魔導士の執着
連休ボケしてます……
今日からまた執筆頑張ります!
「ちょっと! カナ! なに出歩いてるの! それも陛下になんて捉まって!」
「えっとー、暇だったし? 陛下は……偶然?」
「なんで全部疑問形なのさ!」
加奈子はレオナルドが焦った様子が意外だった。
「ごめん?」
「ほら、また!」
レオナルドが加奈子に詰め寄った所で、女性の声がした。
「まあ、まあ、落ち着いて。カナちゃんは落ちて来たばかりなのでしょう? まだこっちの事情も危険さも分かってないんだから」
「……」
事情も危険さも説明を受けている加奈子は黙るしかない。下手な一言は言わないに限る。
「それよりも、レオナルドがそんなに焦った姿初めて見たわ! ね、ルーセント」
「そうだな、女遊びも、敵の殲滅すら笑顔を崩さないのにな。それにカナ殿、君はレオナルドの魅了の効果に引きずられないのだな」
二人は言いたい放題である。
「……カナ。行くよ」
レオナルドが加奈子の袖を引いて、連れ出そうとする。腕を掴むと文句を言われるので、袖を摘まんだのだ。
「ちょっとまって、レオ。私、王妃様が日本人だって聞いたから、合わせて貰いに来たの」
加奈子はそのレオナルドの手を握って引き留めた。
「お茶ぐらいいいじゃない、レオナルド。私もカナちゃんとおしゃべりしたいわ」
「ふふふ、狭量な男は嫌われるぞ、レオナルド」
夫婦そろって、それもこの国と王と王妃に止められては、レオナルドも拒否できない。
「……分かったよ。この部屋が安全なのは確かだから、僕が同席していていいならいいよ」
渋々頷いた魅了の魔導士に、加奈子は納得がいかずに反論する。
「え? なんでレオの許可がいるのよ。わたしが同郷の女性と二人で話したいの」
黙るレオナルドに王妃様らしき女性が感嘆の声を漏らす。
「本当に魅了が効かないのねぇ。どうしてかしら? 大丈夫よ、レオナルド。一時間だけ時間を頂戴? そうしたら連れて帰ってもいいわ」
陛下の「行くぞ」の言葉にレオナルドは後ろ髪を引かれながら退室していった。
ドアが閉まると、王妃は加奈子の手を取って、ソファーに座らせた。
「カナちゃんってどういう字書くの? 何歳?」
「えっと、レオにはカナって呼ばれていますけど、本名は加奈子です。加える奈良の子。十八です」
「加奈ちゃんね。私は明日香。明日に香る。二年ほど前に落ちてきて、一年前にルーセントと婚姻したのよ。同じ日本人なんだもの、敬語はいらないわ。私は今二十四かな。微妙に地球と一年が違うし、大体だけど」
「あの……明日香さん、明日香さんって王様萌えなんですか?」
「ふふふ、気になる? そうねぇ、王様萌えというか、王の服萌えかしら……。私は、二年ほど前、気付いたら夜に王のベッドにいたのよ。どんなラノベ展開かと、ビックリしたけれど、朝着替えたルーセントを見て、鼻血を吹くかと思ったわ!」
「そ……そうなんですね……」
「だって、あの体躯に飾り紐の服……マントを翻して歩く姿は尊いわ!! 落ちたところがたまたまルーセントの所で良かったと思ってる。聞いたでしょ? 日本人はこちらで人気なんだって」
「はい、レオが大体教えてくれました。でもまだ実感がなくて……。特に危ない目に合っていませんし……」
「それはレオナルドが加奈ちゃんの為に努力してるからじゃない? ユスコーの街で会ったと聞いたのだけれど……、街中に日本人が一人でいたら絶対無事ではすまないもの! 先ほども一人で中庭にいたんでしょう? ルーセントが気付いたから良かったものの……。まだこちらに馴染むまでは、一人で行動しない方がいいわ」
王妃の真剣な顔に加奈子の顔も強張る。
「ごめんなさいね、怖い事言って。でも……変態に攫われるなんて嫌でしょう? レオナルドは魔導士としての腕は世界一だし、彼に限って襲ってくることもないでしょうし」
「はぁ、レオは女の子選びたい放題ですよね。でも彼になにも見返りがないのに、なぜ助けてくれるのかな……?」
「それは……加奈ちゃんといるのが楽しいからじゃない? まぁ、彼の事だから深くはきっと考えていないわ。助けてくれるって言うなら、甘えちゃえばいいのよ」
「甘える……」
加奈子は物心ついてから甘える対称なんて居なかった。よって、無償の行為が理解できないのだ。
「舞踏会までは城に滞在するのよね? 侍女の日本人もいるわよ! あと文官と武官も数人いるわね。機会があったら紹介するわ」
「ありがとうございます。私も何かお仕事したいのですが……」
「それにも、まずは慣れる事だわ。要は日本人だとバレないくらいになれば、一人でも生きていけるわ! 今追いかけられない為には、誰かと番ってしまうのが一番簡単だけど……、加奈ちゃんには向かなそうね」
「うーん、無理ですね……私萌えとか持ってないですし、恋愛もした事ないので」
「え? 恋愛もしたことがないの? うーん、ある意味彼と似た者同士なのね……。意外に上手く行くのかも?」
最後の方は王妃の独り言のように紡がれ、加奈子の耳には届かなかった。
「そろそろお迎えが来そうね。またゆっくりお喋りしましょ」
そう王妃が言った途端、扉がノックされてレオナルドが入って来た。
「カナー、王妃殿下とのお話は終わった? 帰るよ!」
「はいはい。では明日香さん、ありがとうございました。陛下にも連れてきてくれたお礼を言いたかったのですが……」
「伝えておくわ。きっとルーセントは執務戻っていると思うから」
じゃあね、と王妃は加奈子を見送った。
レオナルドは王夫妻の部屋から出ていった時とは違い、上機嫌で加奈子と部屋まで戻った。
鼻歌を口ずさんでいる。
「ねぇ、アスカ王妃殿下と何話したの?」
「この世界の事とか、明日香さんの落ちて来方とか……。あと、機会があったら他の日本人も紹介してくれるって」
「そうなんだ……、そうだよね、ニッポン恋しい?」
「全然。残してきたものは何もないから。ただ、今の状況をみんなどうやって乗り越えたのかなとか、どうやって仕事に就いたとか気になるから」
「ふーん……。カナは働かなくてもいいよ」
「そんな訳にはいかないよ、何か仕事を得て、対価を貰って生活していかなきゃ」
レオナルドが拗ねたような顔をする。
「僕に頼めば、生活くらいどうにでもなるのに」
「それが嫌だから、何とかしようとしているんじゃない!」
「………」
「………」
結局二人は気まずいまま夜を迎えた。ハネムーン仕様のキングサイズベッドで端と端で眠りについた。レオナルドが色々加奈子の為にしてくれる事が、加奈子には理解できなかった。そしてレオナルド自身も、なぜ加奈子が他の人達と関わるのが嫌なのか、悶々と一晩中考えたのだった。