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花より団子な令嬢と二人の美男子

 「早速なんだけど、例の舞踏会の催しでやる花火の間、カナの警護ニールに頼みたいんだよね」


舞踏会は数日後に迫っている。


「ええで、俺その日会場警備やったけど、騎士隊長に話しとく。王の名前出してええんやろ?」


頷くレオナルドに、ニールはニコニコ顔で承諾した。


「じゃあ、花火の半刻前から、終了まで。僕が引き取りに来るまでよろしくね」


「すみません、よろしくおねがいします」


加奈子は初対面のニールに頼まなければいけない状況と、仕事を置いてでも警護をしてくれる事に申し訳なく思い、眉間に皺がよる。


「そんな顔せんでええって、カナコ。俺は給料貰えるから、会場の警備もカナコの警護も大して変わらんし。なんなら、一緒に飲み食い出来てラッキーや。会場警備ではそうもいかんからな」


「そう言ってもらえると少し気が楽です」


そう言ってにっこりと笑った加奈子に、ニールは目を見張る。それを見たレオナルドはチッと舌打ちをした。


「カナコ笑うとかわええなぁ。よっしゃ、舞踏会楽しみになってきたでー!」


苦々しい顔をしたレオナルドは、ニールに頼まなきゃよかったと呟いたが後の祭りだ。騎士であるニールが警護の適任者なのは言うまでもない。他に事情を話せない以上、ニールを頼るしかなかったのであった。





 今回の舞踏会の主な目的は、隣国の王太子をもてなす事だ。しかし、賢王であるルーセントの統治と、世界一の魔導士レオナルドのおかげで平和の続いているユネルバの国民は、これ幸いにと、騒ぐ理由を見つけては家族総出で楽しんでいる。舞踏会には貴族らしか招待されていないが、花火は街中からも見える。すでに町はずれの丘には、観覧席が設けられ、入場券が売られていた。楽しい事に関しては行動の早い国民たちである。


当日レオナルド、加奈子、ニールの三人は、舞踏会会場にて、レオナルドの出番まで時間を潰していた。今日はレオナルドも紳士然としており、加奈子の手を腕に沿わさせている。隣国の王太子の挨拶の後、ルーセント王の開始の合図で招待客たちはダンスをしたり、立食スペースで歓談を始めた。


「僕たちも何か食べようか。カナの涎が床まで垂れる前に」


「ちょっと! 確かに私は食いしん坊だけれど、そんなはしたない事しないわよ!」


いつものように言い合いを始めた二人を、ニールが止めに入る。


「まあ、まあ。お二人とも。まだ始まったばかりなんやから、抑えや。かわええドレスが泣くで、カナコ」


「そうだよ、カナ。マッティが泣くよ!」


「……あんたが吹っ掛けてきたんじゃない」


じろりと加奈子はレオナルドを睨んだ。そしてはっとして作り笑顔を顔に張り付ける。


「せっかくのマッティさんに作って頂いたドレスだもの。今日は休戦よ、レオ」


そう言って加奈子はその場でくるっと一回りして、ドレスを二人に見せた。薄オレンジの生地に、ピンクのグラデーションになったレースが合わさっており、さながらカクテルのような色合いだ。その美味しそうな色合いのドレスは、加奈子の日本人特有の肌を一層健康そうに見せ、華やかな印象を与える。先ほどレオナルドから習ったカーテシーをして見せる加奈子に、レオナルドはいつもと違う加奈子に見惚れ、ニールは拍手をする。


「ええやん、ええやん。今日のカナコはお姫様のようやで!」


へへへ、と照れながら笑う加奈子に、レオナルドは手を差し出した。


「……ではカナ姫。こちらに」


尊大な態度のレオも今日は違うらしい。その手を取る加奈子は、いつもと違うレオナルドに戸惑いつつも、悪くない気分だ。今日はキラキラと光る魅了の輝きも、加奈子を苛立たせることはなかった。むしろ着飾ったレオナルドは、光り輝いてまるで王子様のようだ。あちらこちらにレオナルドに見惚れる貴婦人がいたが、見られる事になれているレオナルドは、気にもかけず加奈子を立食スペースのある隣部屋へとエスコートする。その後ろを騎士の正装を身に着けたニールが付いていく。ニールもその親しみやすい言葉に似合わず、一般的には美男子の部類に入る。その二人を伴ったあのご令嬢は誰かと、会場は密かに噂するのであった。





「あっ! お肉ある!」


先ほどのやり取りは何だったのか。装いは変わっても、加奈子の食に対する情熱は変わらない。そんな様子にレオナルドはふっと吹き出しそうになる。


「カナはこんな時もお肉好きだねぇ。取ってきてあげるから、ニールとそこで待っててよ」


レオナルドが指さした先は、壁際に配置された椅子だ。興味は隠せなくてもせめて淑女らしく振舞おうと、加奈子は言われた通り椅子へ掛ける。加奈子の隣の椅子にニールも腰掛けた。


「あーあ、レオナルドが珍しく世話焼いとると思っとったら、一人になるから囲まれとるやないか」


ニールの言葉に加奈子が視線を先に向けると、食事の並んだ立食テーブルの前で、レオナルドは煌めきを振りまきながら貴族のご令嬢達に囲まれている。加奈子にはこちらの世界に落ちてきてから幾度となく見かけたシーンだ。しかしなんだか今日は胸に痞えるものがある。


「なぁ、一つ聞きたかったんやけど……。カナコはふりをしとるだけやんな? 実際はどう思っとるん? レオナルドの事」


そんな加奈子の表情を見て、ニールがこそっと加奈子の耳元で聞いた。なにげに二人きりになるのは今が初めてだ。ニールはレオナルドが居ては聞けない事をこれ幸いと加奈子に聞いた。


「……ふりだけですよ?」


「じゃあ、なんでそんな魚の骨が痞えた様な顔しとるん? カナコには魅了は効いとらんのやろ?」


「そんな顔なんてっ……!

……してました?」


「カナコはかわええなぁ。分かりやすいで。なんで隠すん?」


今度は顔を赤くした加奈子が、下を向いてもそもそとしゃべりだす。


「隠すというか……。だって、あのレオですよ? あんな自尊心いっぱいのやつなんか、私の好みじゃありませんし。きっと間違いです」


「俺としては間違いであって欲しいけどな」


その意味深長な言葉に、真意を聞こうと加奈子が顔を上げると、いつのまにか目の前にレオナルドが肉類をいくつかきれいに並べたお皿を持って立っていた。


「何が間違いだって?」


「なんや、レオナルド。早かったなぁ。もちっと時間かかるかと思ったわ」


「うん、まぁ。無下にできないから少し話してきたけど、今日はカナをエスコートしてるからね」


ニールの言葉で話が反れて、加奈子はほっとしつつ、熱くなった頬を手で煽って冷ます。


「どうしたの、カナ? 暑い? 体調良くないなら外に出て風に当たる?」


「ううん! 大丈夫。ありがとう取ってきてくれて! 相変わらずすごい色のお肉ね。でもおいしそう」


慌ててお皿を受け取る様子の加奈子に首を傾げつつも、体調が悪いわけではないと分かってレオナルドは安心した。

レオナルドは自分の分も軽く盛って来たようで、シャンパンを配る配膳係に目配せをしつつ、加奈子のニールとは反対側の隣の席へ座った。


「ニールもとっておいでよ。後一刻程で僕は行かないといけないから、今のうちに」


「そやな、行ってくるわ」


レオナルドに促されて立ち上がるニールの顔はどことなくニヤついている。


「なに、その気持ち悪い顔」


「いやー、春が近いってええな! 俺はハートブロークンやけどな。うん、うん」


食事をとりに行くニールの背中に、レオナルドは「あいつなにおかしな事言ってるんだ?」と呟くが、レオナルドに取ってきてもらったお肉について焦った様子で加奈子が尋ねて、興味を失ったレオナルドは加奈子にお肉の種類と産地について話し始めるのだった。


 ニールが戻ると三人で談笑しながら軽食を取る。笑いあいながら食べる食事は、加奈子にとって思いの外楽しい時間だった。中学、高校と施設から通っていたため遠巻きにされ、親しい友人もいなかった。大学では学業とバイトに忙しく、お茶や外食に誘われても断るしかなかったのだ。そんな気持ちが表われているのか、加奈子の表情はいつもより楽しそうで、レオナルドとニールも顔を綻ばせた。


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