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ヘンタイ王国ニッポンの弊害

 「ねぇねぇ、君の名前は何て言うの?」


「……あんたは?」


「気になる? 僕はレオナルド・ワイズマン、世界一の魔導士だよ」


「ふーん、私、自分の事僕って呼ぶ大人と、世界一とか自分で言っちゃう男は信用しないから。じゃっ!」


肉を食べきって、足早に歩く加奈子の後ろを、魔導士は着いて来る。

お肉には感謝をしたが、これ以上の面倒ごとは御免だと、加奈子は走り去ろうとした。


「待って! 名前だけ! 名前だけ教えてくれたら、ちゃんとしたお昼ご飯食堂でご馳走するよ」


「……加奈子(かなこ)。 ごちそうになります」


加奈子がお辞儀をした。自分にメリットがあれば、ちゃんと礼もする。


「カナコが名前? 変わった名前だね。それに不思議な恰好」


コンビニに向かっていたのだ、加奈子のお気に入りのラフな部屋着だった。

半袖のゆるっとした、ロング丈の白紺ボーダーワンピースだ。

日本では特におかしい恰好ではない。


「……失礼ね。人の名前と服を貶すなんて。ご飯はいりません、さようなら」


また歩き出そうとする加奈子の手をレオナルドが掴む。


「ちちち、ちがう! 貶した訳じゃなくて……。えっと、発音が難しかったのと、この辺で見ない服装だなって」


「あんたの常識で考えないでくれる? あと、女の子の手を許可なく掴む男、やっぱり信用できない」


レオナルドはパッと手を放した。

いつもは女がしなだれかかって来るのが普通で、手を繋ぎたがり身体を押し付けてこられるのが通常だったレオナルドは混乱していた。


「ごめん、もう触らない。 ほら、謝罪に! お昼ご飯おごらせてよ」


加奈子は謝罪ね……と呟いてから、レオナルドの方を向いて、笑顔になった。


「その謝罪受け入れるわ。お金も持ってないし……ありがとう!」


加奈子の二度目の笑顔を見て、魅了を振りまく魔導士は、人生で初めて赤面した。





 「さっきお肉食べたから、お魚なんてどう?」


食堂に入ったレオナルドはそう提案したが、加奈子は無下に断る。


「いえ、お肉でお願いします」


「……お肉好きなんだね。了解。じゃあ……」


そう言って魔導士がオーダーしたものは、大きな分厚いステーキに色とりどりの焼き野菜が添えられたもの。ステーキは緑色で何の肉か分からないが、加奈子には関係ない。


「あんた良く分かっているじゃない。では、いただきます」


手を合わせて食べ始める。歯がギザギザのステーキナイフで、大き目に切って口に放り込むと、レオナルドも小さく切って上品に食べ始めた。

レオナルドのステーキ皿の横には給仕の娘さんからサービスで貰った、デザートが置いてある。密かにあとで奪おうと加奈子は考えていた。


「カナコってどこから来たの? 食事前に祈る人はいるけれど、いただきますって初めて聞いた」


「……カナでいいよ。日本から……かな?」


カナコが発音しにくいと言っていたので、略称を許す。最後が疑問形なのは、ここが何処だか加奈子には分からないからだ。


「オッケー、カナ。 カナはニッポンから来たんだね……って事はチキュウ人?」


「え、ここは地球じゃないの?」


そんな気はしていたが、あえて聞いていなかったのだ。なにせ周りには耳の生えた人や、ローブを纏った人、中世のようなドレスを着ている女性など、地球でも見かけない人で溢れていたからだ。


「そっかー、カナはチキュウから来たニッポン人なんだねー。なんかこの世界と、チキュウのニッポンという国が繋がりやすいらしくて……、たまにあるんだ、こっちに落ちてくる事」


「たまにあるんだ、じゃあ、いいや」


加奈子一人では焦ったかもしれないが、他にもいると聞いて何とかなると楽観的になる。


「でも……、カナ。 カナがニッポンから来た事は内緒にした方がいいかなぁ」


「なんで?」


たまにいるなら、そう珍しい存在ではないはずだ。


「ニッポンから来る人達は、高い知識を持っている事で知られているから、城に務められる事が多いんだけど……」


「けど?」


「ヘンタイ王国としても知られているから、この世界の色んな変態が追いかけてくるよ!」


「は?」


日本の大変不名誉な呼称である。だが如何せん、否定はできない。


「確かにそんな呼び名もあったりするけど……、全員が変態なんかじゃないし、普通は秘めているものだよ」


「それがねー、来たニッポン人が獣人萌えだったり、騎士萌えだったりすることがあって……番うと、どんなプレイも受け入れてくれるって噂がたっちゃってね。あとは、ビーエル本とやらを書いたニッポンの女性が来て以来は、ビーエルに嵌った女性たちが続きを読みたくて押し寄せる様になって……」


「ああ……、確かにいるわね、そういう人。って事は、男性からも、女性からも追いかけられるって事?」


「当たり! カナ、賢い!」


キラキラを振りまきながら魔導士はカナを指さす。


「……追いかけられるのは、女性限定?」


「男性が落ちて来た場合は、城勤めの高給料目当ての女達にモテモテだね。基本こっちの人より穏やかで勤勉な人が多いから、番うには大人気だよ!」


「なんか理不尽……。女の方がキケン度高い……」


「そう、だから内緒にするのがいいって事。ね、カナ、僕の事レオって呼んでくれるなら、こっちの服と今夜の宿も用意するよ!」


どう? と魔導士は首をかしげる。

普段なら、この笑顔とポーズで、女たちは骨抜きになるのだ。


「いいえ、宿とか遠慮します。身の危険を感じるので」


「ええー!! だから、その恰好でふらふら歩いている方が危険なんだってば! 僕は何もしないって約束するから!」


加奈子は逡巡する。服も貰えて、今夜の宿も手配出来て、手も出されない。しかしそんなうまい話……



「レオ、よろしくお願いします!」



加奈子は満面の笑顔で片手を前に出した。魔導士はう…うん……と言って手を握手する。


こうして世界一の魔導士レオナルド・ワイズマンことレオと、女子大生加奈子ことカナの、不思議な関係は始まったのである。




HENTAI王国。しかしそのHENTAIが大きな経済効果を生むのだ!

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