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第8話 ALIVE TWICE

「さがって!」


 メリッサは、生存者の男に前に立ち、離れるように促した。

 考えろ。考えろ。疲れた頭脳をフル回転させ、生き残る術を考える。しかし、残された戦力で、この赤い化け物を相手に勝つどころか、逃げる道筋さえも見出せない。


「おい……ムスメ……あの赤い人形は……まりょくで……動いている、のか?」


 突然、背後の男がメリッサに話しかけてきた。


「え?」


突然のことに、メリッサは驚いて聞き返す。


「アレハ……魔力がある……かと、きいている」

「それはそうだが……それより危険だからさがって!」


 男は、メリッサの答えを聞き終わらないうちに、彼女の隣に歩み出るといきなり、メリッサの腰を片手でグッと抱き寄せた。


「ひゃっ、え?」


 突然のことに混乱するメリッサ。男性に強く抱き寄せられたことなどない彼女は、初心な少女のように声を出し、身を強張らせた。

 男はそんなメリッサに構うことなく、片方の掌を赤いゴーレムに向け、目を瞑り集中し始めた。


 その時、メリッサは、先ほど感じたもの――身体の奥を揺さぶるような衝撃が、身体の奥から沸き立つ様に流れて行き、自分の腰を抱いている男の方へ流れていくのが分かった。

 すると次の瞬間、ゴーレムに向けた男の腕が、真っ黒なオーラで包まれた。

 そして、男の目が開いた。


「マヌディブロス!」


 男の叫び。威厳すら感じる雄々しき咆哮。

 男の手から放たれ、一気に伸びたオーラは、伸びてゆく過程で“手”に形を変えた。

 巨大な漆黒の手だ。

 その漆黒の手は、猛獣の如くゴーレムに襲い掛かると、あっという間にゴーレムを握り締めてしまった。

 ゴーレムは、握られた鼠のようにもがくが、黒い手はびくともしない。


 メリッサ達が目の前の出来事に呆気に取られていると、更に驚くべきことが起こった。

 走り抜ける人影が、一瞬、メリッサの横目に映る。

 それはメリッサのすぐ横にいる生存者の男は別の人間だった。新たな人間がその場に現れたのだ。


 その謎の人物は、メリッサ達の横を高速ですり抜けていった。

 直後、どこからともなく剣を出現させ、その剣でゴーレムの胸から上を横一文字に切り裂いたのである。

 まさに一瞬。現れてから切り裂くまで刹那の出来事だった。


 ゴーレムの胸から上が、ずしりと地面に落ちる。

 すると謎の人物は、ゴーレムの残った胴体に飛び乗り、断面から内部に手を入ると、何かを抜き取った。

 ローブを着てフードを深く被っており、どんな人物なのか目視することは出来ない。ただ、“強い” それだけはこの一瞬で、メリッサ達には理解できた。


「ちっ」


 黒いオーラの手でゴーレムを掴んでいた男が、苦々しい表情でその光景を睨んだ。

 男は、オーラの手からゴーレムを放すと、今度は謎の人物に向けて、その漆黒の手を放った。

 それに気付いた謎の人物は跳躍し手に捕まるのを回避するが、蛇のようにうねる手は、グニャリと折れ曲がって向きを変え、空中に逃げたその人物を捕らえた。が、捕えたのは一瞬だった。


「ごほっ、ごほっ、が、ぐああぁぁぁぁぁ!」


 男が咳き込み、苦しみ出した。それと同時にオーラが消える。

 地面にうずくまり、咳をしながら、何度も吐血した。

 口から出た血の量は多く、彼の服を真っ赤に染め、地面にも血溜りができる。


「お、おい、大丈夫か!」

 

 目の前の出来事を呆然と眺めていたメリッサであったが、我に返り、倒れている男に呼びかけた。

 男は血溜りの中、魔法を放った左手を抑えて激痛にもがいた。見れば左手はまるで火で炙られた様に焼け爛れている。

 その後、男はのたうち回ったあと意識を失ってしまった。

 メリッサが再びゴーレムの方に視線を向けるが、その時にはもう、謎の人物は忽然と消えていた――……



♦  ♦  ♦



 鉱山での事件のあとメリッサたちは、病院で治療を受ける傍ら、救助した男を搬送した。不思議なことに、男の外的損傷は、病院に着く頃には綺麗に回復していた。

 それは異常なことだった。なぜなら、病院以外で回復魔法は使えないものだからである。

時間を掛けて行う自然治癒を魔法の力で急速に行った場合、人間の体力が持たない。また、細胞への悪影響も出る。そのため、病院の設備で管理された状態で初めて回復魔法は使えるのである。

 しかし、この男は病院の設備なしで回復を行っている。いや、回復魔法ですらないのかもしれない。

 洞窟で放った魔法といい回復といい、男が尋常ならざる者であることは確かだった。

 何者なのか、それを調べるため、メリッサは男の意識の回復を待った。


 男が目を覚ましたのは、搬送してから3日後のことだった。

 今、男は上体を起こした状態で、病室のベットにいる。豪華な装飾はないが、白を貴重とした清潔な雰囲気の個室だ。男が目覚めたら色々と聞きたいと思い、メリッサが病院に頼んで男を個室に入れてもらったのだった。


「目を覚まして早々にすまない」


 メリッサがベットの横に立って男へ話しかける。

 病室の中にはメリッサと男の二人だけだ。警備会社の仲間にも、二人きりで話したいと伝え同席を断った。

 自分が見た闇に覆われた空間や砕けた水晶、その中から出た光の玉など、あの体験については荒唐無稽過ぎて、仲間たちには話していない。ダメージによる幻覚か何かと言われるだろうし、マリアに至っては精密検査を受けさせ、メリッサを病院のベットに拘束してしまうだろう。


 ただ、あの体験が幻覚などではないと実感している。そして、目の前のベットにいる男と無関係ではないと確信があるのだ。だから二人で話したいと思った。

 メリッサは、真実を知りたいと逸る気持ちを抑えて、目覚めたばかりの男に負担をかけないよう慎重に質問することを心掛けた。


「私は、メリッサ・ソル・グレンザール。あなたをこの病院に搬送した者だ。あなたの名前を聞かせてくれないか」

 

相手に警戒心を抱かせないよう、努めて柔らかい物腰で話かける。


「……て……手、出せ」

 

 男は片言で呟く。

 

「え? あ、ああ。これでいいか?」

 

 メリッサは男の意図が分からず戸惑ったが、片手を男の方に差し出した。

 突然、男は差し出された手を強く掴んだ。メリッサは驚いて手を引っ込めようとするが、男の力は予想以上に強く離れない。


「お、おい」


 無言で手を掴む男に対して、微かな怖しさを覚えて声を出す。がっちりと掴んで話さないように思えたが、メリッサの言葉のあと、数秒して男はふっと手を離した。


「なるほど……そういうことか……うむ、都合がよい」


 男はメリッサを見ることなく、何かに納得するように頷きながら呟いている。しかし、突然にメリッサの方を向き、口を開く。


「娘よ。貴様はこれから我の真の復活のために協力せよ」

 

 妙な言葉使いではあるが、男の発音が片言ではなく流暢なものに変わっている。メリッサはそのことに驚いたが、それよりも、言っている意味が分からず、男を見つめて固まった。


「ん? 言葉を間違えたか? 貴様の記憶から言語を引き出したのだが」


 男は怪訝な表情でメリッサを覗き込むように見る。


「えっと、言葉は分かる……そうではなく、復活とは?」


 メリッサは伺うように言葉を紡ぐ。


「なんだ、間違っておらぬではないか。まったく愚図が」


 先ほどまで元気のない怪我人だった男が、流暢に喋り始めた。復活とかよく分からないことを言っている。しかも、罵倒までされた。

 思考が追いつかない。


「よいか? 我は今、魔力が枯渇している。この仮初の脆弱な身体を捨て、高貴なる真の姿に再び戻るためにも魔力の回復が必要なのだ。故に、魔力回復に貴様が協力しろ」


 そこまで言ってから、男は深いため息を付いた。


「ここまで言わねばならんとは、まったく愚図だな」


 横柄な態度で二度も罵倒され、さすがに怒りがこみ上げる。慎重に質問していこうという心構えは、たちどころに消えた。


「おい、さっきから失礼な物言いだな。まず、お前はいったい何者なんだ!」


 怒りに任せて、いきなりこの取調べの核心をぶつけてしまった。


「なに? そんなことも分かっていないのか。まぁよい、封印を解いた褒美だ。特別に全て話してやろう」


 男はにやりと笑う。ぞくりとする様な不敵な笑みだ。


「我は、お前たち人間が言うところの“悪魔”だ」




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