシュールだね。


「あっ、ずるい! あたしも大人な魔王様とイチャイチャしたい!」


 いつの間にかベルフェゴールとともに転移してきたレヴィアタンも、その輪に加わる。……魔王様は人気のようだ。ちょっと嫉妬する。でも魔王はそれだけ頑張ってきたんだし、多少のご褒美があってもいいよね……?


 というかほんとに魔物たちはフリーダムだなぁ……玉座の間なんだから影移動とか転移魔法とかでは入れないような造りにしておけばいいのに……変なやつが襲いに来たらどうするつもりだろう?


「カナ」


 魔王様が呼んでいる。

 私はノーランとレヴィアタンを左右に侍らせた魔王の傍に歩み寄った。


「なんでしょう?」


 魔王はその紅い瞳で私の目を覗き込む。……その目はとても優しくて……とても怖い。そして、とても悲しい。いろんな感情が混ざっていた。


「わたしたちはこれから、生き残った魔物を連れて大陸を去るよ。とりあえず海の向こうに行ってみようと思う。カナは残って勇者と戦うのよね?」


「はいっ! 例え一人でも、私は勇者レオンと戦って決着をつけます!」


 私の言葉に魔王、ノーラン、レヴィアタンはうんうんと頷いた。


「カナのそういうところ好きよ。ほんとはあたしも協力してあげたいところだけれど、あたしは魔王様と契約した身だから魔王様の近くを離れられないし……生き残った悪魔を守らなきゃいけないから……ごめんね?」


『我も魔王様に忠誠を誓った身だ……すまぬな。応援はしている』


 レヴィアタンとノーランは口々に申し訳なさそうに頭を下げた。

 これはもう、一人で戦わなきゃいけないかなー? まあ別にいいんだけどね。私の私情に誰かを巻き込みたくないし……とはいえ、マシューなんかはどこまでも付いてきてくれそうな気がするけど。


 私が決意を新たにしていると、思わぬ所から声が上がった。


「レヴィお姉ちゃん。僕はカナと一緒に残るよ」


 そう言ったのはなんと、レヴィアタンの妹――私の兄弟子のベルフェゴールだった。


「そう言うと思ったわベル……」


 ていうかこの二人、面白い愛称で呼びあってるのね。微笑ましいな。


「どうして私なんかに付き合ってくれるのよ?」


「それはね……僕はカナのこと大好きだから!」


「はぁ!?」


 突然の告白に私は驚きの声を上げた。いやいや、なんで? 私この子になにかしてあげたっけ? 確かに美味しいごはんを作ってあげたりはしたけど、むしろベルフェゴールのほうが私のことよく治療してくれたり、世話を焼いてくれたような気もする。


「ベルはカナと契約したいそうよ」


「そうそう、カナのその魔素……初めて見た時から気になってたんだよね……是非とも食べたいな……」


 あー、そういう目的でしたか……だから食べるのはダメって言ってるのに……。


「契約って、するとどんなメリットがあるの?」


 私はベルフェゴールに尋ねてみた。悪魔と契約とか嫌な予感がしないでもないし。


「うーん、僕がカナの力の一部を得ることができる……かな。あと僕たち悪魔は人間に取り憑いたり、契約したりしないと本当の力を発揮できないんだよ。だから、魔王様と契約しているレヴィお姉ちゃんは魔王四天王と言われるほど強いけど、僕はそこまででもないのはそれが理由」


「なるほど……?」


「でも、素のスペックならあたしよりもベルフェゴールのほうが高いから、絶対に役に立つはずだよ。連れてってあげて」


 まあ、レヴィお姉ちゃんがそう言うなら……。


「……でも、勇者と戦うんだよ? 死んじゃうかもよ?」


「大丈夫、カナが死んだら骨を拾って魔王様に届けてあげる」


 この子、自分が死ぬこと全く想定してなーい! まあそんなところがベルフェゴールらしいっちゃらしいけど……。


「ベル、カナのことをよろしく頼んだわよ」


「任せて! しっかり守るから」


 挙句の果てにこの保護者面である。……後で泣いても知らないからね! 勇者レオンはほんとに強くて、周りの奴らもめちゃくちゃ強いんだから……。


 ベルフェゴールの言葉を聞いて安心したのか、魔王はぼーっと突っ立っていた私の手を取ってこう言った。


「じゃあ、しばらくのお別れだね。カナはモンスターギャルドが好きだったんだよね? そしたら、勇者を倒したらわたしの所においで? またモンスターギャルドができるようにしてあげる。……マシューと一緒にね」


「あ、ありがとうございます!」


 もういっそ、このまま魔王様と一緒に逃げちゃおうかとすら思った。そしたら新天地でまたマシューとモンスターギャルドができる。……でもそしたらあいつら……勇者レオンやルナ、クロードやホラントに負けたってことになるし、アンジュにだって……。

 だから私は戦う。そして勝って胸を張って魔王のもとに行こう!


「この城はカナにあげるから好きに使ってね」


 うわぁ……お城を丸ごとくれるなんて……さすが魔王様。


「じゃあね、お姉ちゃん!」


「……おぅ」


 魔王様――銀髪のお姉さんはまた私を惑わせるようなことを言い残して、唖然とする私を置いて、レヴィアタンの転移魔法で去ってしまった。


「はぁ……行っちゃったわね」


「そうだね」


 ベルフェゴールは相変わらず私の隣でニコニコしているので、とりあえず聞いてみることにした。


「ベルはほんとにお姉ちゃんと行かなくてよかったの?」


「うん、正直レヴィお姉ちゃんよりもカナのほうが好き」


「……さいですか」


 変なやつに好かれてしまったなぁ


「で、契約っていうのはどうすれば結べるのよ?」


「あぁ、それなら……」


 ベルフェゴールは意味深な笑みを浮かべた。……えっ、なに?


「心配しなくても大丈夫だよ。すぐ終わるから」


 くるっと私の目の前に回り込むと、ベルフェゴールはじっと私の目を見つめた。

 なに? なにされるの? 今は二人きりだしまさか……だ、だめだっていくらなんでも……!

 ……と、心配するようなことは起きなかった……のかな?


 とにかく、ベルフェゴールが言うとおり、それはすぐ終わった。……あくまで体感時間の話だけど。


 ベルフェゴールの赤い瞳に見つめられた途端、私はぼーっとしちゃって、気づいたら体がほんのりと熱いの……また惚れ薬かなにか盛られたのかな?


「ちょっと! なにしたのよ!」


「何もしてないよ?」


「嘘!」


「ほんとほんと! 契約しただけ! ほらね!」


 ベルフェゴールはそう言いながら右拳を前に突き出した。すると、なんと私の魔素とそっくりの禍々しい闇の炎がその拳を包んで燃えていた。それ私の力じゃん! なんでベルフェゴールが使えるの!?


「なにしたのよ!」


 私はもう一度尋ねた。もちろん今度は別の意味で。


「だから契約したの! 物わかりが悪いなぁカナは」


 ……ごめんなさいそれは生まれつきです。


「言ったでしょ? 契約した相手の力を一部使えるようになるって……そのためにちょっと魔力を吸収させてもらったりはしたけど、カナが期待してるみたいなえっちなことは何もしてないよ?」


「期待してないから!」


 私は改めて思った。……やっぱりこの子苦手だ。



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