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第7話 脱出へ

 駆け足で鉱洞を進む。地上に脱出できるエレベーターがある地点までは、あとは半分の所まで来ていた。

 全員、続く戦闘に疲弊していたが、赤いゴーレムを封じ込めた結界が長くもつという確証がないため、疲労の表情を浮かべながらも先を急ぐ。

 ただ一方で、、テロリストの目的は地下のレアメタルならば、こちらが撤退すれば執拗に追ってくることはない、とも考えていた。


 (ん? あれは……)


 曲がり角を曲がった時だった。

 メリッサの目に、先ほど暗闇の中で見た青白く光る球体が映った。

 幻覚でも見ているのだろうか……いや、あれは実在している。メリッサは心の内で、どういうわけだが、そう確信できた。

 球体は、ふわふわと空中を漂って、少し離れた先の角を曲がり、見えなくなった。


「……ヘルマン、今、光るものが見えなかったか?」


 メリッサは光る球体が気になり、移動しながらヘルマンに質問した。


「ん? そんなもん見えなかったが……おい、お嬢大丈夫か?」


 妙なことをきかれて、ヘルマンが訝しむ表情をしてメリッサを見る。戦闘のダメージが酷いのかと心配しているのだろう。へルマンは足を止めて、釣られて止まったメリッサをじっと眺めた。


「お嬢様? どこか怪我してるんですか? ま、まさか、さっきの敵の攻撃で……」

「い、いや、私は大丈夫だ。だ、だからマリア、そんなにマジマジと見ないでくれ……あと、腕をそんな強く掴まないでくれ……」


 マリアも心配そうな表情で、覗き込むようにメリッサを見つめる。

 至近距離で穴が開くかと思うほどに、あちこち見られる。

 メリッサにはいつものことではあるが、困って身を捩った。


「そうですか……何かあったら言ってくださいね」

「……ありがとう」


 メリッサがそう言うので、マリアは渋々、彼女から離れた。


(しかし、あの光は気のせいか? それとも私しか見えてないのか……)


 思案しているメリッサの真後ろに、いつの間にかアルレッキーノが立っていた。その奇行に、妹のロゼッタが質問を投げ掛ける。


「お兄ちゃん、何でお嬢様の後ろに並んでいるのかな?」

「え? お嬢の次は俺でしょ?」

「何が?」

「マリアちゃんの診察」


 ロゼッタが冷めた口調で淡々と問いかける。


「お兄ちゃんは元気だよね?」

「いや、診察が……」

「なら、ロゼッタが診察してあげるよ。はい、お薬出しておきましょうね」


 ロゼッタはそういうと、ゴム弾の装填された銃をアルレッキーノに向けた。


「け、結構です! お兄ちゃん、元気なので……さあ、先を急ごう!」


 再び脱出に向けて、鉱洞を走り進んだ。

 しかし、途中の分岐点で、再びメリッサは立ち止まった。

 先ほど光の球体が見えなくなった角だ。球体の消えた通路の先に目を凝らす。

 あの光は見えない、が、何か感じる……


「お嬢、脱出地点はこっちだぞ」


 ヘルマンが、違う進路をじっと見ているメリッサに声をかけた。


「……すまない! 先に脱出地点に向かっていてくれ」

「お、おい! お嬢っ!」


 メリッサは思い立った様に、突然、見つめていた方の通路へと走り出した。

 鉱洞内は静まり返っており、走るメリッサの足音だけが響く。岩肌に沿って、照明が点々と灯されているが、全体的に薄暗い。

 仄暗い影が残る床には、テロリストに殺されたであろう鉱員や警備兵の死体が転がっていた。

 あまり気分のいい場所ではない。

 そんな戦闘の傷跡が生々しく残る通路を、ある程度進んだところで、再び光る球体がメリッサの目に映る。


(やはり、あの光は気のせいじゃなかった)


 球体は、ふわふわと漂って、ゆっくり通路を奥へと進んでいる。しかし突然、一人の倒れている人間の上で止まった。

 倒れている人間が、生きているのかどうか、メリッサの位置からでは分からなかった。メリッサが追いつこうと、駆け足で距離を詰める途中、球体がふっと消えた。


「消えた……?」


 追いかけていた目標が急に消え、メリッサは驚き、戸惑った。球体が消えた場所に駆け寄り、辺りをきょろきょろと見渡すが、どこにも見当たらない。


「一体どこに……無駄足だったのか……」


 目の前で起こった不思議な現象に、メリッサがうろたえていた時だった。


「……うぅ……く……」


足元で何かが動く気配がした。

メリッサは驚きつつ、その気配の方へ視線を向けると、横たわっていた人間が呻きながら微かに動くのが見えた。


「せ、生存者か!? おい、大丈夫か?」

 

 生存者がいたことに驚きながらも、跪いて、足元の人物に声をかける。

 その男は、起き上がろうとゆっくり動き、仰向けの状態から体を起こした。


「お、おい、急に動くな! ケガはないのか?」


 メリッサが安否を気遣い声をかけるが、その男は寝起きのような焦点の定まらない目で、ぼうっとメリッサを見ている。

 男は、二十代半ばくらい。真っ黒の髪の毛とルビーの様に赤い瞳をしていたため、見た目から外国人であることはすぐに分かった。


「しっかりしろ、動けるか?」

「……あ、う……」


 男はメリッサの問いに、口を開くが、上手く言葉が出ないようだ。メリッサは、男が脳を損傷しているのではと不安がよぎったが、男は少しずつ言葉を紡ぎ始めた。


「あ……おい……ムスメ……ここは、ドコです?」

(なんだ? 随分ちぐはぐな言葉を話すな。外国人だからか? それと脳に損傷が……)


 メリッサが、生存者の妙な言葉遣いに戸惑って黙っていると、その生存者が再び口を開く。


「娘……我のことば……りかい……できる……のだろうか?」

「あ、ああ、すまない。お前の言っていることは分かる。ここは、鉱山の中だ」

「鉱山……」


 男の目に生気が戻り、真剣な表情で考え込む。


「それより、今はここを脱出しよう」


 そう言ってメリッサが、立ち上がるのを助けようと男の手を掴んだ時だった。

 

 ドクンッ


 メリッサは心臓の鼓動とは違う、身体の奥底で、別の大きな生物が身じろぎしたような衝撃を覚えて固まってしまった。


(何だ、今の衝撃は? 私の身体の内側からか?)


 自分の身体に起こった異変に、一瞬唖然としていたが、手を掴んでいる男のことを思い出し、彼を引き起こそうと視線を戻す。しかし、目の前の男も、彼女と同じように目を見開き、何かに驚いたような表情で固まっていた。

 あの衝撃を感じたのは、自分だけではないのだろか。メリッサは不思議に感じながらも、脱出を急いでいたので、質問せず男を立ち上がらせた。


「お嬢、ここにいたか!」


 ヘルマンが少し離れたところから声をかけ、走ってくる。先ほど別れた仲間も全員、ヘルマンの後に続いてやってきた。


「お前たち、先に行ってろと……」


 メリッサが言おうとした時、マリアがヘルマンを押しのけるようにして、メリッサの目の前に出てきた。そして眉間に皺を寄せて、メリッサを叱りだした。


「お嬢様! あなたを置いて先に行けるわけがないでしょう! 勝手な行動はやめてください!」

「……す、すまない。どうしても気になることがあって……」


 メリッサは叱られた子供の様に、しゅんとして目を伏せた。


「まぁまぁ、無事にお嬢とも合流できたわけだし。マリアちゃん、ほら脱出を急がないと」


 様子を見ていたアルレッキーノが、お説教が白熱しそうなマリアを宥める。マリアはまだ説教し足りない様であったが、渋々引き下がった。


「おや、お嬢。そちらさんは、生存者ですかい?」

「あ、ああ。彼も連れて脱出しよう。残念ながら、彼以外は、生存者はいなさそうだ」


 アルレッキーノの助け舟に、内心、お説教を免れてほっとしつつ、顔に出さないよう真剣な顔を保つ。


「さて、歩けるか? えっと、名前は……」

 

 メリッサは生存者の男の方に振り向いて、質問しようとしたとき、当然、鉱洞が地鳴りとともに揺れた。


「なんだ!?」


 まだ戦闘がどこかで続いているのか。いや、それはない、では鉱洞が崩落でもしたか。

 それとも……

 考えている間にも、揺れは断続的に続いた。

 胸がざわつく。


 揺れの感覚は短くなり、地鳴りの音は確実に大きくなっていく。

 メリッサの心臓が、不安に大きく速く動いた。

 そして、今までで一番大きな地鳴りと揺れが起き、次の瞬間、それは飛び出してきた。

 通路の岩の壁を吹き飛ばし、その中から、あの赤いゴーレムが飛び出してきたのである。


「何だと!? 私たちを追ってきたのか!」


 メリッサは、驚きと共に自分の読みが間違っていたと思い知った。

 彼女の考えでは、自分たちが撤退さえすれば、レアメタルが目的である敵は追ってこないと考えていたからだ。しかし、実際には、赤いゴーレムは追ってきた。

 岩の壁をも破壊しながら、最短ルートで自分たちに迫る敵の執念に、彼女はぞっとするとともに、目の前にいる機械仕掛けの人形が、まるで得体の知れない化け物のように感じられた。



先日、初めてのブックマークを頂きまして、小躍りして喜んでしまいました。

つけてくれた方、本当にありがとうございます。

引き続きご感想などもお待ちしております。


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