プロローグ的な何か
というわけで新作です。
今回は「語り口調のほうが読みやすいけど、男主人公の転生はありがちだからちょい変えよ」ってことで、女子視点での語り口調という鬼畜プレイに挑戦しております。
上手くできていたら座布団ください。
「前衛、突撃!」
勇ましい青年の掛け声とともに前衛の3人の戦士がモンスターの群れに攻撃を仕掛けた。と同時に私も杖を構えて呪文を詠唱する準備に入る。
敵は、ホブゴブリンナイトっていう戦士が5体、そしてゴブリンメイジっていう魔法を使うやつが3体、ゴブリンプリーストっていう僧侶が1体の計9体のゴブリンの群れ。前衛と後衛に分かれてるし戦い慣れてる雰囲気があるからちょっと厄介かも。
黒いローブを着た私の体を白い光が包み込む。これは別に私の魔法じゃなくて、隣にいたアンジュっていう僧侶の子の〝速詠〟の加護なんだよ。
私は加護がかかったことを確認すると、呪文の詠唱を開始する。
敵はゴブリンだから普通ならあまり強力な魔法は必要ないんだけど、僧侶がいるしあまり弱い魔法だったら防がれちゃうかも。
「聖なる炎、聖なる風、我が元に集いて敵を打ち砕く螺旋となれ……」
呪文を唱え始めた私には当然攻撃は集中する。敵のゴブリンメイジから火の玉やら氷の塊やらが浴びせられるけど、この程度は問題ではないんだなー。ほら、全部アンジュが魔法陣を展開して防いでくれてる。
今のうちに詠唱を終わらせなくちゃね。……これでも速詠のおかげでだいぶ短縮して唱えられてるんだけどなぁ……
「前衛、撤退!」
私が呪文を唱え終わりそうだと感じたアンジュが前衛に向けて叫ぶ。自分たちより一回りほど体格の大きいホブゴブリンナイト5体を3人で相手にしていた前衛の戦士たちは撤退を開始した。
ゴブリンたちはまだ状況がわかっていないようで、その場に棒立ちになってるんだけど、それが命取り!
「火炎大竜巻!」
私が魔法を発動すると、炎をまとった巨大な竜巻がゴブリンの群れの中心あたりに出現して、一気にゴブリンたちを燃やしながら巻き上げた。
「ギャァァァァッ!」
というゴブリンの断末魔。うーん爽快!やっぱ戦闘はこうでないとね。
「よくやったぞカナ!」
「お前のおかげで助かった!」
撤退してきた戦士たちは口々にそういうと、私の頭をポンポンと叩く。もー、みんな私がいないとダメなんだからーっ♪
……そして、一番最後にやってきた戦士。動きやすさと丈夫さを兼ね備えている火蜥蜴の赤い皮の鎧を身につけた、私の大好きな彼、勇者レオン。彼は私を優しく抱きしめると、こう言った。
『いい加減起きろ!』
「はいっ!!」
私はびっくりして飛び起きた。辺りを見回すと、勇者のパーティーもモンスターもどこにもいなくて、いつも通りの学校の授業風景。
……またやっちゃった。夢を見ていたんだ。私の目の前では案の定、頭の禿げた理科の教師が顔を真っ赤にしながら怒っている。こいつ嫌い、清潔感がないから。
「ごめんなさいっ!!」
私は大声で謝ると、周囲から笑い声が上がって、理科教師は諦めたかのように去っていった。まあ上々。学校の授業なんかテストで悪い点数取らなければ別にいいんだし。
自己紹介、してなかったね。私の名前は桜井香那、高校2年生、一応JKやってます。将来の夢はまだ決まってないけど、来世の夢は決まってるの!
〝異世界の魔法使いになって最強のヒロインになりたい!!〟
はいそこ笑わない。マジだからね。……なんで魔法使いかっていうと、頑張ってる男の背中を見ていたいというのが女心だから。でもお姫様は嫌だ。一緒に戦いたい。だから魔法使い。理にかなってると思わない?
私は真面目に授業を聞いているアピールをするために、ノートを開いた。もちろん、授業の内容を写すわけないし。私が描いているのは1人の女の子の絵。私の理想の姿、私の来世の姿。その名も、魔法使いのカナちゃん。
カナちゃんはリアルの私とは違ってとても人気者。強くて可愛い。髪は明るいピンクブロンド、かわいい。胸はもうちょっと大きくていいかも。おまけに恋人がいる。そう〝恋人〟。勇者レオンっていってね、とっても強くてカッコイイ!最高。
まあそんなことを一日中妄想してるから、私には友達がいないし、夜寝不足になって授業中に寝ちゃうし、あまり良くないのはわかってるんだけどね。
将来はそうだな……小説家にでもなろうかな?
そんなことを無限に妄想しながら、妄想少女桜井香那は家路につくのでした。
学校から家までは緩やかな下り坂が続いていて、自転車に乗っていればろくに漕がなくても着いちゃう。
まあ、行きはその分辛いんだけど。おかげでぼーっと妄想できる時間が取れるよね。どうせなら昼間見た夢の続きを考えてみようかな。
シューッと自転車はスムーズに進む。この先に人通りの多い道があるからそこだけは気をつけないと……。
「こうくん! 待って! 危ないよ!」
そんな女の人の声で我に返った。見ると、人通りの多い道の手前の小路から、1人の男の子が走って飛び出してきた。
--危ないっ、避けて!
……でも男の子はこちらを見ると、どうしていいか分からなくなったのか、足がすくんだのか、立ち止まってしまった。じゃあそのまま動かないでね! と慌てて自転車のハンドルを無理やり切る。
バランスを崩した自転車は、そのままガッシャァァン! と倒れてしまった。……いたたた、手のひらと膝を擦りむいたかもしれない。でもよかった。男の子は無事……。
--振動
--クラクション
--衝撃
--暗転
暗い。どうしよう。……多分こけた私は、人通りの多い道のど真ん中にでも倒れてしまったのかも。そしてその道はよくトラックとかが猛スピードで通っている。
--あっ、死んだなーこれ。
やっとその事実に気がついた。
まだ普通の転生小説と変わりませんね?次回から本番ですからね!